ヒロインピンチを切り抜ける、三十路半ニート男のドドドドドドド……本気モード異世界冒険記

スィグトーネ

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20.有翼人スカーレットの偵察

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 結局、偵察に向かったウェアウルフのクロエは戻って来ることはなく、受付嬢のソフィアは支部長のスティレットに報告をしていた。
『……クロエが戻らない……か』
「はい。救助隊を派遣しますか?」

 スティレットは視線を上げると、その目に渡り鳥を映した。
『……そうだねぇ』


 彼はブツブツとささやいてから、視線をソフィアに戻した。
『有翼人スカーレットに調査をお願いしよう』
「わかりました」

 有翼人スカーレットは、ウマ勇者スティレットに憧れてトリトンズに入ったという、少し変わった経歴を持つ女性だ。歳は16歳でキンバリーの後輩であり、人魚族が中心のトリトンズでは貴重な有翼人のギルドメンバーである。

 ちなみに父親は、名門インディゴメイルズのカール。母親は有翼人のギルドにいたアピゲイルという女性らしい。
「支部長。お話はソフィアさんから聞きました」
「クロエの件……何か嫌な予感がする。少しでも身の危険を感じたら調査を中断して構わない。慎重に調査を行って欲しい」
「はい!」


 さて、どうして淡々とギルドの話をしているのかと言えば、実は僕はキンバリーから遠距離偵察の魔法を教わっていたのである。
 スカーレットには既に協力をしてもらい、専用の水晶を胸から下げてもらえば、彼女とだいたい同じ視野でモノを見聞きすることができる。
 
 もちろんアビリティの模造品のような魔法なので、これにも弱点は存在する。
 まず、専用の水晶を作るのに手間とそれなりのお金がかかる。
 次に、スカーレットの協力が必要不可欠。
 3番目に、この魔法自体がとても難しく、使い手をかなり選ぶ。
 4番目に、距離が離れすぎると適性のある使い手でも、感度が悪くなる。
 5番目に、洞窟や遺跡など暗黒磁場や瘴気の強い場所に入ると、感度が悪くなる。

 まあ、ちょっと挙げただけでも様々な弱点が存在する魔法だが、離れた位置にいながら情報が取れるというのは大きなメリットだ。これだけで多くのデメリットに目を瞑ることができる。


 有翼人のスカーレットは、クロエが向かったというゴブリンの洞窟を目指して進んだ。
 普通なら舟をこぎながら森の前まで行って、そこから森の中を通って洞窟に……というルートを通らなければならないが、彼女は飛べるので一気に洞窟前までショートカットできる。


 通信状態も良好なので、これなら洞窟の中に入っても水晶玉の映像に影響はないだろう。
 スカーレットは、辺りを見ながら慎重に洞窟の入り口を見た。

「おかしい……ゴブリンの見張りがいない」
 彼女は少し思案していた。
 当然の反応だと思った。ゴブリンの巣のはずなのに見張りのゴブリンがいないというのは妙な話だ。それとも何か理由でもあって引っ越したとでもいうのだろうか。

「どう思う、キンバリー?」
「不自然な話です。ふつうゴブリンは1度巣を構えたら……相当なことが起こらない限り定住します」
 つまり、ゴブリンたちの身に相当なことが起こったか、或いは……ということか。


 キンバリーは心配そうに言った。
「ねえスカーレット、引き返した方がいいんじゃ……?」
 そう話しかけると、スカーレットは返事をした。
「この程度のことなら、スティレット様ならすぐに察するはずです。私は……中まで行きます」

 大丈夫かな……と不安に思ったが、現場にいるスカーレットだって一人前のギルドメンバーだからこそ、支部長も単独行動を許しているのだろう。
 ここは、現場にいる彼女の判断に任せることにした。


 有翼人のスカーレットは、身を隠しながら洞窟の中を覗き込むと、やがて音を立てないように慎重に入っていった。
 洞窟の中は、いかにもゴブリンが住んでいそうな薄暗い空間で、ときどき岩陰から差し込む光のおかげで、辛うじて辺りを見回せるという感じだった。

「それにしても、本当にゴブリンがいませんね……」
「ここまで踏み込めば出てくるものなのかい?」
 そう質問を返すと、キンバリーは頷いた。
「はい。本来ゴブリンは、縄張り意識がとても強い生き物です。普通なら洞窟の中はおろか……スカーレットが近づいた時点でショートボウでけん制してくるでしょう」


 つまり、すでにゴブリンは壊滅してしまっているということか。
 いや、それならどうして死体がないのだろう。他の冒険者が既に撃退したのだろうか。ではどうして、偵察に向かったクロエが戻らないのだろう。

 わからないことだらけのなか、スカーレットは足を止めた。
「あれは……!?」


 彼女だけではない。僕やキンバリーの目にも、オオカミ耳を生やした少女のようなシルエットが見えた。クロエの肖像画は、僕もしっかりと見ているので理解できる。
 この背格好や輪郭は、どう見てもクロエだろう。

 スカーレットはあたりに警戒しつつも、クロエと思われる人影に近づいていった。
「クロエ……ねえ、クロエ?」


 彼女はそう言いながらウェアウルフのクロエの身体を揺すった。しかし、目の前のクロエと思しき少女は、揺らされても何も反応をしない。
 その直後だった。

「おお、こんなに早く……次のヴァルキュリアが来てくれるなんてなぁ!」

 スカーレットが視線を向けると、そこにはよく肥えた、如何にもオタクですと言いたそうな男が立っていた。
「貴方がクロエをこんなにしたの!?」

 彼女はそう叫びと、腰に下げていたナイフを抜いた。
 この容姿からするに相手は恐らく異世界転移者だ。果たしてスカーレットが太刀打ちできるだろうか。

【オタクの男】


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