ハイエルフ少女と三十路弱者男の冒険者ワークライフ ~最初は弱いが、努力ガチャを引くたびに強くなる~

スィグトーネ

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2.エルフの少女との出逢い

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 こうして魂だけとなった僕は、女神の手の上に乗せられていた。
『では、今から異世界に行くわけですが……私から幾つか贈り物をしたいと思います』
「おお、もしかして……チート能力?」

 そう聞き返すと、女神は苦笑しながら答えた。
『残念ながら、私のような下級神族では、アニメやライトノベルのような無双能力は授けられません』
 彼女はそう言いながら、見覚えのある箱を差し出した。

「……これは?」
『貴方用に作った特製おみくじです。ゲームなどではガチャというモノがありますが、基本的にはあれと同じです。努力をすることで引けるようになります』

 な、なるほど。努力をすればガチャれるのか。
 何だか社畜の僕にはピッタリな能力に思えるぞ。
「ちなみに、僕が努力しまくってクジが無くなったら?」
『その都度、補充するようにしてありますので大丈夫ですよ』


 そのガチャというか御神籤の箱を受け取ると、女神はにっこりと笑った。
『では東龍之介……異世界に行って、まずは良い奥さんを得なさい』
「は、はい……」
『これから行く世界では、我々は精霊という扱いになります……なので、精霊への信仰もぜひよろしくお願いします』
「わ、わかりました」
 まあ、あれだけ悪口を言ったのだから、それくらいはしないと女神様に悪い気がする。

 そんなことを考えていると、目の前が真っ白な光に包まれ、僕は目を瞑っていた。

――――――――
――――
――



 そっと目を開けると、僕は何かを踏みつけていた。
 周囲は昼間で、森の中にいるようだが、一体何を踏んでいるのだろう。

 視線を下げると、僕は何と人間……それも山賊っぽい恰好をした男を踏みつぶしている。一体何だこれはと思ったとき、後ろから声が聞こえてきた。
「あの……貴方は?」

 振り返ると、そこにはエルフの少女がいた。
 しかし、彼女は後ろ手縛りにされ、連行されている最中という雰囲気だったのである。


 僕は瞬間的に、踏みつぶしていた山賊から剣やナイフを取ると、少女を縛っていた縄を切った。
「ありがとうございます……」

 お礼なんて聞いている場合ではない。
 僕は更に山賊から、お金や上着などをはぎ取っていると、エルフの少女も負けじと山賊から白い衣服を奪い返していた。これはどうやら、ローブの上着のようなもののようだ。
「よし、コイツを縛り付けよう」
「手伝います。私を縛っていた縄を使ってください」
「うん!」

 山賊を木に縛り付けると、僕は偶然助けたエルフの少女を見た。
 少女の年齢は10代後半から、せいぜい20という感じだ。身長は少し高めで160~165。紫色の髪が美しく、耳を隠すためなのか白いフード付きのローブを被っている。

 この長い耳なら、多くの物音を感じ取れる気がする。
「……近くにコイツの仲間は?」
「気配は遠いですが、早く離れた方がよさそうです」
「わかった。急ごう」

 まだ状況はイマイチ呑み込めないが、急いでこの場を離れることにした。


 エルフ少女の力なのか、彼女の側を歩いていると、下草や低木が勝手に動いて細い道ができていた。
 周知を見渡すと、僕の背丈くらいの草木が生い茂っているので、僕一人では少し移動するだけでも、一苦労することがわかる。
「凄いね……これ、君の力なのかい?」
 少女は照れながら答えた。
「は、はい。私たちエルフには……森渡りという特殊能力があります」

 森渡りか……なんて思いながらエルフの少女の顔を間近で見ると、とても可愛かった。
 顔立ちが整っているだけでなく、知性を感じさせる雰囲気と、男性を立てようと一方後ろを歩いている姿は、僕が大好きな大和撫子に通じるモノを感じる。

 正直言って、今すぐに彼女にしたいレベルの女の子だけど、何の脈絡もなくそんなことをすればただのヘンタイだ。僕はなるべく気を落ち着かせながら答えた。
「……な、なるほど。森渡りなんだね……」


 彼女はチラチラと僕を見ながら言った。
「先ほどは、助けて頂いてありがとうございます」
「いや、たまたまだよ……本当に足元にあの男がいただけだったから」
 そのエルフの少女は、顔を少し赤らめている。

「それに、強い霊力をお持ちですね……」
 霊力と聞いて、僕は自分の身体から流れているエネルギーのことだと察しがついた。隣を歩いているエルフの少女の方が強い霊力を持っているのだけど、そんな彼女からそう言ってもらえるのは嬉しい。
「あ、ありがとう……君こそ、凄く強い霊力だよね」
「私は……いいえ、ありがとうございます」


 しばらく森の中を歩いていると、エルフの少女は僕を眺めてきた。
「ここまで距離が開けば大丈夫でしょう」

 それはそうだと思った。いくら山賊たちでも、このうっそうとした森を自由に走り回ることはできないだろう。少し安心してから視線をエルフの少女に戻すと、彼女は真剣な顔をしていた。
「ところで、旅の方……お名前は何と?」
「東龍之介というよ」

 その言葉を聞いたエルフの少女は、耳をピンとたてて頬を赤らめた。すると、彼女の白いローブまで桃色に変化していく。
 一体、どうしたのだろう。
「そ、それは……あなたのフルネーム……でしょうか?」
「そ、そうだけど……」

 エルフの少女は、顔を真っ赤にしたまま僕を見ている。
「なんて情熱的で……大胆な……」
「え……?」

 そう聞き返すと、エルフの少女は真剣な表情で僕を見つめてきた。
「わかりました。このメリィ……喜んで、あなた様の妻になります!」

 その言葉を聞いた僕は、ポカンとしたまま彼女を眺めていた。
 もしかして、この世界って……フルネームを婚約者以外に言ってはいけない世界だったのか!?

【主人公が賊を潰した瞬間】

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