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5.ミライの初陣
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ホースレースにエントリーから3日後。
私たちは、ツーノッパ王国が管理するレース会場に来ていた。場所は思っていた以上に整えられているから、中世というよりも近代のファンタジー世界という感じがする。
さすがに未勝利戦となると観客席もまばらで、カップル同士でイチャイチャしていたり、レースそっちのけで賭けトランプをしていたりと、集客に困っている地方競馬場さえ真っ青になりそうな光景だった。
さて私は、ライトオブハート号に乗ってパドックという場所をグルグルと回っているのだけど、ライト号はライバルウマたちの様子を眺めていた。
「ライバルは7頭……ミライは打ち合わせ通りに乗ってくれればいいよ」
「う、うん……わかった」
間もなく入場と準備運動が始まると、私は一般的な騎手のポーズである【モンキー乗り】を披露した。
どうやら、この時代の乗り手たちは普通に乗馬することが一般的みたいで、私の乗り方を驚いた様子で眺めている。
そして観客たちは、私を指さして一斉に笑いはじめた。
「おいおい……何だあの東方女!」
「猿みたいな乗り方じゃねーか!」
「何だ何だ、ウケ狙いか!?」
「気にしないでね」
「わかってるよ」
全てを捨ててでも騎手になったんだ。笑われるのが怖いからって、勝つ確率の下がるような乗り方をするようじゃジョッキーじゃない!
そう思いながらライトオブハート号の準備運動を終えた。
この中近代の世界に発馬機はないから、私たちはスタートラインに一列に並ぶと、くつろいでいた観客たちもレースへと注目していく。
「…………」
「…………」
ツーノッパ王国未勝利戦。距離は約1600メートル。楕円形のコースを半周。反時計回り。
係員が赤い旗を挙げると、ライト号と7頭のライバルたちが一斉に走り出した。
ライト号は最後尾の8番目を走る。
先頭のウマが400メートルほど走ったところで、先頭から最後尾までは9馬身。だいたい21~22メートルくらいの差だと思う。
次々と馬群が最初のコーナーに入り込んでいくと、ライト号も入ったが彼はまだ動かない。
先頭のウマが800メートル地点を越えて第2コーナーに入った。後続のウマたちも次々と入っていくけれど、ライト号はまだ最後尾。
先頭のウマが第2コーナーを越えて最後の直線500メートルに入った。だけどまだライト号は……
「行くよ」
「え、ええ!」
ライト号はペースを一気に上げた。これは……間違いなく追い込みという走り方だ。
残り470メートルで7番手になり、430メートルで6番手に、415メートルで5番手。405メートルで4番手。380メートルで3番手。
ここまで追い上げたライト号は、更に一段ギアを上げるように脚さばきを鋭くしていく。
2番手と3番手の間には距離が空いていたけれど、320メートルの地点で影を捕まえ、300メートルで並びかけ、280メートルで完全に逆転した。
だけどまだライト号の追撃は止まらない。
さらに前にいるウマに向かって行くと、255メートルで影を踏み、240メートルで並び、ここで相手は頑張ったけれど、210メートルで完全に抜き去った。
このままライト号はペースを下げることなく、グングンと後続馬たちを置き去りにしていった。
ゴールポストを通過した時、2番手のライバルは30メートルくらい後ろにいた。
先ほどまで私を指さして笑っていた観客たちは、目を見開いて私たちを眺め、そして口々に「あの女は誰だ!?」と驚きの声を上げている。
「見て……ミライをバカにしていた連中の顔。青ざめているよ?」
「うーん……私としては、そんなことよりもライト号がケガなく勝てたことの方が嬉しいかな?」
「確かにウマのケガって怖いからね。でも、小生はこれでも力半分だよ?」
ああ、それはライト号の態度を見て分かっていた。
レースをした後にこうやっておしゃべりが出来ているのって、本当に力半分で勝てないと出来ないもんね。
