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2.婚活女性エーコの場合

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 あたしはエーコ。
 スペックは年齢45歳。職業は家事手伝い。顔は上の中と言ったところね。

 こう見えても若い頃は、イケメンの間でモテてモテて大変だったの。
 だから、高校を卒業してから働いたことなんて一度としてないわ。だってオス共がデート代は全て出したし、ブランド物の服やバッグを買ってもくれたし。
 こんな感じで、美しいわりに慎ましやかに生きてきたあたしだけど、いよいよ婚活というモノをすることになったわ。

 どうしてかと言えば、ボンクラオヤジが心臓が悪いとか何とかで少し前に死んだのよ。
 あんなボンクラでも年金はそこそこあったから、お母さんもあたしも生活できていたけど、それも望めなくなったから、遂に私も働くかお嫁に行きなさいということになったワケ。


 まあ、これほど美しいあたしなら結婚なんて余裕でしょ。
 というか、イケメンたちが取り合いを始めて、血みどろのケンカとかになっちゃったらどうしよう。もしそんなことになったらあたしって……罪作りな女になってしまうわ。
 女は年齢を取るごとに魅力も増すと言うし……若い頃であれだけ美魔女だったのだから、恐ろしい話よね。

 そんなことを考えながら、あたしは結婚相談所へと向かった。
 中へと入ると、受付をしている男がいて応対した。
「……新規の方ですね。では、こちらに貴女のお名前や必要事項を記入してください」

 はあ……面倒くさいわね。
 って、ちょっと待って。どうして職業欄の隣に年収なんて項目があるの!?
 馬車馬のように働くなんて、子供も産めないオスどものやることでしょ。
「ちょっと!」
「いかがなさいましたか?」
「どうして、年収なんて書かないといけないの!?」
「これは、当相談所の規則でして。女性の方にも年収を記入して頂いています」
「はぁ!? 働くのなんて男の役目でしょ! ここの相談所の男は、女に働かせて恥ずかしくないの!?」
「規則は規則です。他の女性会員の方にも年収の提示をして頂いておりますので、もし嫌でしたら別の結婚相談所をお勧めします」
「も、もういいわよ!」

 あたしは腹を立てながら結婚相談所を出ると、別の大手の相談所を探した。
 だけど、そこでも収入を書く欄があって、家事手伝いは無職と同じ扱いだったの。これっておかしいよ。どうして家事手伝いが職業じゃないの!?
「なんで家事手伝いじゃダメなの!?」
「今のご時世ですからね。男性も共働きの女性を希望される方ばかりなのです」
「なら年収の高い男なら専業主婦をさせてくれるでしょ! さっさと紹介しなさいよ!!」
「あいにくですが当結婚相談所では、高年収の男性も共働きを希望される方ばかりです。他の結婚相談所に……」
「本当に使えないわねアンタたち!」

 こんな調子で、近くの結婚相談所は家事手伝いのあたしを受け入れてはくれなかった。
 本当に世の中間違っている。この美しいあたしが婚活してやると言っているのに、無職だからとバカにして……ふざけんじゃないわよ!

 イライラしながら家に帰ったら、お母さんはあたしの様子を見て言う。
「その様子だとダメだったみたいね。だからあんなに早くから婚活しなさいと言ったでしょう」
「だって、ここまで……」
「結婚がムリなら、明日にでもハローワークに行きなさい。うちはもう貴女を養えるだけの貯えはありませんからね」
「…………」

 このあたしに働けですって!?
 ちょっと、冗談じゃないわよ。働くのは男の役目だってお母さんも小さい頃から言ってたでしょ。
 嫌だよ。絶対に働きたくなんてないよ!

 あたしは目の前がフラフラとした状態のまま、自室へと戻った。
 イライラが収まらないどころか、あたしの入会を断った結婚相談所に対して苛立ちが増していく。
 ああもう、こうなったら……匿名掲示板にでも書き込んで、みんなに愚痴を聞いてもらおう!
「…………」
「…………」

 最初のうちはみんな話を聞いてくれたけど、スペックを答えたところで、ネット掲示板の住人たちは手のひらを返したようにあたしのことを攻撃してきた。
【はぁ!? 俺は20代の婚活女子と話をしていると思っていたぞ!】
【おいおい、45歳って言えば孫がいるヤツもいる年齢だぞww】
【無職で職歴ナシのアラフィフとか、地獄のようなスペックで草】
【その歳で女子とかギャグですか?】
【婚活より、就活か終活しろww】
【イッチと結婚して、男に何のメリットがあるのかわからんww】

 あたしは労働は男がやるべきものと伝えると、ネットの住人どもは次々と【働け!】コールをしてきた。
 こんなことを聞きたいんじゃないの。あたしがどうやって婚活したらハイスペックな男と結婚できるのかを聞きたいのよ。
 なのにバカの一つ覚えみたいに【働け!】しか言わないなんて、こいつら本当に頭悪い!
【頭悪いのはイッチ定期ww】
【イッチの頭にブーメラン突き刺さっててワロタ】
【もう、こんなの相手にするだけ時間の無駄だろ。話も聞かねーしww】
【そうだな。じゃーなイッチww】


 こんなところに書き込んだあたしがバカだったよ。
 というか、結婚相談所も、母親も、匿名掲示板の住人も全部が間違っている。こんなに可愛いあたしが婚活すると言ってやっているのに、どうしてみんなで働けばかりいうのよ!
「ねえ……」

 その言葉を聞いて、あたしはドキッとして後ろを振り向いた。
 私のベッドの上には、黒い毛並みをしたウマが座っていたの。

 しかもただのウマじゃない。サラブレッドのような大きさで……カッコよかったけど怖い!
 そんなモノが後ろから見つめていたのだから、あたしは身震いした。

 まさかあたし……おウマの幽霊でも見ているというの!?
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