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36.マイペースに修業を続けるアキノスケ
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修業を始めて5日目。
僕はウェアウルフのクロエと、格闘戦の稽古をしていた。
「遅いよ! そんなに遅いパンチじゃハエが止まっちゃうよ!」
「はあっ!」
「足をいつまでも出してない! 敵に取られる!」
「とりあえず、これで休憩にしておこう」
クロエが汗を布で拭いているとき、僕は全身汗まみれになったまま壁に寄りかかっていた。
さすがに彼女はたたき上げだけあって、指導の仕方も体育会系という感じだ。だけど、クロエの熱のある指導のおかげか、僕も彼女に蹴り倒される回数も減ってきた感じがする。
修業風景を眺めていたスティレット支部長も、上機嫌な様子で言った。
『だいぶいい動きになってきたね。体力が回復したところで、次はスカーレットと組手してみるかい?』
その言葉を聞いた僕は、おっ……と思いながらスティレットを見た。
スカーレットは有翼人なので、当然ながら背中には翼がある。彼女たち有翼人は戦いながら飛んだり、回避のために翼の浮力を使ってアクロバットな動きをするため、体の動きだけなく翼の動きにも注意を払わないといけなくなる。
昼食の後、スカーレットと格闘訓練をしていたら、受付嬢ソフィアがやってきた。
「スティレット支部長」
『おお、お帰り!』
受付嬢ソフィアはジェシカと共に、スティレットの代理としてギルド会議に出席していたのだが、思ったよりも早く解放されたようだ。
これなら、代わりに受付をしているキンバリーも戻って来れるなと思っていたら、ソフィアは少し困った顔をしていた。
「先ほど、ギルド会議が終わったとき、気になる噂話を耳にしました」
『? ……どんな噂だい?』
ソフィアはこちらを見ると、僕に手招きをした。
「この話は、アキノスケさんにも関係があるかもしれません。もしよろしければ……」
スカーレットに視線を向けると、彼女は構わないと言いたそうに頷いてくれた。
「すまない。すぐに再開するよ」
ソフィアに近づくと、彼女は僕やスティレットを交互に見ながら言った。
「先日……悪魔たちに捕まっていたレア能力者の一部が帰還したという話は御存じですよね?」
その話は僕も聞いていた。
なんでもフリーの冒険者が、単独で8名ものレア能力者を救い出したのは凄いことだと思ったし、その人物が僕と同じ日本から来た異世界人だと知った時は、つい嬉しくなったものだ。
『ああ、少し前にアキノスケとその話をしていたくらいだからね。それで……気になる噂とは?』
「はい。実は……問題はその後に起こったようでして……」
『というと?』
全員で見つめると、ソフィアは少し困り顔になった。
「解放されたヒーラーをはじめとした、レア能力者の一部が……アイアンメイスを脱退すると言い出したそうです」
「え……!?」
僕は思わず、スティレット支部長を見ていた。
スティレットもあんぐりと口を開いたまま、マジで……? とでも言いたそうな表情をしている。
『脱退って……ギルドが助けに来なかったことを根に持ってるとか?』
「それだけではなくヒーラーの女性は、ミリズス会への信仰もやめると言っていたそうです」
『えええっ!?』
「ど、どういうこと!?」
僕はこの世界に限らず宗教関係には明るくないが、シスターが急に神様への信仰を捨てるなんて、普通ではないことだと直感した。
こんなことは、相当なことが起こらない限り、あり得ないことじゃないだろうか。
ソフィアは険しい顔をしたまま言った。
「なんでも、神様を信仰するような無駄なことはもうやめる。これからは勇者様こそ仕えるべき存在……と言いながら、救い出した若者と教会を出て行ったそうです」
「それって……自分のことを助けてくれない神様なんて要らないってこと?」
ウェアウルフのクロエが聞くと、ソフィアは視線を上げて少し考えてから答えた。
「……何といえばいいのでしょう。どちらかといえば……」
ソフィアはクロエを見た。
「話を聞いた感じでは、神様は自然法則そのものなので人格などないことを理解した。だからわざわざ信仰するのは私の信条に反する……とのことです」
森と獣の神を信仰しているクロエ、風の神を信仰しているスカーレット、自分が神だと思っているスティレット、神様より今日の晩飯が大事な僕でさえ、一様に黙り込んだ。
しばらくして、口を開いたのは僕だった。
「何だか……ひと悶着ありそうな感じがするね」
『これは不味いよ。ただでさえ教団はレア能力者が減ってるんだ。これでフリーの若者に貴重なヒーラーをたぶらかされたなんてことになれば……』
クロエも苦笑いしたまま頷いた。
「レッドトマホークやシャドーアローズあたりも、ヒーラーは喉から手が出るほど欲しがっているからね」
そのクロエの懸念は、間もなく現実のものとなった。
教団関連のギルドに脅迫された、タケルという日本人とヒーラーはレッドトマホークの誘いを受けて逃げ込み、業界最大手ギルドと、宗教の絡むアイアンメイスの対立は激しいモノとなったからである。
