ハイエルフ少女と三十路弱者男の冒険者ワークライフ ~最初は弱いが、努力ガチャを引くたびに強くなる~

スィグトーネ

文字の大きさ
上 下
21 / 43

19.達成報酬と新たな仲間

しおりを挟む
 入浴を終えて休憩室に戻ると、まだメリザンドは待機していた。
 やはり冒険者世界は男尊女卑の考えが根強いため、メリィも気を遣って僕たちを先に入浴させたのだろう。

「気を遣わせてしまってすまないね」
「いいえ。先に入って頂いた方がゆっくりできますので……」
 彼女はそう言いながら、どこかルンルンとした様子でギルドの露天風呂へと向かった。普段一緒にいるアパートではシャワーくらいしか浴びられないから、今日くらいはゆっくりと身体の疲れを取って欲しい。

「ちょうどいいところにいたね、リューノ君……」
 そう呼び止めたのはギルド長だった。
 彼は、すでに他のパーティーメンバーの取り分を決めており、僕の分も割り振っていた。

 どうやら、僕の取り分はハンターの男性と同じ金額だった。新人なのに彼と同じ金額なのは、スライムの捕獲で一役買ったからだという。

 というか……メリィはともかく、僕が貰えることに驚いた。
 こういう中世世界となると、有力者に上前を全てはねられて、末端の戦士や新人の手元には雀の涙さえも残らないなんてことがザラにあると思ったからだ。

「ギルド長や隊長の役職の人が2割しか取らないなんて珍しいよな。普通は3割……酷いときは半分くらい持って行くこともあるんだぜ?」
 ハンターの男性が言うと、ヒョウ族の双剣士も頷いた。
「本当に末端の戦士って、ぞんざいに扱われるもんな」

 やはり、彼らから話を聞くと、新人や末端の戦士はほとんど謝礼は貰えないらしい。
 それでも、隊長やギルド長について行くのは、スキルアップのためだったり、休日中に内職代わりに個人や少人数のチームメイトとクエストを受けることを黙認してくれるからだという。


 メリザンドが風呂から出ると、僕たちは木の中にあるアパートへと戻ることにした。
「今日も1日お疲れ様」

 そう労うと、メリィは少し疲れた表情をしていたけれど、微笑んでくれた。
「色々なことがあって大変でしたね……だけど、前にあなたの仰っていた通り、クレバスを直に見れたのが何よりもの収穫だと思います」

 僕は彼女の肩口を見ると、少し心配になった。
「ところで、吸血鬼に噛まれた場所……なにか異常を感じたりはするかい?」
 質問をすると、メリザンドは自分の肩にそっと手を触れた。
「……特にこれと言って問題はありません」
「それは良かった!」


 僕がメリザンドと、お互いの生存を喜び合っているとき、冒険者街のあるギルドでは、ある少女が冒険者から性的な嫌がらせを受けていた。
 性的な嫌がらせと言っても、尻を触られたり、女と言えばお茶くみ……のような、ふた昔前の日本で見られたようなステレオタイプのセクハラではない。

 部隊の成功報酬を分けて欲しければ、俺と付き合えと部隊長から言われるようなレベルである。ちなみにその隊長にはすでに妻と子もいて、付き合えば不倫の関係になるような状況だ。
「お断りします!」
 その少女が答えると、隊長は言った。
「じゃあ、テメーはクビだ! 今すぐに寮からも出て行きやがれ!」
「……今まで、お世話になりました」


 当然のことながら、この中世のような世界に労働者を守るような法律も、労働組合もない。
 ギルドの上層部や、警察の代わりにいる兵士たちに掛け合っても、クビになるようなことをしたお前が悪いと言われて終了なのだ。
 冒険者社会というのは、モラハラ男の凶暴さと粗暴さを濃縮したような世界と先輩たちも言っていたが……こういう話を聞くと、本当にその通りだと思う。

 その少女は、まもなくつまみ出されると、今にも泣きそうな顔をしながら夜の冒険者街を歩いていた。当然のことながら、彼女に救いの手を差し伸べるようなギルドも冒険者もいない。
 その足取りのまま、冒険者街の外れまで来たとき、森の藪が動き……中から何かが現れた。

「……えっ!? な、なに……?」
 姿を現したのはなんと一角獣だった。黒い毛並みをした一角獣は青々とした角を光らせながら少女に声をかける。
『キュウーン、ググググググ……』

 これは野生のボス馬が、群れからはぐれそうになっているメスに対して使う鳴き声である。
 人間の言葉に直すと、こらこらどこに行くんだ? ここから先に行くと食べられちゃうぞ。と言ったところだろうか。
 
 その少女は瞳に涙をためると、やがて身体を震わせて泣きはじめた。
 すると、その一角獣はそっと寄り添い、少し落ち着くのを待ってから彼女を案内していく。


 なぜ、こんな話を僕がしているのかといえば、その少女と一角獣のやり取りをテレビ越しに眺めていたからだ。
 2人で頷くと、木の外へと出て……そこで僕たちは一角獣や少女と対面した。

 少女は画面で見た通り、有翼人だった。
 一角獣は僕たちの姿を見ると、少女に優しく声をかけてからゆっくりと立ち去っていく。ここまでお膳立てしたのだから、あとは自分で何とかしろということなのだろう。


 僕としては一角獣とも話をしたかったのだが、彼は遠目で見ているだけで、僕たちが対応している間に帰ってしまっていた。

【有翼人の少女】
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

眺めるだけならよいでしょうか?〜美醜逆転世界に飛ばされた私〜

波間柏
恋愛
美醜逆転の世界に飛ばされた。普通ならウハウハである。だけど。 ✻読んで下さり、ありがとうございました。✻

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

処理中です...