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3.エルフ少女との馴れ初め
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出逢ったエルフの少女は、森の中の小屋に住んでいた。
小屋の周りには小さな畑と果樹、それに近くに小川が流れているくらいで、そのひとつ先はもう森という環境だ。
「……こんな森の中に、よく家を作れたね」
そう言ってみると、エルフの少女は恥ずかしそうに答える。
「小屋自体は、元々建っていたので……私が作ったのは畑くらいなんです」
「いや、それでも凄いよ」
彼女は家の中へと僕を招き入れると、キトンという服のような布を出してくれた。
僕はキトンを着て、さらにサンダルを履くと、すっかりファンタジーの世界……いや、神話なんかに出てくる精霊の仲間のような格好になっている。
「似合うかな?」
「まだ、若い感じですけど……ヒゲを生やせば威厳も出ると思います」
そう言いながら彼女は手鏡を向けてくれた。
確かに、この格好をしているのなら、口ひげくらい生えていた方が男性という感じがするな。
「私は夕食を作りますので、あなたはゆっくりなさってください」
「あ、ああ……すまない」
エルフの少女は指を弾くとカマドに火をつけ、お湯を沸かしながら野菜を切ったり、豆を下ごしらえしたりと、忙しそうに料理をしていく。
何だか、こうして見ていると……僕だけ何も動かないのは申し訳なく思えてくる。
「何か……手伝おうか?」
「いいえ。これは私の仕事なので……」
「あ、ああ……」
彼女は手慣れた様子で家事を進めていき、夕暮れ時になるとテーブルに様々な野菜を出してくれた。
「これは身体に良さそうだな!」
「はい。では……」
彼女は手を合わせながら、何か呪文のような言葉をささやきだした。もしかしてエルフは食事前の挨拶のようなモノがあるのだろうか。
少し観察していると、彼女はやがて目を開けて僕を見た。
「お待たせしました。それでは頂きましょう」
「あ、ああ、いただきます!」
フォークを使って葉物野菜を食べてみると、あく抜きがきちんとされているうえに、塩気が効いているし採れたての甘みがあって美味しかった。
「美味しいね……」
「ありがとうございます」
「この塩……もしかして岩塩かい?」
「はい。取れる洞窟が近くにありますので……」
けっきょく僕は、彼女の作った手料理を残らず頂いていた。
「ありがとう。こんなに美味しい野菜を食べたのは久しぶりだよ!」
「お役に立てて良かった……」
エルフの少女は、嬉しそうな少し物悲しそうな表情で僕を見た。
「ところで、あなた様はどうして旅を?」
ああ、そうか……このエルフの少女は、僕のことを旅人だと思っているんだな。
ここは、どう答えるのが正解なのだろう?
「恥ずかしい話なんだけど、僕の故郷では……僕ってありふれた人間なんだ。だからお嫁さんを養えるほどお給料を貰えなかったんだ。だから、奥さんを養えるようなお金をくれる国を目指している」
細部を説明すると違いはあるけど、嘘は言っていない。
そう心の中で苦笑いしながら答えると、エルフの少女は顔を赤らめながら言った。
「もし、旅人さんがよろしければ……私を妻にしませんか?」
「僕としては嬉しいけど、いいのかい? 僕はエルフではないけど……」
「……同族は嫌ですね。私は炎の精霊の加護があるから、同族は忌み子と呼んで差別してきます」
「…………」
その話を聞いて、僕はなるほど……と納得していた。
エルフにとって炎は森林を燃やしてしまう厄介な存在だ。その加護を受けている少女なら、差別されることもあり得る話だ。
だけど、炎が悪いというよりも……こう考えることができる。
「要するに、エルフは炎を正しく扱えない……だから、炎使いの君に嫉妬しているんだね」
そう言いながら笑うと、エルフの少女は凝視するように僕を見つめてきた。
「…………」
「…………」
「どうしたのかな? 僕……何か変なこと言ったかい?」
「いえ。そう考えたことがなかったので……凄く、すっきりしました!」
「どんなモノも使い方次第だと思うよ。炎は悪意を持って使えば多くの生き物を焼き殺してしまうけど、さっき僕が魔物を倒した……この武器も、炎の応用みたいな代物だ」
そう言いながらハンドガンを見せると、エルフの少女は興味深そうに眺めた。
「確かに……その武器から、鋭利な炎の力が見えます」
やはり彼女には、この武器の本質が理解できるようだ。
「僕はショーマ……君の名前は?」
「シャーロットと言います。シャルと呼んでください」
「ああ……」
