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2.異世界の令嬢へ
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婚活女子のあたしは、まだ正常な思考ができなかった。
見間違いとかでなく、本当にサラブレッドくらいの大きさの黒い馬が私に喋りかけてきている。
どうやって、あたしの部屋まで入ってきたの……ちょっとどころでなく怖いんだけど、このウマ!
「……いやごめんね。表を歩いていたらさ……君の叫び声を聞いたものでね」
「そ、それは……ごめんなさい」
と、とりあえず、この喋るおウマには下手に出よう。
確かこういう動物って、大声を出したりすると驚いて暴れるって言うし……
「何か上手く行かないことでもあるのかい?」
「……うん、実は婚活をしているんだけど……上手く行かなくて……」
「コンカツ? ああ……結婚の相手探しというモノのことだよね?」
「ええ……結婚相談所に入ろうとしたけど、入れなくて……」
「…………」
そのウマは少し視線を上げてから言った。
「相手と折り合いがつかないのはよくあることだよ。他に相手を探す方法はないのかい?」
「え……? 他に……?」
「うん。基本的に結婚というのは、オスとメスがいて……お互いの条件が折り合えば成立する契約だよね?」
「え、うん……」
「小生にはケッコンソウダンジョという場所が、どんな場所なのかはわからないけど、そこにしか男はいないわけじゃない」
「…………」
ちょっと待って。このウマ……メチャクチャ頭がいい。
というか、あたしは一体、何と話をしているんだろう?
「たとえば君に趣味があれば、同じ趣味を持つ男の人はいるし、君は仕事と叫んでいたけど……職場なら似たような考えの男の人がいるかもしれないよね?」
「しゅ、趣味ならまだしも……仕事なんてしたくないよ!」
「え? どうして??」
「そ、それは……仕事は男のやることって決まってるから!」
「えーそうかなぁ? 小生の仲間のサラブレッドを見てみなよ。オスだけでなくメスも普通に走ってるし、何ならオスよりも脚の速いメスもたくさんいるよ?」
「私たちは人間、人間は……」
「乗り手でも女性ジョッキーというモノはいる。君は……食わず嫌いなんじゃないかな?」
本当にああ言えばこう言うんだから。
だけど、コイツはウマ……下手に怒鳴りつけたりしたら暴れ出すよね。こんな巨体が突っ込んできたら絶対に怪我しちゃうよ。
幽霊なら幽霊で怒らせると怖いし。どうしよう、これ……。
「まあ、だからさ……嫌がらずに働いてごらんよ。思っているより自分に合っている仕事とかあるかもよ?」
だけどやっぱり、コイツにも働けとか言われるなんて……
よし、こうなったら、頭のおかしい女だと思わせるしかないわね!
「うーん……働いてもいいけど、あたしに出来そうな仕事って貴族令嬢くらいしかないと思うんだよね」
「貴族令嬢って、王様とか貴族の娘さんってことかい?」
「うん、だってあたしって美しいし、気が強いし、本当なら令嬢になるために生まれて来たんだって思うもん!」
「…………」
そう伝えると、このウマも悩ましい表情をしていた。
「……貴族令嬢って……とても難しい仕事だと思うよ?」
「そんなことないよ! あたしって、この世界に生まれたのが間違いだもん!!」
ああ、困ってる困ってる。
ウマの分際で私に働けなんて言うのは100年早いのよ、さっさとあたしの前から消えなさい!
ニヤニヤと笑っていたら、そのウマはじっとあたしを見つめてきた。
「……な、なに?」
「そこまで言うのなら、君を異世界の貴族令嬢にすることができるけど……本当にやる? ここからはビジネスという形になるよ」
「…………」
普段の私ならバカバカしいと相手にもしない話だけど、このウマは喋っているから、何だか本当にそういう力もありそうに思えた。
「わ、わかった……ビジネスね。といってもあたし……お金はないよ」
「その点なら大丈夫だよ。小生のビジネスは基本的に後払いだし、金銭を要求したことは一度もないんだ」
「そ、そう……なら大丈夫だね」
まあ異世界と言っても貴族令嬢になれれば、一生働けと言われることもないだろうし、イケメンの貴族男児と結婚できるということよね。
これはしっかりと商談を纏めないと!
「まず、君には15歳に若返る固有特殊能力。次に、異世界で自殺しようとしている貴族令嬢と入れ替わる能力。3番目に現地の言葉を理解できる能力。君の名前は向こうでもエーコに統一……これを提供しよう」
「なるほど……それなら確かに異世界の貴族令嬢になれるわね」
充分な能力だと思ったけど、一応気になったので聞いてみることにした。
「ちなみにお代は?」
「お代は、君が命を落とした時に回収させてもらうよ」
その話を聞いて、あたしは安堵していた。
死ぬ瞬間にお代を回収するなんて、どんなものを取られたところで痛くも痒くもないじゃない。どうせ死んじゃったらお金やモノはあの世に持っていけないんだし。
「わかった。契約するわ!」
「うん……じゃあ、異世界に!」
目を瞑ったら身体が少しずつ軽くなり、再び重力を感じるようになると……
あたしは、美しいカーペットの上に立ち、センスの良い暖炉には火が灯っていて、シンプルだけど洗練された絵が飾られている……貴族令嬢の部屋に立っていた。
見間違いとかでなく、本当にサラブレッドくらいの大きさの黒い馬が私に喋りかけてきている。
どうやって、あたしの部屋まで入ってきたの……ちょっとどころでなく怖いんだけど、このウマ!
