ヒロインピンチを切り抜ける、三十路半ニート男のドドドドドドド……本気モード異世界冒険記

スィグトーネ

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25.思わぬ奇襲

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 僕は歯がゆく思いながら、オタク風の男を睨んでいた。
 てっきり奴の使う【ザ・コレクション】は、男に触れたらトリガーすると思っていたが、実際には手下と思われる、クロエやスカーレットのコピーに触れられても発動してしまうようだ。

 しかも、クロエやスカーレットの石は僕の側にある。
 これだけ離れていてもコピーを出すことができるというのも想定外だ。
「さすがは……神が与えた力と言われるだけのことはある」


 そう言いながら角を構え直したが、オタク風の男は僕ではなくスティレット支部長を睨んだ。
「厄介なのはお前だ……ウマに興味はないが、お前もコレクションに加えてやる!」

 オタク風の男は唸るようにつぶやくと、戦闘不能になっていたウェアウルフの女戦士を回収した。
 そして、攻撃を受ける前に、ウェアウルフの女戦士、有翼人の女戦士、エルフの女魔法使いの3人を出した。
「よし行け! ヴァルキュリアアルファ・ベータ・ガンマ!」

 いくらレベルの高いスティレット支部長でも、すでに高齢の身で3人の戦士を同時に相手にするのは無理があるようだ。彼は3戦士の連続攻撃に晒されながら、僕にテレパシーを飛ばしてきた。

――この3人は小生が食い止める。だから君が1対1になっている間に、その男を倒すんだ!


 僕は脂汗を流しながら、そのオタク風の男を睨んだ。
 コイツはなんて奴だろう。この敵を捕らえてガーディアン化させる能力だけでも厄介なのに、更に自分自身の身体を煙のようにしてしまうアビリティまで持っている。
 正直言って、勝ち筋が見えない!

 だけど脳裏に、水晶の中に囚われたキンバリーの姿が浮かんだ。
 ここで僕が……アキノスケが負けたら彼女はどうなる!? キンバリーだけじゃない。クロエという少女や、危険も顧みずに偵察に向かって、僕たちに敵の手の内を見せてくれたスカーレットだって、敵に捕まってしまっている。

 僕が奴と1対1をできるように、必死に敵を引き付けてくれている支部長もいる。高齢な馬なのに、彼は部下たちのことを心配してついてきてくれた。
 こういう人たちのために、何かできないのか……!


 僕は角を光らせると、足元から水塊を発射した。
 そのフェイントもオタク風の男の身体をすり抜けて、後ろにあった壁にぶつかっていた。だけど、威力は支部長の水魔法とは比べ物にならないほど弱い。本当にバケツで水をかけた程度の威力だ。

 同時に駆けていくと、僕はオタク風の男に蹴りを見舞った。
 それも軽く受け流されるように男の身体を通過していく。男の反撃のパンチが僕の顔に入った。口の中が切れた。血の味がした。だけど僕も蹴りを返した。

 その攻撃も男の身体をすり抜けた。
 男のパンチが僕の頬に命中した。僕は歯を食いしばって男に至近距離から水魔法を放った。だけどこれも当たることなく後ろの壁に命中している。
 その後に男の蹴りが、僕の前脚に当たった。僕も男に攻撃を仕掛けるが、それもすり抜けた。


「お前は全く問題にならないなぁ、若ウマぁ!」
 その直後に角を突き立てたが、男の顔は煙のように実態をなくして僕の角は宙を切っていた。本当にコイツは目の前にいるのに実体がない。
 一方的に殴られるくせに、こっちの攻撃は全て素通りする。一方的にやられたスカーレットの気持ちがわかる気がした。


 だけど僕はここでふと思った。
 こいつ、攻撃を受けたらカウンターのようにアビリティが発動しているんだけど、どんな時でも能力が発動するのだろうか。
 たとえば、不注意で転ぶ……とか。

 試しに僕は、わざと岩を蹴ってから、男の攻撃を誘ってみた。

 再び拳を顔面に受けたわけだが、オタク風の男も踏み込んだ時にバランスを崩したらしく、その直後に転倒して身体を打ち付けていた。
 すかさず、僕は男を踏みつけようとしたが、この攻撃は男の身体をすり抜けてしまった。

 だけど……ケガはしている!
 この男のアビリティは、もしかしたらだけど……自分がターゲットになったときに自動的に発動するようにできているんじゃないだろうか。
 だから、自分から勝手に転んだときはダメージを受けた。自分からぶつかりに行っているからんじゃないかと思える。


「くっ……いてぇ……この!」
 なるほど。ならば……どんなターゲットでもトリガーするのだろうか。
 次は試しに、この男に【ヒーリング】をかけてみよう。


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