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4.本来の姿に

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 間もなく、俺とウマのビジネスがはじまった。
「お代の回収は、俺の死ぬ瞬間か……一体、何を取るんだ?」
「君が人生で勝ち得たものさ。あくまで君自身が得たモノだから、子供とか友人とかに迷惑はかからない」
「な、なるほど……なら構わない」

 前向きに返事をすると、ウマは言った。
「小生からワイバーン殿には、本来の姿に戻ること、異世界への移動、竜に相応しい寿命……この3つを提供できる」
「もし異世界に行けるのなら、剣と魔法の中世ファンタジーの世界がいいな」
 そう伝えると、ウマは悩ましそうな顔をした。
「個人的には恐竜全盛期の頃とか、人間が誕生して間もない頃の方が良いと思うけど……どうして中世なんだい?」
「決まっているだろう。調子に乗っている人類に、俺の真の姿を見せるためさ!」
「できるけど……うーん……中世ファンタジーの世界だと、体高7メートルくらいになっちゃうんだよ」

 体高7メートルか。
 建物の高さで言えば3階から4階くらいになるだろうけど、アフリカゾウでも3メートル前後の体高だと考えると……相当デカいことに変わりない。
「その高さで構わない。というか大きすぎると食事代がかかって仕方ないしな」
「わかった。では中世ファンタジーの世界だね!」

 そう言うと、目の前のウマは真剣な表情をした。
「これから転送するけど、人間はもちろん同族との付き合い方には気を付けた方が良いよ」
「それは当然だ!」
「じゃあ……目を瞑って」
「あ、ああ!」
 目を瞑って少しすると、俺の身体がふわっと浮かび上がり、徐々に意識が大きくなっていくのを感じた。
 更に背中には翼のようなモノや、尻尾のようなモノも生えてきており、明らかに俺本来の姿に近づいている。

――――――――
――――
――


 目を開けると、そこは月のような衛星が光りを放つ広大な森だった。
 自分が本当に竜になったのか確かめたくなり、俺は近くにあった池の水面に自分の姿を映してみた。
「…………」
「……おお!」

 その水面には、確かに鋭い眼光と美しい鱗に包まれたドラゴンがいた。
 これは間違いなく俺だ。ワイバーンは遂に真の姿になることが出来たのである。
「ふふ……ふははははははは!」
 すっかり上機嫌になった俺だったが、ドラゴンは耳もいいためこんな会話が聞こえてきた。
「や、やめてください!」
「おら、つべこべ言ってないで服を脱げ!」
「俺様たちがたっぷりと可愛がってやるからよ~」
「それとも、大事な服を破られる方が好みかぁ?」

 この美しい月夜に、無粋な声が聞こえてきたものだ。
 目を凝らしてみると、旅の演奏家と思しき少女が複数のゴロツキに取り囲まれている。これは何とけしからん状況だ……少し懲らしめてやろう!
 俺は翼を広げて飛び立つと、そのまま演奏家の少女がいるところまで直行した。
「真夜中に何をやっとるか貴様らぁ!」

 ゴロツキ連中は一斉に俺を見ると、驚いてクモの子を散らすように逃げていった。
「う、うわあああああ!」
「ば、バケモノー!」
「ぎゃあああああ!」
 まあ気持ちはわからなくもない。こんな巨体が飛んできて怒鳴ったのだから、逃げない方がどうかしているというものだ。
「ひ、ひいいいいいいい!」
 あ……ついでに襲われていた、少女の演奏家まで逃げ出してしまった。
 まあ、何か見返りを求めていた訳でもないし、静かになったのだから良しとするか。


 何か良いことをしたと満足していると、おや……腹の虫が鳴りはじめた。
 そういえばネカフェを出てから何も食べていないのだった。近場に何か腹が満たされそうなモノでもないだろうか。
「…………」
「…………」
 おや、ちょうどいいところに村があって牧場がある。
 村そのものはとても貧しい感じだが、近くにある教会だけは綺麗に整えられており、位置的に教会の持ち物なのではないかと思えた。
「なるほど。人々の不安を煽ってお金を巻き上げて、教会関係者だけがいい生活をしているというワケか……」

 宗教ではよくある話だ。
 これで教会も村に合った質素なたたずまいだったら、俺の気持ちも変わっていたかもしれないが、ここまで寒村の中で浮いている存在なら、家畜くらい食べてしまっても問題はないだろう。

 俺は力強く空を飛んでいくと、教会の牧場のど真ん中に着地して、そのまま納屋を壊した。
 中からウシが出てきたので、手づかみで取ると踊り食いをしてみた。
「うむ……なかなか美味だ!」

 次にブタが出てきたのだが、これには病気があったりもする。
 念のため俺は、ブレスで丸焼きにしてから食してみた。
「……少し焼き加減が足りないか?」
 更にブレスで焼いてから美味しく頂いていると、教会から神父が出てきた。
 やはり、良いところに住んでいるだけあり丸々と太っている。というか……さっき食ったブタにどことなく似ているな。コイツ……本当に神に仕えている男なのだろうか?

「ど、ドラゴン……おのれ、私に逆らうということは……神に逆らうのと同じだぞ!」
「生臭神父がほざくな! 我が来たのは、お前の徳が足りぬゆえ……今すぐに解らせてやろうかぁ!?」

 そう言いながら口を開くと、太った神父は腰を抜かしながら這うように逃げていった。
 よく見たらお漏らしもしていた。これは傑作だ!
「村の者たちよ! この生臭神父の姿をよく見てみるがいい……どのような男なのかよくわかるぞ!!」

 そう言って村人たちを起こすと、俺はそのまま飛び去った。
 後はどうなろうが……知らん!
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