ヒロインピンチを切り抜ける、三十路半ニート男のドドドドドドド……本気モード異世界冒険記

スィグトーネ

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28.スティレットとアイラ

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 一角獣の勇者スティレットには、おおよそ1000の密偵トリたちがいるという。

 彼らはスティレットが密かにブラックリストに入れている人物が近づくと、翼を広げたり首を動かしたりしながらまるで旗信号のように伝言を別のトリに伝え、そのトリもまた別のトリへと伝えている。

 そのうちの1羽が、翼を広げたり首を動かしたりして、ハトに情報を伝えていた。
【ナンバー23。半径1000メートル圏内に接近】
【ラジャー!】
 ちなみにブラックリストにも危険度が設定されており、アイラ支部長は堂々のAランク。
 理由はもちろん、規律にうるさくフロンティアトリトンズの風紀委員と揶揄されるほどだからだ。


「お母さま……ここが冒険者の最前線と言われる街……ですね」
「その通りですジェシカ。この最前線を守る者こそ、トリトンズに初めて現れた2振の勇者のひとり……一角獣スティレット」

 その言葉を聞いて、ジェシカはゴクリと唾を呑んでいた。
「聞いたことがあります。このフロンティア王国の軍馬たちの質を……たった1頭で飛躍的に向上させたという伝説の……!」
「ええ、弱小国として知られていたフロンティア王国も、そのたった1頭の勇者の登場で自信を付けただけでなく、周辺諸国に与えるパワーバランスさえも変えたと言われるほどの御方です」
「す、凄い……!」

 その言葉を聞いたアイラは鋭くジェシカを睨んだ。
「凄いなんていう軽い言葉で彼を騙ってはいけません! 彼の存在のおかげで……王国は15年前と8年前に戦争に巻き込まれずに済んだと言われるほど! スティレットこそ異世界の勇者カイトと並ぶ、この国の雄なのです!」
「わ、私が間違っておりました!」


 その親子の会話を聞いていたトリたちは、困り顔になってお互いを見つめ合っていた。
 普段のスティレットと言えば、日向ぼっこをしたり、大あくびをしたり、飼い葉を食べていたり、女性ギルド員にセクハラをしていたり、自分や仲間のボロの臭いを嗅いで嘶いていたり……という様子である。

 あまりに乱れ切った生活をしているため、悪口は【中庭のオキモノ】や【角付きダバ】である。確かに彼らがこんな表情をする理由も……いた!?
『あまり普段のことをばらすと、君の秘密も喋るよ』

 ごめんなさい……。


 まあとにかく、ギルド員たちはトリたちのもたらしてくれた情報のおかげで、HUMAJIMEグッズを隠すことに成功し、スティレットもシャッキっとした顔でアイラ支部長とジェシカ嬢を迎えることができた。
 こんなにギルドメンバーがバタバタするのは、ギルド長のフェリシティーが来た時くらいだとスカーレットも言っていた。

「お久しぶりです、スティレット支部長」
『わざわざ、こんな山奥まで来てくれてありがとうアイラ』

 僕も人間の姿でスティレットの隣に立って、アイラ支部長とジェシカ嬢を出迎えていた。
 するとアイラは、どこか懐かしそうに僕を眺めてきた。
「こちらの方が、お手紙で紹介して下さったアキノスケさんですか?」
「はい。お初にお目にかかります」

 そう言いながら挨拶すると、アイラ支部長は手を差し出してくれたので握手を交わした。
 スティレットもにっこりと笑ったまま言う。
『アキノスケ隊長と、キンバリーをはじめとした5人小隊になります。攻守ともにバランスの取れたパーティーになりそうです』

 その言葉を聞いたアイラも、納得した様子で微笑んでくれた。
「それを聞いて安心しました。ジェシカは下手な男隊員よりも強いとはよく言われますが……それでも経験は浅く、怖いもの知らずなところがありますので」
「もう……お母さんったら……」


 まあ、そうだよなと僕も思った。
 確かにジェシカの身体からは、20代中盤から後半に匹敵するような霊力が流れ出ているが、顔立ちを見るとまだ学生のようなあどけない雰囲気が残っている。
 経験という意味では、キンバリーやスカーレットの方が一枚上手かもしれない。
「わかりました。できたばかりのパーティーですが……あらためてよろしくお願いします」
「こちらこそ」

 今度はジェシカ嬢と握手を交わすと、やはり母親アイラとオーラの質が似ていた。
 もし、彼女に身に何かあれば、支部長とはいえアイラも相当なショックを受けるだろう。あらためて隊長としての責任の重さを実感させられる。


 いやジェシカだけではない。
 キンバリーにも、クロエにも、スカーレットにも、血の通った親や兄弟、それに友人知人もたくさんいるのである。
 全員が無事にクエストから戻る……という基本であり、大切なことがどれほど難しいか、僕はその意味を少しずつ理解しようとしていた。


【キンバリーの子供時代】
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