ヒロインピンチを切り抜ける、三十路半ニート男のドドドドドドド……本気モード異世界冒険記

ブラッドリリスの動向４

　異世界人の脱走。
　その話を聞いて私は、すぐに生ける屍の動作チェックを中断させたわ。

　失敗作なんていつまでも見ていても仕方ないもの。それよりも……これは警戒すべき事案ね。
　異世界転移者は、すでに何人か見ているけれど、連中の予測不明な動きは私たち魔族にとっては、とても警戒すべきこと。
　ふとしたことがきっかけとなって、転移者が結束して私たちに向かってくるなんて事態になっても、大丈夫なように今のうちに対策を立てておかないといけない。


「手の空いている魔将を全て呼んで。各フロアの守備を担当させるわ」
「ははっ！」
　伝令係の兵士にそう伝えると、私は今の邪竜のほこらの様子を眺めたわ。


　邪竜のねぐらは１３の階層に分かれていると言われているわ。
　私自身も１０階層までしか行ったことはないけれど、このダンジョンは１階層は１３区画、２階層は１２区画、３階層は１１区画と、深く潜るごとにどんどん区画が少なくなっていくという、まるでアリジゴクのような構造をしている。

　ちなみに私の居城があるのは６階層。
　ここは８区画に分かれており、それぞれの要所に重臣たちやガーディアンを配置し、私自身は７階層の【竜の玉座】に待機するというわけ。

　固めて部下を配置した方が強いだろうですって？
　まあ、人間だったらそうかもしれないけれど、魔族というのは持っている魔力も膨大なものになるから、重臣クラスのモノを近くに配置すると、お互いの魔力に干渉されて足を引っ張り合ってしまうのよ。


　そんなことを考えていたら、部下の１人が歩いてきた。
　誰かと思ったらマッドサイエンティ……いえ、闇の錬金術師じゃない。どうしたのかしら？
「貴方からここに来るなんて珍しいわね。どうしたの？」
「公爵様。ご指示通り研究を進めていましたところ……興味深い細菌兵器ができましたのでご報告に上がりました」

　細菌兵器と聞いて、私は思わず身を乗り出したわ。
　だって、これは例え失敗だったとしても……成功への大きな前進かもしれない。
「詳しく話して！」
「はい。まずはこのガラスの中の液体をご覧ください」


　私はじっとその液体を見ると、何とも水から禍々しい力を感じた。
　まるで、この世の汚物という汚物を凝縮して、水の中に注入したかのようなものじゃない。これは……相当すごいものだと確信した。
「禍々しい水ね……これはどんな役に立つの？」
「これはですね……偶然入手した魔界の寄生虫を培養した代物です」

「寄生虫……それに感染したらどうなるの？」
　そう質問すると闇の錬金術師は嗤った。笑ったという単純なモノではないわよ？


「寄生虫はまず、宿主の身体のコントロールを奪います。そして、新たな宿主を捕えて噛みつかせ、そして体の中へと入り込みます」
　その言葉を聞いて私はクスッと笑った。
　私の思い描いているゾンビそのモノじゃない。
「しかも、宿主は生きているんでしょう？　臭わないし骨にならないのなら、実質的にゾンビの上位互換じゃない！」

「はい、公爵様のお役に立てると思いまして……」
　闇の錬金術師の目が光った。まるで、毒を塗ったナイフのようにも見えるわね……この目は。
「どこに使用しますか？」


　そう質問されれば、もう使うべき場所はあそこしかないわね。
「場所は新冒険者街の……そうねえ、兵舎か刑務所周辺がいいでしょうね。ちなみに質問だけど……」
「なんでしょう？」

　私は、その禍々しいガラスの中の液体を眺めた。
「その量で、どれくらいの人間の身体のコントロールを奪えるのかしら？」

　錬金術師は満面の笑みを浮かべた。こんな表情もできるのねフフ……。
「食事などに混ぜれば、おおよそ５０人分くらいでしょうか。食材の調理方法にも寄りますがね」
「なるほど……わかったわ。時期は私が指定するから、それまであなたは、その虫をなるべく増やしてちょうだい」

「早速、仰せの通りに……」
　これは、楽しくなってきたわ……！