ハイエルフ少女と三十路弱者男の冒険者ワークライフ ~最初は弱いが、努力ガチャを引くたびに強くなる~

スィグトーネ

文字の大きさ
上 下
1 / 43

1.上司の敗北宣言

しおりを挟む
 僕の名前は東龍之介。
 今年で30になる非正規男だ。そんな非正規男はいま居酒屋の隅にいる。

 同じ席には職場の上司がいるのだが、この人は僕の収入の倍以上を稼ぐ管理職の正社員だ。仕事もわかりやすく教えてくれるし、困ったときには何度も助けてくれた。
 だから、グチくらいは聞いてあげるべきだと思っていたのだが……開口一番に凄いことを言ってきたのである。


「俺さ……婚活諦めることにしたよ……」
「え……!?」
 いやいや待ってくれと思っていた。アンタの年収は500万円くらいはあるはずだ。32歳で500万はなかなか稼いでいる方だし、身長も180センチ近いし、男の僕から見てもカッコいい男性だと思う。
 そんな男性が、婚活を諦めるなんて……ただ事ではない。

「勿体ないっ……! 何かあったんですか?」
 勿体ないという言葉を聞いて、職場の上司は少し嬉しそうな顔をしたけれど、すぐに深刻そうに目の前のグラスを眺めていた。
「この前に……結婚相談所でお見合いをしたんだけど、相手がさ……」
「相手が、どうしたんです?」
「年上の女の人と会ったんだけど、年収が低いだの、女性をエスコートする態度がダメだの、出世する見込みはあるかだの、店を選ぶセンスがないだの、女性にお金を払わせるなんて信じられないだの……」


 ああ、要するに上司さんは、婚活界隈にいるという気性の荒い女を引いてしまったというわけか。
 だけど、女性にお金を払わせるというくだりが引っかかった。彼とはよくこうして飲みに来るが、いつも多めに払ってくれているからだ。
「鈴木さんのことだから割り勘じゃありませんよね?」
「うん、5300円くらいの会計だったから、5000円札を出して残りを頼んだんだ……そうしたら……」

 僕は思わず、呑んでいたお酒を噴き出しそうになった。
「ちょっと待ってください! 300円も払えないんですか……!」
「ああ、女性は服とか化粧とかにお金がかかるんだから、全額を払えってね」
「ありえねえ!! そんなのと結婚しなくて正解ですよ!」
「そ、そうかな……?」
「そうですよ! そんなのと結婚したら、鈴木さんの将来が滅茶苦茶になりますよ!!」

「そう言ってくれるのは嬉しいけど、今回だけじゃないんだよこれ……」
「と、いいますと?」
「3度目なんだ……婚活パーティーにも行ってみたけど、似たような女の人ばかりで……安月給とか、工場勤務なんて底辺だとか、あり得ないと笑われたんだ」
「…………」


 その話を聞いて、僕は頭を抱えたくなった。
 こんな非正規にだって正社員になって、管理職に出世すれば結婚も可能かと心の中では思っていた。だけど、世の中はそんなに甘くはないようだ。

 居酒屋を出ると、上司はどこかすっきりした顔で言った。
「東君。今日はグチを聞いてくれてありがとう!」
「いいっすよ。いつも鈴木さんにはお世話になってるじゃありませんか!」
「週明けからも頑張っていこう!」
「ええ、お気をつけてお帰りください」

 こうして上司と呑んでいるときは楽しかったが、いざ独りになると寂しさが波のように押し寄せてきた。
「…………」
「…………」
 自分の中では鈴木主任は、かなり出来る人間だった。それほどの人物でも結婚を諦めたという事実は、僕にとっては自分は逆立ちしても結婚できないと宣告されているに等しい。
「どうなってるんだよ……この世の中は……」


 確かに、たまたまハズレばかり引いたとか、鈴木主任の選んだ結婚相談所がまずかったという考えも出来なくはないが、そもそも無能な僕にとって、年収200万円の僕にとっては、年収500万円という収入を得ること自体が無理難題だ。

 酔ったままフラフラと歩いていると、神社の前に立っていた。
「……あれ? こんなところに神社なんてあったっけ?」


 そう呟くと、不思議な感覚に囚われていた。
 見たところ無人の神社のようだが、何だか怖いもの見たさというのだろうか、夜の神社というモノを拝んでみたくなっていた。
 この神社が、縁結びの神様として有名だから……というのも理由かもしれない。

「そんなに酔っ払ってもいないし、少し参拝と行くか」
 後から考えてみると、しっかり酔っ払っていると言いたくなるところだが、意外と酔っているときは酔っていないと思うものなのである。
 ゆっくりした足取りで階段を上っていくと、神社本殿などがあった。質素な造りだが、それがまた風情があっていいモノだと思う。
「これは……一見すると地味だけど、実力のある神様とお見受けした!」


 なに調子に乗ってるんだよと突っ込みたくなるだろうが、酔っ払いとはこのようなモノである。僕という名のバカは更に調子に乗った発言をする。
「だけど、これほどの神様でも、僕を結婚させることなんて不可能だろうね! こんな非正規オッサンが結婚できるとしたら、異世界に行ったときくらいだろうな」

 冗談半分にそう言って笑っていると、何だろう……鈴の音色が響いた気がした。
『全く、ひどく酔っぱらって……こんなところでバカなことを言っていないで、早く家に帰って休みなさい』


 どこからともなく現れた巫女姿のケモミミ女性は、美人系の人だったけれど正確な姿が認識できない。
 だからかはわからないが、つい反抗したくなって煽っていた。

「全く、母ちゃんみたいなこと言わないでよ~ダメガミさん!」
「なにが、ダメガミですか、この千鳥足!」
「あ~あ、美人で羨ましいよな……僕も整った顔に生まれたかったよ……まあ、僕なんかじゃ顔が良くても結婚なんて1000パーセント無理だけど……」

「…………」
「生まれてくる時代を間違えたよな。時代ガチャってやつ?」

 そう伝えると、その女神はにっこりと笑った。
『そこまでいうならわかりました。しっかりと願い通りに段取りを整えてあげるから、たくましい男になりなさい』


 その直後に、雷のようなものが降り注いで僕は意識を失うと、その女神様は少し考えてから言った。
『あ……このままだと、上司の鈴木主任に迷惑がかかりますね』

「…………」
「…………」
『そうだ。御霊を複製して、片方を異世界に……もう片方を現世に残したままにすれば何も影響はありませんね。これでいきましょう!』

 その言葉を聞いたとき、僕はとんでもない相手に悪態をついたことに気がついた。
 赦してくれるかはわからないが、きちんと謝罪はしておいた方がいい。

『ごめんなさい。貴女様はやはりダメガミなんかではありません』
『いいえ。貴方の言った通り私はダメな女神ですよ。日本人がどんどん減っているのは、私たちの不徳が原因です』

 そう言いながら女神は魂をコピーすると、片方を僕の身体に戻し、もう片方を異世界へと転送した。そしてオリジナルの僕はもちろん……異世界へ行くことになったのである。

【神社で会った女神】
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

眺めるだけならよいでしょうか?〜美醜逆転世界に飛ばされた私〜

波間柏
恋愛
美醜逆転の世界に飛ばされた。普通ならウハウハである。だけど。 ✻読んで下さり、ありがとうございました。✻

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

処理中です...