ヒロインピンチを切り抜ける、三十路半ニート男のドドドドドドド……本気モード異世界冒険記

スィグトーネ

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34.アキノスケの修業

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 翌朝。しっかりと就寝を取った僕は、キンバリーからアドバイスを受けていた。
「キンバリー……僕に足りないモノってなんだと思う?」

 キンバリーはじっと僕を眺めると、少し考えてから答えた。
「そうですね。アキノスケ様はユニコーンフォームの時は、とても強いですが……人間の状態だと不安が残るように感じます」

 その言葉を聞いて、さすがはキンバリーだと思った。
 実は僕もそのことが気になっていたのである。確かにウマ状態の僕の戦闘力はそれなりだが、裏を返せば人間状態で強敵から勝ち星を上げたり、活路を見出したことはない。
「確かにそうだね。人間状態の僕はまだまだだ」
「ユニコーンフォームの強みがあるように、ヒューマンフォームにも強みがあります。どう戦うのかを考えてみましょう」
「ああ!」


 朝食を済ませると、僕はキンバリーから訓練を受けることにした。
「あなたは一角獣になることを考えると、普段使う武器はレイピアがいいと思います」
「な、なるほど……理にかなった武器だね!」
「メインウエポンはレイピアですが、体術と組み合わせることも心掛けてください。ウマの肉体になったときに、タックルや蹴りはかなりの武器になります」
「魔法を撃つというのもアリだよね」
「もちろんです! まずは基本的なレイピアの扱い方からおさらいしましょう」

 キンバリーは普段から短剣を使って戦うことがあるため、こういう剣タイプの武器の扱いには慣れているようだ。彼女の説明はわかりやすいうえに的確で、僕も比較的すぐに呑み込むことができた。
「では、ここからは身体で覚えていきましょう」
「う、うん……よろしくお願いします、キンバリー先生!」


 お互いにレイピアに見立てた棒を持つと、僕は教わった通りに身体を動かしながら、キンバリーと模擬戦を行った。
 すると、何と言うべきだろう。キンバリーが立派な角を持つウマのように見え、角での競り合いをしているかのような錯覚を覚えた。

 当然ながら素人の僕は防戦一方となったが、それでも僕の中で血肉になっていくのを感じる。
 キンバリーが踏み込んで僕の棒が飛ばされたときも、僕が突きかかってキンバリーに交わされて蹴りをいれられたときも、不意を突かれてキンバリーに小手を打たれたときも、負け続けたが僕は少しずつ強くなっている感じがする。


 休憩を挟みながら訓練は続き、夕方になったときには僕は泥だらけになっていた。
 繰り返し負けてばかりだったが、それでも目はだいぶ慣れてきた。最初のうちはキンバリーの動きが目にさえ映らないことがあったが、今ならある程度攻撃をさばけるようになっている。

 彼女が棒を突き出してきたとき、僕は無意識のうちに彼女の棒を払い除け、ここに隙ができたと感じた。
「……そこ!」

 そして僕の取った選択は、キンバリーにとって予想外のモノだったようだ。
 僕は棒で突きに行くのではなく、そのまま体当たりを見舞った。
「ぎゃあ!」

 回避行動の遅れたキンバリーはバランスを崩して転倒。僕も一緒に彼女に倒れ込んでからハッとした。
 どこ触っているんだ……僕は?

「あ、ごめ……」
 キンバリーは厳しい表情をすると、一瞬で僕に関節技をかけてきた。
「うわ!?」
「こういう時に油断してはダメです! こうなりますから!!」
「うわわわわわ……ギブ、ギブ、ギブ!」


 訓練が終わったときには、僕だけでなくキンバリーも泥だらけになっていた。
 こうやってお互いの姿を見ると、汚れてもいい服装をしていて良かったと思える。
「キンバリーとはレベルも近いし、いい勝負ができるんじゃないかと思っていたけど、そんなに甘くはないね」
「レベル以外にも武器熟練度というものがありますからね。毎日地道にトレーニングを続けていけば、きっと役に立つ日が来ると思います」

 そう言いながらお互いに微笑み合っていたら、スティレット支部長が戻ってきた。
『ただいま~』
「お帰りなさい!」
 スティレットは、僕たちの恰好や棒を見ると満足そうに微笑んだ。
『修業をしていたんだね。何も言わなくても自発的に努力する人間はギルドの宝だよ!』


 彼にまで褒めてもらえると、とても照れくさくなってしまう。
「ありがとうございます。前の戦いでは至らないところが多かったので……」
 僕は視線を向けた。
「ところで支部長。今日はずいぶん長い間……外出なさっていましたが?」

 そう質問すると、彼は真剣な表情をした。
『今日は新冒険者街のギルド長会議に出席していたんだ。あとついでに……昨日手に入った箱を、インディゴメイルズとアイアンメイスに鑑定をお願いしてもらってる』

「な、なるほど……何か興味深いことがわかるといいですね」
『箱の件はしばらくかかるだろうけど……』

 前置きをすると、スティレットは難しい表情をした。
『ギルド長会議では、厄介な話が出てきたんだ』
「厄介な話……とは?」
 スティレットは気が進まなそうに答えた。
『次回の魔物の襲撃に備えて、各ギルドで戦士を集めて北側の守りにつけてくれ……という話が軍や商人ギルドから出ている』

 その話を聞いて、僕はキンバリーと目を合わせた。
 スティレットが嫌な顔をするということは、あまり謝礼も用意されていないのだろう。

――――――――
――――
――



 僕たちが、マジかよと思っていた頃……邪竜のほこらの中では、ある事件が起ころうとしていた。
 魔族の一団は、襲撃で拉致したレア能力者たちを、透明な箱から出してアジトに連行していたのだが、その様子を眺めている戦士たちがいる。
「アニキ……情報通りでっせ」

 ウェアウルフの子供に言われると、その人物は望遠鏡を片手に唸った。
「ほう……可愛い女の子ばかり捕まっちまってるな。これを見捨てるなんて、この世界の冒険者は終わってる」

「おお……いい女がいるじゃねえか! 手筈通りにやるぞ!!」
「へい、アニキ!」

【望遠鏡に映っている女性】
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