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8.弱小ギルドの仕事
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受付嬢ソフィアは、僕を見ると言った。
「クレバスに入るような仕事をしたいのですか……」
「はい。そういうモノはないでしょうか?」
「リューノさんやメリィさんは、まだまだ経験が浅いですから、もっと実力がついてからでないとこちらも紹介できません」
そう簡単にはいかないようだが、メリザンドの病気……というか呪いのことを考えると、そんなにのんびりと構えてはいられない。
なるべく積極的にクエストをこなすしかなさそうだ。
「じゃあ、今の段階で斡旋できる仕事の中で……比較的難しいものは?」
「そうですね。いくつかありますが……メリィさんがいるので……」
彼女の出したクエストは、収集系のモノが多かった。
「やはり、薬草やキノコなどの収集がいいと思うのですが、いかがでしょうか?」
「薬草なら得意ですが、キノコは専門外です。どうしても似ているモノが多くて見分けがつきません」
「なるほど。それなら……これなどいかがでしょう?」
その依頼状は、ダンジョンに生えている【野生のケレス草】を回収するモノだった。
このケレス草という草自体がダンジョンでしか生えずに生産できないため、冒険者たちはいつでも求めているようだ。
「20株で大銀貨1枚と小銀貨5枚……どれくらいなんだろう?」
どれくらいの金額なのだろうと思っていたら、脳裏にコインの金額が浮かび上がってきた。
プラチナ貨 1000万円
大金貨 100万円
小金貨 10万円
大銀貨 1万円
小銀貨 千円
銅貨 百円
どうやらプラチナ貨というのは、ツーノッパ王国が海外で取引するために使っている最高硬貨のようだ。
僕たちのような一般市民がお目に書かれるのは小金貨までで、これも家とかウマと言った大きなモノを買う時しか使わないと女神さまが教えてくれている。
ちなみに、この金額は物価を考慮して彼女が判断してくれたものだから、実際には世界情勢によって変動はするようだ。
「…………」
つまり依頼主は、ケレス草を1株1000円で欲しがっている訳か。ギルドの取り分が25パーセントだから、僕たちの手元には15000円が来ることになる。
何だか悪くない仕事だが、メリィはどう思っているのだろう。
視線と向けると、彼女も納得したのか頷いていた。
「ではこれを、引き受けます!」
「わかりました。3日以内に集めて、この受付まで持ってきてください」
僕たちは外に出ると、そのまま冒険者街の門まできた。
門番はチラッと僕たちの胸のバッジを見るとすぐに頷いて通してくれた。どうやらこの樹海に繋がる門は、冒険者ギルドに属していると顔パスのようだ。
森の中に入ると、メリザンドは言った。
「ケレス草ですが、森の中でも泉や湧き水の側に生えていることが多いです」
「なるほど……護衛役になれるかはわからないけど、お供させてもらうよ」
僕はメリザンドの隣を歩きながら森の中を進んだ。やはりエルフの樹海ショートカット能力は凄い。
まるで野原でも歩くように進んでいき、泉の側まできた。
「普通の冒険者なら、ここに来るだけでも命がけなんだろうね」
「そうですね。途中で何度か危険な獣道もありました。特にクマの進行ルートには注意が必要です」
クマという話を聞いて、僕は生唾を呑んでいた。
写真やニュースなどでその姿を見たことがあるが、画面越しでもクマは威圧感がある。それがもし目の前に現れたとしたら……かなりの恐怖を感じるだろう。
というか僕、イノシシとかイヌでも怖いと感じたからなぁ……
「あ、ありましたね……これです。この草がケレス草です!」
「あと19株だね。これなら夕方くらいまでには終わるかな?」
そう答えると、メリザンドは得意そうな表情で言った。
「違いますよあなた。もう……このクエストは達成したも同然です」
あなたという呼び方に、少し嬉しくなった僕がいたが、クエスト達成という言葉には疑問符が付いた。
たった1株見つけただけだというのに、その言い方はさすがにオーバーじゃなかろうか。
「ど、どういうこと?」
「では、ご説明します……」
彼女は腰を下ろしてからケレス草に触れた。
そして指先に霊力を集中させていくと、なんと……ケレス草がまるで早送り再生でもされるように成長していって、次々と株を増やしていくのだ。
彼女は何と、1株を25株まで増やしていた。
「す、凄い……!」
そう心から伝えると、メリザンドは嬉しそうに頬を赤らめていた。
「すべては大地の精霊のお力添えがあってのことです。後でお祈りをしなければ……」
きっとこれほど株が増えるのだから、彼女は毎日のように精霊に祈りを捧げているのだろう。そう思わせるような収穫ぶりだ。
さてメリザンドだが、20株を回収すると残った5株のケレス草は、そのまま大地に残していた。
よく見ると25株のうち、特に大きくて葉や茎のしっかりしたモノだけを選んで残しているようにも感じる。ある意味のピンハネだが……これを持ち帰ろうとは思わないのだろうか?