「……いやごめんね。表を歩いていたらさ……君の叫び声を聞いたものでね」
「そ、それは……ごめんなさい」
と、とりあえず、この喋るおウマには下手に出よう。
確かこういう動物って、大声を出したりすると驚いて暴れるって言うし……
「何か上手く行かないことでもあるのかい?」
「……うん、実は婚活をしているんだけど……上手く行かなくて……」
「コンカツ? ああ……結婚の相手探しというモノのことだよね?」
「ええ……結婚相談所に入ろうとしたけど、入れなくて……」
「…………」
そのウマは少し視線を上げてから言った。
「相手と折り合いがつかないのはよくあることだよ。他に相手を探す方法はないのかい?」
「え……? 他に……?」
「うん。基本的に結婚というのは、オスとメスがいて……お互いの条件が折り合えば成立する契約だよね?」
「え、うん……」
「小生にはケッコンソウダンジョという場所が、どんな場所なのかはわからないけど、そこにしか男はいないわけじゃない」
「…………」
ちょっと待って。このウマ……メチャクチャ頭がいい。
というか、あたしは一体、何と話をしているんだろう?
「たとえば君に趣味があれば、同じ趣味を持つ男の人はいるし、君は仕事と叫んでいたけど……職場なら似たような考えの男の人がいるかもしれないよね?」
「しゅ、趣味ならまだしも……仕事なんてしたくないよ!」
「え? どうして??」
「そ、それは……仕事は男のやることって決まってるから!」
「えーそうかなぁ? 小生の仲間のサラブレッドを見てみなよ。オスだけでなくメスも普通に走ってるし、何ならオスよりも脚の速いメスもたくさんいるよ?」
「私たちは人間、人間は……」
「乗り手でも女性ジョッキーというモノはいる。君は……食わず嫌いなんじゃないかな?」
本当にああ言えばこう言うんだから。
だけど、コイツはウマ……下手に怒鳴りつけたりしたら暴れ出すよね。こんな巨体が突っ込んできたら絶対に怪我しちゃうよ。
幽霊なら幽霊で怒らせると怖いし。どうしよう、これ……。
「まあ、だからさ……嫌がらずに働いてごらんよ。思っているより自分に合っている仕事とかあるかもよ?」
だけどやっぱり、コイツにも働けとか言われるなんて……
よし、こうなったら、頭のおかしい女だと思わせるしかないわね!
「うーん……働いてもいいけど、あたしに出来そうな仕事って貴族令嬢くらいしかないと思うんだよね」
「貴族令嬢って、王様とか貴族の娘さんってことかい?」
「うん、だってあたしって美しいし、気が強いし、本当なら令嬢になるために生まれて来たんだって思うもん!」
「…………」
そう伝えると、このウマも悩ましい表情をしていた。
「……貴族令嬢って……とても難しい仕事だと思うよ?」
「そんなことないよ! あたしって、この世界に生まれたのが間違いだもん!!」
ああ、困ってる困ってる。
ウマの分際で私に働けなんて言うのは100年早いのよ、さっさとあたしの前から消えなさい!
ニヤニヤと笑っていたら、そのウマはじっとあたしを見つめてきた。
「……な、なに?」
「そこまで言うのなら、君を異世界の貴族令嬢にすることができるけど……本当にやる? ここからはビジネスという形になるよ」
「…………」
普段の私ならバカバカしいと相手にもしない話だけど、このウマは喋っているから、何だか本当にそういう力もありそうに思えた。
「わ、わかった……ビジネスね。といってもあたし……お金はないよ」
「その点なら大丈夫だよ。小生のビジネスは基本的に後払いだし、金銭を要求したことは一度もないんだ」
「そ、そう……なら大丈夫だね」
まあ異世界と言っても貴族令嬢になれれば、一生働けと言われることもないだろうし、イケメンの貴族男児と結婚できるということよね。
これはしっかりと商談を纏めないと!
「まず、君には15歳に若返る固有特殊能力。次に、異世界で自殺しようとしている貴族令嬢と入れ替わる能力。3番目に現地の言葉を理解できる能力。君の名前は向こうでもエーコに統一……これを提供しよう」
「なるほど……それなら確かに異世界の貴族令嬢になれるわね」
充分な能力だと思ったけど、一応気になったので聞いてみることにした。
「ちなみにお代は?」
「お代は、君が命を落とした時に回収させてもらうよ」
その話を聞いて、あたしは安堵していた。
死ぬ瞬間にお代を回収するなんて、どんなものを取られたところで痛くも痒くもないじゃない。どうせ死んじゃったらお金やモノはあの世に持っていけないんだし。
「わかった。契約するわ!」
「うん……じゃあ、異世界に!」
目を瞑ったら身体が少しずつ軽くなり、再び重力を感じるようになると……
あたしは、美しいカーペットの上に立ち、センスの良い暖炉には火が灯っていて、シンプルだけど洗練された絵が飾られている……貴族令嬢の部屋に立っていた。
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