ヒロインピンチを切り抜ける、三十路半ニート男のドドドドドドド……本気モード異世界冒険記

スィグトーネ

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31.本物の悪魔との戦い

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 間もなくフロンティアトリトンズの前衛部隊と、魔物の軍勢の戦いが始まった。
 一角獣スティレットの指示に従いながら、人魚の男たちは一斉に槍を打ち下ろし、次々と魔物の尖兵たちを倒していく。狭い道が戦場となったのもあり、魔物の軍勢は攻めあぐねていた。

「さすがは支部長……近くにいるだけで強い!」
 スカーレットが言うと、隣にいた人魚ジェシカも頷いた。
 スティレットは一角獣なので、当然ながらユニコーンホーンがある。魔物にとって清浄な気を放つユニコーンホーンは厄介なシロモノらしく、近寄るだけでも皮膚が溶けだす状況だった。


「魔物から見ると、スティレット支部長って存在自体が嫌がらせみたいなものなんだな」
 そう呟くと、キンバリーは「確かに……」と言いながら頷いた。実際に魔物は次々とフロンティアトリトンズの戦士たちに倒されるだけでなく、魔物が命と引き換えに与えたダメージさえ、ユニコーンホーンの効果によって回復していく。

 その直後に、僕の耳が妙な音を捉えた。
 場所は……ギルドの屋根の上だ!

 すぐに視線を向けると、そこには妙な姿をした生き物がおり、真っ赤な目をぎらつかせながら僕の姿を映していた。

――見つけたぞ、ヒーラー!


 その直後に、妙な生き物の額に亀裂が走っていき、中から3つ目の赤い目玉が現れた。
 そこには、なにか生き物の姿が映っており思わず凝視すると、そのなかに入っていたのはなんと黒毛のウマ……つまり僕自身の姿だった。
「いけない!」

――アビリティ発動 瞳の中の監獄マーズプリズン

 とっさにキンバリーが縋りついてきた直後、僕の姿は幻のように消えていき、キンバリーも巻き込まれる形で姿を消していく。


 直後にスティレット支部長の「しまった!」という声が聞こえてきた。
 脚力に優れるクロエは、すぐに近くにある木箱を足場に飛び上がり、屋根に飛び移ってから、短剣を構えて妙な生き物に攻撃を仕掛けたが、妙な生き物は軽々と攻撃を受け流した。

 その横ではジェシカが槍を投げつけたが、妙な生き物は視線を向けることなく払い除け、スカーレットも上空に飛び上がって矢を放ったが、妙な生き物は矢も手で払い落した。

「うるさい小娘が!」
 妙な生き物はそう吐き捨てると、クロエの腹部に蹴りを入れようとしたが、クロエは紙一重で避けてナイフを妙な生き物に突き立てた。
 同時にジェシカも、自分の身体の魚の部分を吸盤のように壁に貼り付けて、するすると登っていって屋根の上へと立つと突き刺さっていた槍を引き抜いた。

 妙な生き物はジェシカを攻撃しようとしたが、スカーレットが風魔法を放ってけん制を入れ、更にクロエが短剣で連続攻撃を見舞っていく。
 その直後には、裏口を警護していた支部長の孫娘ミドルダガーが、角からマジックショットを放っていた。
「くっ……なんだ、こいつらは!?」


 僕はその光景を見ながら考えを巡らせていた。
 この状況を脱するには、どうしてもキンバリーを守り抜かなければいけない。できれば、彼女を収納する方法はないだろうか。
 今は奴も気を取られているが圧倒的なレベル差があるのだから、いずれはスカーレットたちもパワー負けするだろう。


 僕はキンバリーの身体を触れて、頭の中の手帳を捲っていく。
 彼女の記憶の中に……キンバリーを隠す方法はないか。そう思いながら考えを巡らせていたら、彼女は首を横に振って僕を見た。

――私に考えがあります。そのまま目を瞑ってください

 僕は、え……? という言葉が喉元まで出かかった。
 この状況で一体、彼女の中にはどんな腹案があるのだろう。いまいち考えが読めないが、僕の中に打開策が一つもないのだから、ここは彼女にお願いするしかなさそうだ。


――わ、わかった!

 そう思いながら目を瞑るとキンバリーは僕の首と肩に手を伸ばし、そのまま僕の身体は光に包まれながら消えていく。
 何が起こったのか確認してみると、どうやら僕の肉体と精神は彼女の右手のロッドに包み込まれたようだ。
 これはもしかして収納魔法ではないだろうか。確認する術はないが、なんとなくそうなのではないかと思える。


 外では、まずクロエがやられる音が響き、次にスカーレットが植え込みに落下し、最後まで頑張っていたジェシカも、水面に叩きこまれて倒されてしまった。

「……こいつらも連れて帰りたいところだが、状況が状況だ。次の機会にするか」

 そう言いながら妙な生き物は額に手を突っ込み、第3の目と思しきものを取ると、キンバリーだけになっていることに気が付いたようだ。
「……なるほど。ウマは分身で本体はこの女……というわけか」

「出しなさい!」
 そう言いながらキンバリーは赤い水晶の壁を叩いたが、生き物はバカにしたように笑った。

「生意気な女だ。逆らおうという気が起こらなくなるように、たっぷりと調教してやろう」
 妙な生き物が指をはじくと、キンバリーは一旦は表に姿を見せたが、すぐに上着を剥がれて、ガラスのような箱の中へと閉じ込められてしまった。


「さて、今回も収穫は上々だな……そろそろ帰るとするか」
 そう言い残すと、妙な生き物は背中の翼を広げて飛び立った。


【箱の中に入れられるキンバリー】
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