「どうして、立派なケレス草を残していくんだい?」
「それは、大地の精霊に対してのお礼です。無理を聞き入れて下さったのですから、せめて立派なケレス草を彼女のために残していきたいと思います」
その話を聞いて、なんとなくだけど、彼女が大地の精霊に可愛がられている理由がわかる気がした。
せっかく便宜をはかってあげても、無遠慮に全部を持ち去ったり、貧相な株だけ要らないと突き返すような人間なら、神様だって二度と支援をしたくないと思うだろう。
せっかくなので、僕も泉の水を手で掬うと、残った5株のケレス草にあげることにした。
「いつかここも、ケレス草が群生するような泉になるといいね」
「そうですね。そうすれば……傷ついた冒険者や動物が、ケガを治すような森の薬屋になるかもしれません」
【泉の周り】
「クレバスに入るような仕事をしたいのですか……」
「はい。そういうモノはないでしょうか?」
「リューノさんやメリィさんは、まだまだ経験が浅いですから、もっと実力がついてからでないとこちらも紹介できません」
そう簡単にはいかないようだが、メリザンドの病気……というか呪いのことを考えると、そんなにのんびりと構えてはいられない。
なるべく積極的にクエストをこなすしかなさそうだ。
「じゃあ、今の段階で斡旋できる仕事の中で……比較的難しいものは?」
「そうですね。いくつかありますが……メリィさんがいるので……」
彼女の出したクエストは、収集系のモノが多かった。
「やはり、薬草やキノコなどの収集がいいと思うのですが、いかがでしょうか?」
「薬草なら得意ですが、キノコは専門外です。どうしても似ているモノが多くて見分けがつきません」
「なるほど。それなら……これなどいかがでしょう?」
その依頼状は、ダンジョンに生えている【野生のケレス草】を回収するモノだった。
このケレス草という草自体がダンジョンでしか生えずに生産できないため、冒険者たちはいつでも求めているようだ。
「20株で大銀貨1枚と小銀貨5枚……どれくらいなんだろう?」
どれくらいの金額なのだろうと思っていたら、脳裏にコインの金額が浮かび上がってきた。
プラチナ貨 1000万円
大金貨 100万円
小金貨 10万円
大銀貨 1万円
小銀貨 千円
銅貨 百円
どうやらプラチナ貨というのは、ツーノッパ王国が海外で取引するために使っている最高硬貨のようだ。
僕たちのような一般市民がお目に書かれるのは小金貨までで、これも家とかウマと言った大きなモノを買う時しか使わないと女神さまが教えてくれている。
ちなみに、この金額は物価を考慮して彼女が判断してくれたものだから、実際には世界情勢によって変動はするようだ。
「…………」
つまり依頼主は、ケレス草を1株1000円で欲しがっている訳か。ギルドの取り分が25パーセントだから、僕たちの手元には15000円が来ることになる。
何だか悪くない仕事だが、メリィはどう思っているのだろう。
視線と向けると、彼女も納得したのか頷いていた。
「ではこれを、引き受けます!」
「わかりました。3日以内に集めて、この受付まで持ってきてください」
僕たちは外に出ると、そのまま冒険者街の門まできた。
門番はチラッと僕たちの胸のバッジを見るとすぐに頷いて通してくれた。どうやらこの樹海に繋がる門は、冒険者ギルドに属していると顔パスのようだ。
森の中に入ると、メリザンドは言った。
「ケレス草ですが、森の中でも泉や湧き水の側に生えていることが多いです」
「なるほど……護衛役になれるかはわからないけど、お供させてもらうよ」
僕はメリザンドの隣を歩きながら森の中を進んだ。やはりエルフの樹海ショートカット能力は凄い。
まるで野原でも歩くように進んでいき、泉の側まできた。
「普通の冒険者なら、ここに来るだけでも命がけなんだろうね」
「そうですね。途中で何度か危険な獣道もありました。特にクマの進行ルートには注意が必要です」
クマという話を聞いて、僕は生唾を呑んでいた。
写真やニュースなどでその姿を見たことがあるが、画面越しでもクマは威圧感がある。それがもし目の前に現れたとしたら……かなりの恐怖を感じるだろう。
というか僕、イノシシとかイヌでも怖いと感じたからなぁ……
「あ、ありましたね……これです。この草がケレス草です!」
「あと19株だね。これなら夕方くらいまでには終わるかな?」
そう答えると、メリザンドは得意そうな表情で言った。
「違いますよあなた。もう……このクエストは達成したも同然です」
あなたという呼び方に、少し嬉しくなった僕がいたが、クエスト達成という言葉には疑問符が付いた。
たった1株見つけただけだというのに、その言い方はさすがにオーバーじゃなかろうか。
「ど、どういうこと?」
「では、ご説明します……」
彼女は腰を下ろしてからケレス草に触れた。
そして指先に霊力を集中させていくと、なんと……ケレス草がまるで早送り再生でもされるように成長していって、次々と株を増やしていくのだ。
彼女は何と、1株を25株まで増やしていた。
「す、凄い……!」
そう心から伝えると、メリザンドは嬉しそうに頬を赤らめていた。
「すべては大地の精霊のお力添えがあってのことです。後でお祈りをしなければ……」
きっとこれほど株が増えるのだから、彼女は毎日のように精霊に祈りを捧げているのだろう。そう思わせるような収穫ぶりだ。
さてメリザンドだが、20株を回収すると残った5株のケレス草は、そのまま大地に残していた。
よく見ると25株のうち、特に大きくて葉や茎のしっかりしたモノだけを選んで残しているようにも感じる。ある意味のピンハネだが……これを持ち帰ろうとは思わないのだろうか?
「どうして、立派なケレス草を残していくんだい?」
「それは、大地の精霊に対してのお礼です。無理を聞き入れて下さったのですから、せめて立派なケレス草を彼女のために残していきたいと思います」
その話を聞いて、なんとなくだけど、彼女が大地の精霊に可愛がられている理由がわかる気がした。
せっかく便宜をはかってあげても、無遠慮に全部を持ち去ったり、貧相な株だけ要らないと突き返すような人間なら、神様だって二度と支援をしたくないと思うだろう。
せっかくなので、僕も泉の水を手で掬うと、残った5株のケレス草にあげることにした。
「いつかここも、ケレス草が群生するような泉になるといいね」
「そうですね。そうすれば……傷ついた冒険者や動物が、ケガを治すような森の薬屋になるかもしれません」
【泉の周り】
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