ヒロインピンチを切り抜ける、三十路半ニート男のドドドドドドド……本気モード異世界冒険記

スィグトーネ

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44.命がけの模擬戦

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 前線基地の裏庭……というか空き地に案内すると、赤髪の若者はあたりを見回した。
「なんだここは、単なる原っぱじゃねえか」
「その方がいいでしょう。整備された場所じゃ実戦って感じがしない」

 そう伝えると、赤髪の若者は不敵に笑った。
「まあな?」
 コイツは剣を抜きながら言った。
「言っとくが、お前さんにはメチャクチャムカついてる。下手すりゃ死亡事故なんてことにもなりかねないが、覚悟はできてるだろうな?」

 その本気で言っている目を見て、僕は満足した。
 この世界に来て、強敵と何度か対峙したことがあるが、そこでしか得られないような経験がここでも得られるかもしれない。

「まあ付き添いの人たちは安心して欲しい。相当なケガをさせない限り……一角獣先生の治療で何とかなるから」
「けっ、なら、このタケル様……遠慮なくやらせてもらうぜ!」


 チャクラムが『はじめ!』と叫ぶと同時に、タケルは木刀を振り上げ、そして僕は模擬用レイピアで対応した。
 確かにタケルの方が若く、更にパワーもあるので木刀が当たると一発で決定打になりそうなのだが、それを当てさせないことこそレイピアの強みだと思う。

「こ、この……うお!?」
 赤髪戦士タケルの腰が引けたので、僕は一気に畳みかけることとした。
 模擬用とはいえ、レイピアの貫通力はなかなかのモノで、腕に命中するとタケルの皮膚が避け、鎧の継ぎ目に刺さると、タケルも痛がっていた。

 普通の模擬戦なら、これで勝負ありだったのだろうが……タケルは叫んだ。
「頼んだぞ俺!」

 その言葉と共に、僕の視界の隅に赤い影のようなモノが映った。
 僕はバックステップしながら、目の前のタケルに水魔法を放つと、目の前のタケルは頭から水を被ってひっくり返り、頭を打って失神したのか姿を消していた。


 消えたタケルの代わりに、新しく現れたタケルが向かってきた。
 僕はレイピアを構え直すと、同じようにタケルと戦いを始めた。あと99人か。1人目からやや苦戦しているが、これを何度も繰り返すとなると、さすがに体力が持ちそうにない。
 さて、どうやってこの難敵を倒そうか。そう思いながらもレイピアで体勢を崩して、水魔法を構えると再びタケルは叫んだ。

「俺、後は頼む!!」
 直後に水魔法を放って目つぶしをすると、僕はレイピアでタケルを倒した。


 しかし、その後ろから今度は2人のタケルが現れていた。
 こいつらを相手にレイピアで戦うのは下策だ。僕はレイピアを捨てると、固有魔法【スペース】を用いて10メートル前方にワープし、タケルたちの背後に立った。

 そして、振り向いたタケルの片方に水魔法で目つぶしをして転倒させ、もう片方のタケルに接近戦を挑んだ。
 もう片方のタケルの攻撃を避けながらパンチを繰り返して転倒させた。アゴに命中させると、タケルの片方は蒸発し、そして1対1になると僕はレイピアを拾い直した。

 残ったタケルは向かってきたが、僕の水魔法のチャージの方が速い。
 タケルは自ら水塊へと突っ込んできて、破れかぶれという感じで剣を振り下ろしてきたが、僕はすぐに身を翻してタケルに足掛けをした。


「負けてたまるかぁ……頼むぞ俺ぇっ!」
 そう叫ぶと同時に、僕の目の前には6人のタケルが現れた。
 もしかして今までのは、単なる小手調べという感じだったということか?

 僕は歯を食いしばりながら、6人の動きを眺めた。
 タケルの噂は聞いている。100人分自分を出すという発言に……恐らく偽りはないだろう。そうでなければ、大手ギルドの冒険者たちに成し得なかった、魔族に捕まった捕虜を奪還することなんてできない。

 タケルを倒した数は、今のところ4人。こいつらを纏めて倒してやっと1割であることを考えると、今の段階からユニコーンケンタウロスは使うのは得策とは言えない。
 考えろ。今の僕の……僕自身の武器だけで、6人のタケルを倒すんだ!


 そう思った直後に、6人のタケルのうちの1人が唐突に消えた。
 わざと自分の不利をアピールして、僕の攻撃を誘ったのかと思ったけれど、そんなことをする意味はないし、よく見るとタケル全員の動きが鈍くなっている気がする。

 タケルたちの動きを睨むとハッとした。
 そういえば、前の戦いでもあのオタク風の男との戦いでも、無敵と思われる能力はあった。

 だけどあれは、自分から攻撃した時と、回復魔法などの害のない魔法やアビリティに対しては、一切対処をしてくれないという欠陥があったんだ。

 つまり、この100人力の力にも……大きなリスクがある!


【タケルを見守る癒し手】
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