ヒロインピンチを切り抜ける、三十路半ニート男のドドドドドドド……本気モード異世界冒険記

スィグトーネ

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23.キンバリーの秘技

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 舟から陸に上がると、キンバリーは僕に視線を向けた。
「支部長……例の技を使ってもいいでしょうか?」

 その言葉を聞いたスティレット支部長は、不敵に笑いながら頷いた。
『技の使用等は、君に一任する』
「ありがとうございます」

 彼女は満足そうに笑うと、僕の手を握ったまま木の陰に隠れた。
 いったい、何をするつもりだろう。

 キンバリーは右手に杖を出すアビリティを使ったようだ。
 すると、その杖は黒く変色していく。何だか強い霊力を感じるが、どんな効果があるのだろう。


「いったいこの杖は……?」
 キンバリーはにっこり笑うと、水面に視線を向けた。
 なんだろうと思いながら、僕も視線を向けると……なんと僕とキンバリーの姿が映っていなかったのである。

「す……凄い、なにこれ!?」
「異世界人の父から受け継いだ能力です。とはいっても消えるのは姿だけで声や臭いは残ります」

 そういえば新冒険者街に来る前に、山賊に待ち伏せをされたことがあったが、連中の目の前で【スペース】を使う前に驚いていたということがあった。
 あれってもしかして、山賊から見たらウマの姿はないのに、蹄を打ち鳴らす音だけが聞こえてきたということだったのだろうか。だとしたら……なかなかホラーな出来事に見えただろう。


 とにかく、ここからは私語は慎んだ方がいいだろう。せっかくの特技も敵にバレてしまっては意味がない。
 スティレット支部長はといえば、耳を動かすと何も言わずに歩き出した。恐らく、僕たちが透明な姿のままそばを歩いていること理解しているのだろう。

 スティレットはあくまで単独行動しているような雰囲気のまま、森の中を進んでいく。
 森の中にはゴブリンが縄張りを主張するように、木々に傷などを入れていたが、肝心のゴブリンは1匹もいない。恐らく、倒されたかコレクション化されたのだろう。


 スティレット支部長も、臭いを辿りながらゴブリンの洞窟の前へと立つと、中を睨んでからゆっくりと入って行った。もちろん、姿は見えていないが僕とキンバリーも一緒だ。

 彼は淡々と洞窟の中に歩みを進めていくと、鼻の穴を大きめに広げた。
 少しわざとらしい行動だったので、敵が近いぞと合図をしてくれたのだろう。

 僕だけでなくキンバリーも、慎重に歩みを進めていく。
 スティレット支部長が洞窟の奥を睨んだ時、そこには確かに人影のようなものが見えた。人間状態の僕にも見えたくらいだから、夜目の利くウマの目を持つ支部長や、聴覚の鋭いキンバリーなら姿を捉えているだろう。

 オタクのような風貌をした、異世界転移者の姿が見えた。
「……ん? なんだ? 何か来たかと思ったらタダのウマじゃん」


 そう呟くと、オタクは面倒くさそうな顔をしていた。
 どうやらこの男。若い女性が来ると喜んでコレクションにしているようだが、ウマには興味がないようだ。支部長に向かって「しっ……しっ……」と追い払おうとしている。

 その行動を見ていた支部長は、おもしろがる野生馬のように笑いながら、そのオタクの男に近づいていった。
「うわあ! なんで近づいてくるんだよ……オイラ、獣は苦手なんだよぉ」

 スティレット支部長は嫌がるオタク男に近づくと、スリスリと顔を近づけ、鼻息をかけたり、払い除けようとする手を舐めたりと、やりたい放題の様子だ。
「ぎゃー汚ぃ! 舐めるんじゃねー!」
「ヒヒィーン!」

 そんなやり取りをしながら、ポケットに鼻先を突っ込むと、なんとコレクションと思われる石を地面に落としていた。
「ああ、このウマ……オイラのコレクションを!」

 直後に支部長は、わざと自分の身体で意味ありげな石を隠すと、後ろ足で蹴って僕の側まで転がしてきた。
 僕もまた男に見えない位置だということを確認して、右手で石を立て続けに拾った。


 片方にはクロエが入っており、もう片方にはスカーレットが入っている。
 僕はキンバリーと顔を見合わせると、少しずつ男から遠ざかった。

「……! ちょっと待て、そこのウマぁ!」
 スティレット支部長は野生馬のフリをしていたが、オタク風の男は叫んだ。
「石の場所が動いてるぞ! くそ……誰が……いったい、どんな手品を使っているんだ!!」


 なるほど。どうやらこのオタク風の男は、自分のコレクションの位置がわかるようだ。
 だけどあいにく、ここは人間にとっては視界の利かない洞窟の中だ。これを利用しない手はない。

 そう思いながら逃亡を続けていると、オタク男は激昂した様子で叫んだ。
「どんな汚い手をつかっても無駄だぞぉ! オイラのザ・コレクションズは、一度捕らえたエモノはオイラ以外には解除できない! そういう特殊能力だからだ!!」


【ゴブリンの洞窟】

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