ヒロインピンチを切り抜ける、三十路半ニート男のドドドドドドド……本気モード異世界冒険記

スィグトーネ

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29.魔物たちの襲来

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 僕とキンバリーは、ジェシカの歓迎会を終えると自室へと戻った。
「これで、攻守ともに隙の無いチームになったね」
「そうですね。これからが肝心です!」

 キンバリーの言葉に同意すると、僕は少し早めに就寝することにした。
「もう、休まれるのですか?」
「うん、明日からはクエストを睨んで訓練なんかも行っていくつもりだからね」
「なるほど……それもそうですね」

 間もなく、キンバリーもすぐに書き仕事を終えてベッドに入ってきた。
 柔らかい肌と甘い匂いに癒されながら、ゆっくりと目を瞑ると、僕は溶けるように就寝していく。


 このまま心地よい眠りが朝まで続くのかと思ったとき、表から沈黙を破るように警鐘が鳴り響いていた。
「なんだ……?」
 そう言いながら起きると、キンバリーも目を擦りながらベッドから出た。

 街の方角を見ると既に火の手が上がっていたので、最初のうちは火事なのではないだろうかと思った。
 しかし、隣の部屋から顔を出したウェアウルフのクロエの表情を見ると、彼女は一瞬で牙を見せた。
「……血煙の臭いだよ、これ!」
「なんだって!?」


 そんな話をしていたら、一角獣のスティレット支部長が来た。
『全員、いつでも戦いができるように備えて!』

 彼の言葉を聞いて、僕たちはすぐに身構えた。
「町の方で何かあったんですか!?」
『渡り鳥たちの話だと、魔物が塀を突き破って市街地に侵入してきているみたいだ』
「な、なんだって!?」

 間もなくトリトンズでは、付近の住人をギルドの敷地に避難するように誘導を始めた。
 この冒険者街の支部は、川の側の小高い丘の上に建っているため、こういう火急の際には避難場所として機能するようになっているのである。


 ギルド員たちの行動に、スティレットも満足そうに頷いていた。
『問題なく、避難行動も進んでいるようだね』
「確か、ギルドの近くに住んでいる人たちって、ギルドメンバーの家族とか顧客だったりするんですよね」
『そうだよ。多分だけど……全く関わりのない人は1人としていないんじゃないかな?』

 そんな話をしていたら、ちょうど宿泊していたアイラ支部長も姿を見せた。
「スティレット支部長……現状はどうなっているのでしょうか?」
『あまり旗色は良くないみたいだ。下手に打って出ると、ギルドの守りが手薄になるうえに、応戦しているギルドを混乱させてしまうから、今は情報収集に務めさせてもらっているよ』

 その話を聞いたアイラは頷いた。
「よいご判断だと思います」
『とりあえず、経過を見守るようにギルドメンバーには伝えて欲しい』

 そう指示を受けると、クロエとスカーレットは頷いた。
「わかりました。そのように仲間たちに伝えてきます」


 この襲撃によって、大きな被害を受けたのは、新冒険者街でも北部に事務所や寮を構えていたギルドだった。
 冒険者ギルドのように普段から武装している勢力でも、多くの死傷者を出す結果となり、特に被害が深刻だったのはハンターのギルド【シャドーアローズ】と、神官やシスターのギルドである【アイアンメイス】だった。

 【シャドーアローズ】は、被害を受けたギルドの中で最も多くの死者を出した上に、支部長が戦死するほどの被害を出した。
 そして【アイアンメイス】も、当直だった副支部長が負傷したうえに、ヒーラーやエンチャンターと言った、レアリティの高い能力者を何人も魔物側に拉致される失態をおかすこととなってしまった。


 その被害の全容を、渡り鳥たちから聞いていたスティレットは、苦々しい表情をしながら頷いていた。
『なるほど……その様子だと、他のギルドからのレア能力者引き抜きに注意しないといけないね』

 ハトは鳴き声を上げると、やがてバサバサと羽音を立てながら飛び去っていった。
「引き抜きって、ヘッドハンティングのことですか?」
 そう質問すると、スティレットは頷いた。
『そうだよ。アイアンメイスなら改宗を迫って来るだろうし、シャドーアローズなら高い地位を提示してギルド替えるように勧めてくるのが一般的だね』


 その話を聞いて、どちらにも魅力を感じないと思う僕がいた。
 ミリズス会という団体の話を聞くと、僕の世界の某宗教団体の劣化版という感じがするし、シャドーアローズのギルドの取り分を考えると、いくら高い地位を用意されたところで、僕にとってはそもそも地位などどうでもいいものだ。
「ヒーラーのヘッドハンティングなら、まず支部長に声がかかるんじゃないですか?」
『やだよ。こんな年になってから環境を変えられたくないね』
「同じく」

 そう答えると、スティレットはじーっと僕を眺めてきた。
『君はまだ若いだろうアキノスケ君!』
「そんなことはないですよ。とっくの昔に三十路は過ぎているんで立派なオッサンです」

 そんな冗談を言っていた僕たちだが、この襲撃はほんの前哨戦に過ぎない事態だということを、まだ知らなかった。


【魔物に捕まった他ギルドのヒーラー】
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