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4.英雄たちとの戦い

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 偉そうな役人を公開処刑()してから1か月。
 俺は立派な教会の神父を捕まえて、背中に竜言語魔法をかけて経歴を調べていた。

「……修業。また修業…… またまた修業……そして可哀想な孤児を引き取る事業を始めて、またまた修業……」
「……ドラゴンよ。恥ずかしいのだが?」
「立派な神父さんだ!!」
「疑いは……晴れたかな?」
 立派な神父さんのいる教会だし、この村への攻撃はやめることにした。

 悪いことをしている生臭神父がいる一方で、このようにマジメに弱者救済をしている神父さんもいるのだから、教会というのは実際に調べてみないとわからないものだ。
「おかげで飯を食べ損ねてしまったが、善人から取るわけにはいかないからな」


 僕は野生のヤギを捕まえて食べていたが、何だろう……凄く鋭い殺気を感じた。
 ヒトでも動物でも殺気を放つものだが、怒りが大きければいいというモノではない。アサシンや腕利きの猛獣となると、その殺気は鋭利な刃物のように鋭くなり見えづらくなるものだ。
「…………」

 間もなく藪から矢が放たれると、俺は指先で掴み取った。
「鋭い殺気だ……褒めて遣わす」
 そう言いながら矢を折ると、そのアサシンは信じられないと言いたそうな表情をしていた。
「余裕ぶっていられるのも今のうちだぞ!」

 その言葉と共に戦士や魔法使いなど4人が姿を現した。
 気配の消し方や武器の選び方などが、今までの刺客とは段違いに強い。遂に権力者たちも本腰を入れたということか。おもしろい!
「かかって来るがいい、勇者ども!」

 早速、大男が大剣を振り下ろしてきたが、俺はその一撃を腹で止めた。
 普通の生き物なら真っ二つになってしまうような威力だったが、俺の腹部には頑強な鱗とたっぷりとした腹筋、そして更に内側には予備の贅肉がしっかりと入っている。
 この多層防御によって、どんな強力な攻撃も防ぎきれるのである。
「ば、バカな……!」
「これならどうだ!」
 今度は勇者っぽい男がレイピアを突き刺してきたが、俺のお腹に当たった途端にレイピアの刃先が真っ二つに折れ、刃先が飛んで行って地面へと刺さっていた。
「そ、そんな!」
「これならどう!?」

 魔法使いっぽい女が高熱の炎を放ってきたが、俺もまた手元に炎を出してけん制をしておいた。
 どうやらこちらの半分程度の力が、向こうの精一杯の力らしく、俺の力半分で放った炎は相手の炎を貫通して、そのまま魔法使いを吹き飛ばしていた。
「うぐ……げほ……ごほ……」
「キャサリン!」
 とりあえず死んではいないようだが、杖も折れて背中も強打しているので、戦闘不能になったと見ていいだろう。

 シスターっぽい少女は、しっかりと俺を睨むと命を捧げた。
「神よ……そのお力を……」
 その詠唱を見て、さすがの俺も寒気を感じた。
 恐らく、神の名を借りた大出力攻撃魔法か何かを仕掛けようとしているのだろう。
 俺は地面に手をつくと、地割れを発生させてシスターを転ばせ、更に持っていた錫杖を割れ目の中へと落とすことに成功した。
「ああ……そんな、司教様からお借りした杖が……!」

 なるほど。こんなに若くて経験もなさそうなのに、これほどの詠唱ができるのが不思議だったが、アーティファクトを使っていたということか。
 俺は蔓植物を操って司教の杖を回収すると、そのまま勇者一行を睨んだ。
「お前たちには過ぎたおもちゃだ。これは没収する」
「待て! こら……返せ!」

 勇者一行は騒いでいたが、俺は司教から借りたという錫杖を持って飛び去った。
 さて、このまま持ち続けるのも大変だし、朽ちるものでもないのだから、どこか容易には取れないような場所にでも捨ててしまうのが一番だろう。


 しばらくツーノッパと呼ばれる地域を飛び回っていると、いくつかの候補が浮かび上がってきた。
 まずは、巨大なクレバスの中。ここなら放り落とすだけでお手軽なのだが、回収されたかどうか俺でもわからないし、地下水脈か何かで繋がっていて海にでも流れ出る危険性もある。
 次に、ツーノッパから見て北に位置するゼリョヌイ大公国の王室。ここはツーノッパ王国とは戦争をしていることも多いから、手出しできなくなる可能性も高いが、友好関係を築かれたときに連中の手元に戻る可能性もある
 最後に、世界樹の枝の間。ここだと目立つため多くの冒険家の目に留まることになるが、俺から見てもすぐに回収されたかどうかがわかるし、意外にも頂上付近まで登った者はまだいない。

「……世界樹の幹にでも、縛り付けておくか」
 こうして、司教から借りたという杖は、世界樹のてっぺん付近に移動したため、多くの人々が教会と勇者一行が、悪竜討伐に失敗したことが明らかとなった。

 さて、腹も再び減ってきたことだし……悪人から家畜でも取り上げて食べてしまうとするか。
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