ヒロインピンチを切り抜ける、三十路半ニート男のドドドドドドド……本気モード異世界冒険記

スィグトーネ

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40.トリトンズの前衛基地

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 冒険者街の北門の修復がはじまった日の夜。
 再び悪魔たちは、軍勢を率いて冒険者街に攻撃を仕掛けてきた。

 しかし今回は、各大手ギルドを中心に多くの冒険者たちが待ち伏せしており、北門の付近で激しい戦いが行われた。
 特に異世界人であるタケルのいるレッドトマホークが活躍したこともあり、悪魔の兵たちは次々と劣勢に立たされて後退していき、遂に冒険者たちが勝つことができた。


 さて、僕たちは何をしていたのかと言えば、トリトンズは後方支援に回ってけが人にヒールをかけていたのである。
『はい、次の方~』

 治療に当たっていたのは、スティレット支部長、支部長の孫娘のミドルダガー、一角獣化した僕の3名……というか3頭だ。
 そのサポート役としてソフィアとキンバリー。空中配達要員のスカーレット。けが人の搬送要員としてジェシカとクロエを含む戦士隊8名。
 他にも船大工部隊10名も、即席野戦病院でベッドや机などの家具を作っていた。


 ちょうど、目の前で負傷している中規模ギルドの冒険者を治療し終えると、僕は伸びをした。
「これで全員か……思ったよりも被害が少なく済んだね」
『はい。スカーレットさんの話では、敵の軍勢も引き返したようですし……』
 どうやら、ミドルダガーも治療を終えていたようだ。

『この野戦病院は、このまま小生たちの前線基地になりそうだね』
 その言葉を聞いた、治療中のインディゴメイルズのギルド員は視線を向けてきた。
「それなら、警備は我らインディゴに……いたたたた」
『動かないで! まだ、傷口が塞がったばかりなんだ~!』


 間もなく野戦病院は開店休業状態となり、僕たち救護班も軽食をとりはじめたとき、外からは笑い声や話し声が聞こえてきた。
 どうやら、レッドトマホークがこの戦いでは一番功績を挙げたらしく、野太い声を出す男たちが自分の武功を自慢していた。

 スティレット支部長も笑いながら言った。
『とりあえず、これでお疲れって感じだね』
 一同も帰り支度をはじめたとき、ふとクロエは建物を見ながら言った。
「そういえば支部長。ここって普段はどうするの?」

 スティレットは少し考えてから答えた。
『ここにまで癒し手を置いておくほど余裕はないからね。普段は……事務員を1人派遣して、掃除や施設内のチェックを午前中に済ませておくって感じかな?』

 その言葉を聞いたソフィアは、困り顔になって言った。
「お言葉ですが支部長。確か……守備隊長の話では、回復施設を置く場合は最低でも1人……ヒーラーを置くようにと念を押されていますが……」

 ソフィアに言われると、スティレットも困り顔になった。
 どうやら彼から言わせれば、ミドルダガーも僕も手元に置いておきたいようだ。
『しょうがないなぁ……じゃあ、そこそこ優秀で、魔物の襲撃があってヤバい時にも逃げてこられる人材を連れてこようかな?』
「そんな都合のいいヒーラーがいるんですか?」

 そう質問したら、スティレットは頷いた。
『1頭だけいる。まあ、普段はヒマだろうし、補佐要員として治癒魔法が使える助手を置いておけば、文句も言わないだろう』

 そこまで言うと、スティレットは角を光らせた。
『チャクラム……聞こえるか?』
『…………』
『ちょっとこい。お前にいい仕事があったぞ』
『…………』
『朝の6時までに、トリトンズに来い……以上だ』


 全員が恐らく同じ疑問を持ったのだろうが、質問したのは僕だった。
「支部長……チャクラムって誰なんです?」
『小生の子供たちのなかで一番のナマケモノ。逃げ足と保身と昼寝に入る速さだけは、小生の産駒で最強だね』

 なんかすごい言われようだけど、よくよく考えてみたらそれって……
 スティレット一家のニート。つまり僕のような奴ということなんじゃなかろうか。


 そのスティレットのニート息子は、夜明けとともにトリトンズの新冒険者支部へとやってきた。
 毛並みは父親と同じようにたてがみと尻尾が白く、身体は栗色という感じだが、彼の体の周りには風が吹き荒れていた。
「こ、この姿……ペガサス!?」

 質問すると、ニート息子のチャクラムは答えた。
『違うかな。愚生はウイングユニコーンといったほうが実態に近いよ』
 彼は早速、気楽そうな顔をしながらスティレットを見た。
『で、お父さん……3食昼寝付きで、ゴロゴロできる職場ってどこ~?』

『スカーレット……案内してやってくれ』
「はーい!」
 どうやらスティレットは、スカーレットの妹にも手紙を出し、彼女の妹にニート息子の世話をさせるつもりのようだ。

 スカーレットの妹は、翌日にはギルドへと到着して即日採用され、その日のうちに前線基地の事務員として掃除をしたり、チャクラムの世話をしたりという仕事に追われたようだ。

 というか、スティレットの子供にも……ニートみたいなユニコーンがいるなんてな。
 まあ30頭もいれば、1頭くらい僕みたいなのも混じるモノなのかもしれない。

【スカーレットの妹】
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