【その頃の教会の様子】
僕はウェアウルフのクロエと、格闘戦の稽古をしていた。
「遅いよ! そんなに遅いパンチじゃハエが止まっちゃうよ!」
「はあっ!」
「足をいつまでも出してない! 敵に取られる!」
「とりあえず、これで休憩にしておこう」
クロエが汗を布で拭いているとき、僕は全身汗まみれになったまま壁に寄りかかっていた。
さすがに彼女はたたき上げだけあって、指導の仕方も体育会系という感じだ。だけど、クロエの熱のある指導のおかげか、僕も彼女に蹴り倒される回数も減ってきた感じがする。
修業風景を眺めていたスティレット支部長も、上機嫌な様子で言った。
『だいぶいい動きになってきたね。体力が回復したところで、次はスカーレットと組手してみるかい?』
その言葉を聞いた僕は、おっ……と思いながらスティレットを見た。
スカーレットは有翼人なので、当然ながら背中には翼がある。彼女たち有翼人は戦いながら飛んだり、回避のために翼の浮力を使ってアクロバットな動きをするため、体の動きだけなく翼の動きにも注意を払わないといけなくなる。
昼食の後、スカーレットと格闘訓練をしていたら、受付嬢ソフィアがやってきた。
「スティレット支部長」
『おお、お帰り!』
受付嬢ソフィアはジェシカと共に、スティレットの代理としてギルド会議に出席していたのだが、思ったよりも早く解放されたようだ。
これなら、代わりに受付をしているキンバリーも戻って来れるなと思っていたら、ソフィアは少し困った顔をしていた。
「先ほど、ギルド会議が終わったとき、気になる噂話を耳にしました」
『? ……どんな噂だい?』
ソフィアはこちらを見ると、僕に手招きをした。
「この話は、アキノスケさんにも関係があるかもしれません。もしよろしければ……」
スカーレットに視線を向けると、彼女は構わないと言いたそうに頷いてくれた。
「すまない。すぐに再開するよ」
ソフィアに近づくと、彼女は僕やスティレットを交互に見ながら言った。
「先日……悪魔たちに捕まっていたレア能力者の一部が帰還したという話は御存じですよね?」
その話は僕も聞いていた。
なんでもフリーの冒険者が、単独で8名ものレア能力者を救い出したのは凄いことだと思ったし、その人物が僕と同じ日本から来た異世界人だと知った時は、つい嬉しくなったものだ。
『ああ、少し前にアキノスケとその話をしていたくらいだからね。それで……気になる噂とは?』
「はい。実は……問題はその後に起こったようでして……」
『というと?』
全員で見つめると、ソフィアは少し困り顔になった。
「解放されたヒーラーをはじめとした、レア能力者の一部が……アイアンメイスを脱退すると言い出したそうです」
「え……!?」
僕は思わず、スティレット支部長を見ていた。
スティレットもあんぐりと口を開いたまま、マジで……? とでも言いたそうな表情をしている。
『脱退って……ギルドが助けに来なかったことを根に持ってるとか?』
「それだけではなくヒーラーの女性は、ミリズス会への信仰もやめると言っていたそうです」
『えええっ!?』
「ど、どういうこと!?」
僕はこの世界に限らず宗教関係には明るくないが、シスターが急に神様への信仰を捨てるなんて、普通ではないことだと直感した。
こんなことは、相当なことが起こらない限り、あり得ないことじゃないだろうか。
ソフィアは険しい顔をしたまま言った。
「なんでも、神様を信仰するような無駄なことはもうやめる。これからは勇者様こそ仕えるべき存在……と言いながら、救い出した若者と教会を出て行ったそうです」
「それって……自分のことを助けてくれない神様なんて要らないってこと?」
ウェアウルフのクロエが聞くと、ソフィアは視線を上げて少し考えてから答えた。
「……何といえばいいのでしょう。どちらかといえば……」
ソフィアはクロエを見た。
「話を聞いた感じでは、神様は自然法則そのものなので人格などないことを理解した。だからわざわざ信仰するのは私の信条に反する……とのことです」
森と獣の神を信仰しているクロエ、風の神を信仰しているスカーレット、自分が神だと思っているスティレット、神様より今日の晩飯が大事な僕でさえ、一様に黙り込んだ。
しばらくして、口を開いたのは僕だった。
「何だか……ひと悶着ありそうな感じがするね」
『これは不味いよ。ただでさえ教団はレア能力者が減ってるんだ。これでフリーの若者に貴重なヒーラーをたぶらかされたなんてことになれば……』
クロエも苦笑いしたまま頷いた。
「レッドトマホークやシャドーアローズあたりも、ヒーラーは喉から手が出るほど欲しがっているからね」
そのクロエの懸念は、間もなく現実のものとなった。
教団関連のギルドに脅迫された、タケルという日本人とヒーラーはレッドトマホークの誘いを受けて逃げ込み、業界最大手ギルドと、宗教の絡むアイアンメイスの対立は激しいモノとなったからである。
【その頃の教会の様子】
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