ただでさえ可憐なシャーロットは、夕焼けの光に彩られて言葉では現わせないほどの美しさになっていた。
小屋の周りには小さな畑と果樹、それに近くに小川が流れているくらいで、そのひとつ先はもう森という環境だ。
「……こんな森の中に、よく家を作れたね」
そう言ってみると、エルフの少女は恥ずかしそうに答える。
「小屋自体は、元々建っていたので……私が作ったのは畑くらいなんです」
「いや、それでも凄いよ」
彼女は家の中へと僕を招き入れると、キトンという服のような布を出してくれた。
僕はキトンを着て、さらにサンダルを履くと、すっかりファンタジーの世界……いや、神話なんかに出てくる精霊の仲間のような格好になっている。
「似合うかな?」
「まだ、若い感じですけど……ヒゲを生やせば威厳も出ると思います」
そう言いながら彼女は手鏡を向けてくれた。
確かに、この格好をしているのなら、口ひげくらい生えていた方が男性という感じがするな。
「私は夕食を作りますので、あなたはゆっくりなさってください」
「あ、ああ……すまない」
エルフの少女は指を弾くとカマドに火をつけ、お湯を沸かしながら野菜を切ったり、豆を下ごしらえしたりと、忙しそうに料理をしていく。
何だか、こうして見ていると……僕だけ何も動かないのは申し訳なく思えてくる。
「何か……手伝おうか?」
「いいえ。これは私の仕事なので……」
「あ、ああ……」
彼女は手慣れた様子で家事を進めていき、夕暮れ時になるとテーブルに様々な野菜を出してくれた。
「これは身体に良さそうだな!」
「はい。では……」
彼女は手を合わせながら、何か呪文のような言葉をささやきだした。もしかしてエルフは食事前の挨拶のようなモノがあるのだろうか。
少し観察していると、彼女はやがて目を開けて僕を見た。
「お待たせしました。それでは頂きましょう」
「あ、ああ、いただきます!」
フォークを使って葉物野菜を食べてみると、あく抜きがきちんとされているうえに、塩気が効いているし採れたての甘みがあって美味しかった。
「美味しいね……」
「ありがとうございます」
「この塩……もしかして岩塩かい?」
「はい。取れる洞窟が近くにありますので……」
けっきょく僕は、彼女の作った手料理を残らず頂いていた。
「ありがとう。こんなに美味しい野菜を食べたのは久しぶりだよ!」
「お役に立てて良かった……」
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「ところで、あなた様はどうして旅を?」
ああ、そうか……このエルフの少女は、僕のことを旅人だと思っているんだな。
ここは、どう答えるのが正解なのだろう?
「恥ずかしい話なんだけど、僕の故郷では……僕ってありふれた人間なんだ。だからお嫁さんを養えるほどお給料を貰えなかったんだ。だから、奥さんを養えるようなお金をくれる国を目指している」
細部を説明すると違いはあるけど、嘘は言っていない。
そう心の中で苦笑いしながら答えると、エルフの少女は顔を赤らめながら言った。
「もし、旅人さんがよろしければ……私を妻にしませんか?」
「僕としては嬉しいけど、いいのかい? 僕はエルフではないけど……」
「……同族は嫌ですね。私は炎の精霊の加護があるから、同族は忌み子と呼んで差別してきます」
「…………」
その話を聞いて、僕はなるほど……と納得していた。
エルフにとって炎は森林を燃やしてしまう厄介な存在だ。その加護を受けている少女なら、差別されることもあり得る話だ。
だけど、炎が悪いというよりも……こう考えることができる。
「要するに、エルフは炎を正しく扱えない……だから、炎使いの君に嫉妬しているんだね」
そう言いながら笑うと、エルフの少女は凝視するように僕を見つめてきた。
「…………」
「…………」
「どうしたのかな? 僕……何か変なこと言ったかい?」
「いえ。そう考えたことがなかったので……凄く、すっきりしました!」
「どんなモノも使い方次第だと思うよ。炎は悪意を持って使えば多くの生き物を焼き殺してしまうけど、さっき僕が魔物を倒した……この武器も、炎の応用みたいな代物だ」
そう言いながらハンドガンを見せると、エルフの少女は興味深そうに眺めた。
「確かに……その武器から、鋭利な炎の力が見えます」
やはり彼女には、この武器の本質が理解できるようだ。
「僕はショーマ……君の名前は?」
「シャーロットと言います。シャルと呼んでください」
「ああ……」
ただでさえ可憐なシャーロットは、夕焼けの光に彩られて言葉では現わせないほどの美しさになっていた。
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