こうして私とライトオブハート号は、つまづくことなく初陣を勝つことができた。
私たちは、ツーノッパ王国が管理するレース会場に来ていた。場所は思っていた以上に整えられているから、中世というよりも近代のファンタジー世界という感じがする。
さすがに未勝利戦となると観客席もまばらで、カップル同士でイチャイチャしていたり、レースそっちのけで賭けトランプをしていたりと、集客に困っている地方競馬場さえ真っ青になりそうな光景だった。
さて私は、ライトオブハート号に乗ってパドックという場所をグルグルと回っているのだけど、ライト号はライバルウマたちの様子を眺めていた。
「ライバルは7頭……ミライは打ち合わせ通りに乗ってくれればいいよ」
「う、うん……わかった」
間もなく入場と準備運動が始まると、私は一般的な騎手のポーズである【モンキー乗り】を披露した。
どうやら、この時代の乗り手たちは普通に乗馬することが一般的みたいで、私の乗り方を驚いた様子で眺めている。
そして観客たちは、私を指さして一斉に笑いはじめた。
「おいおい……何だあの東方女!」
「猿みたいな乗り方じゃねーか!」
「何だ何だ、ウケ狙いか!?」
「気にしないでね」
「わかってるよ」
全てを捨ててでも騎手になったんだ。笑われるのが怖いからって、勝つ確率の下がるような乗り方をするようじゃジョッキーじゃない!
そう思いながらライトオブハート号の準備運動を終えた。
この中近代の世界に発馬機はないから、私たちはスタートラインに一列に並ぶと、くつろいでいた観客たちもレースへと注目していく。
「…………」
「…………」
ツーノッパ王国未勝利戦。距離は約1600メートル。楕円形のコースを半周。反時計回り。
係員が赤い旗を挙げると、ライト号と7頭のライバルたちが一斉に走り出した。
ライト号は最後尾の8番目を走る。
先頭のウマが400メートルほど走ったところで、先頭から最後尾までは9馬身。だいたい21~22メートルくらいの差だと思う。
次々と馬群が最初のコーナーに入り込んでいくと、ライト号も入ったが彼はまだ動かない。
先頭のウマが800メートル地点を越えて第2コーナーに入った。後続のウマたちも次々と入っていくけれど、ライト号はまだ最後尾。
先頭のウマが第2コーナーを越えて最後の直線500メートルに入った。だけどまだライト号は……
「行くよ」
「え、ええ!」
ライト号はペースを一気に上げた。これは……間違いなく追い込みという走り方だ。
残り470メートルで7番手になり、430メートルで6番手に、415メートルで5番手。405メートルで4番手。380メートルで3番手。
ここまで追い上げたライト号は、更に一段ギアを上げるように脚さばきを鋭くしていく。
2番手と3番手の間には距離が空いていたけれど、320メートルの地点で影を捕まえ、300メートルで並びかけ、280メートルで完全に逆転した。
だけどまだライト号の追撃は止まらない。
さらに前にいるウマに向かって行くと、255メートルで影を踏み、240メートルで並び、ここで相手は頑張ったけれど、210メートルで完全に抜き去った。
このままライト号はペースを下げることなく、グングンと後続馬たちを置き去りにしていった。
ゴールポストを通過した時、2番手のライバルは30メートルくらい後ろにいた。
先ほどまで私を指さして笑っていた観客たちは、目を見開いて私たちを眺め、そして口々に「あの女は誰だ!?」と驚きの声を上げている。
「見て……ミライをバカにしていた連中の顔。青ざめているよ?」
「うーん……私としては、そんなことよりもライト号がケガなく勝てたことの方が嬉しいかな?」
「確かにウマのケガって怖いからね。でも、小生はこれでも力半分だよ?」
ああ、それはライト号の態度を見て分かっていた。
レースをした後にこうやっておしゃべりが出来ているのって、本当に力半分で勝てないと出来ないもんね。
こうして私とライトオブハート号は、つまづくことなく初陣を勝つことができた。
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