ヒロインピンチを切り抜ける、三十路半ニート男のドドドドドドド……本気モード異世界冒険記

スィグトーネ

文字の大きさ
上 下
17 / 55

16.ウマ勇者さま

しおりを挟む
 間もなく、僕はアビリティ【ユニコーン・ケンタウロス】を使ったまま、中庭へと向かった。
 支部長のホワイトスティレットは、どうやらここで1日を過ごすのが日課となっているらしい。


「スティレット支部長……キンバリーが戻りました。それから、ギルドに加入を求めている方も一緒です」
 その話を聞いた尾花栗毛のウマ勇者は、たてがみをなびかせながら視線をソフィアに向けた。
『わかった。入ってもらおう』


 まずはキンバリーが挨拶をした。
「お久しぶりです、スティレット支部長……」
「…………」
 スティレットは微笑みながら、僕たちの側に歩み寄ってきた。
 近づいてくるとよくわかる。スティレットの栗色の毛並みはくすんでいて艶はなく、あばらの辺りには骨が浮き出ていた。
 人間に直したら、果たして何歳になるのだろうか。


 キンバリーも同じことを考えているらしく、どこか心配そうな顔をしたままスティレットを眺めていたが……
『何か、お土産はないの~?』
 こういいながら、おウマの勇者様はなんと、キンバリーのローブのポケットを探りはじめた。
「ひゃあ……もう、セクハラですよ支部長!」
『いいではないか~ いいではないか~』

 なんだよこのウマは……と思いながら唖然としていると、おウマの勇者は僕を見て言った。
『コホン……小生こそ、勇者の中で最も小物と言われる、スケベ馬のスティレットだよ』
「は、はあ……」

 このお馬さんでも、透明な首輪は見えないのか。
 ……とガッカリしていたらスティレット支部長は僕に絡んできた。

『元気がない新馬さんだな~ シャキッとしないと、小生のひ孫たちの中に放り込んで……強制スケベ合宿の刑だぞ!』
「うわわわわわ!」

 こ、このウマ……僕の苦手なタイプだ。
 どう対処したらいいか、判断に困っていたら、隣で見ていたキンバリーが助け舟を出してくれた。
「あの、支部長……入団試験を……」
『し~け~~ん~~~~?』

 そう言いながらスティレットは、キンバリーをジロジロと眺めていた。
 というかウマ勇者よ。アンタはウマの形なのと、この世界が雇用者有利なのだから問題になっていないけど、僕の世界でそんなことをすれば、いろいろと問題になるぞ。
 問題になる……よな……?


 そんなことを考えていたら、スティレット支部長は、じっと僕の顔を覗き込んできた。
「……?」
「…………」
「…………」
「…………」

 こ、今度は何だ。このお馬の勇者様は、僕のなにを観察しているんだろう。
 つーか、女好きと見せておいて両刀使いとかだったら嫌だぞ。僕だって牡馬になれるからな。そんなことになったらいろいろと問題になってしまう。
『よし、オーケー。今日から君は我が支部の一員だ!』


 その言葉を聞いて、思わず目が点になっていた。
 隣にいたキンバリーも拍子抜けした感じで、目をぱちくりとしている。
「あの……支部長。せめて……面談くらいは……」

 彼女がそう言うと、ウマ勇者は急に凛々しい顔をした。
『面談の必要はないよ。だってずっと君が一緒にいたのだから、彼のことはよくわかっているでしょう』

 その目が僕へと向いた。
『それにどうやら、キンバリーのピンチのときに、だいぶ無理をしてもらったみたいだしね』

 ウマ勇者の言葉に、僕は驚きを隠せなかった。
 キンバリーがウェアウルフに浚われた事件を知っている者はほとんどいないはずだ。キンバリー自身も帰って来たばかりだし、手紙を出すような時間もなかったから報告を受けているはずはない。


 一体どこから彼は、この情報を知ったのだろう。
 そう思っていたら、スティレットの後ろに数羽の渡り鳥がさえずりを響かせていた。
「…………」
「…………」

 もしかして、彼は渡り鳥を使役して、僕たちの行動をずっと前から把握していたのだろうか。
 そういえば記憶を辿っていくと、キンバリーが捕まった時も、僕がウマに変身した時も、ウェアウルフの村に潜入した時も、視界の隅に鳥の姿があった気がする。

「僕の名前は、馬養秋之介です。よろしくお願いします……支部長!」
 そう伝えると、スティレットは微笑んだ。


【ホワイトスティレット(遠くから見ると凛々しい)】
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

おウ魔王のごくごく平凡なダンジョン作成記 〜だから勇者さま、後生ですから、くれぐれも討伐には来ないで下さい〜

スィグトーネ
ファンタジー
 馬モンスターのチャンスコネクター号は、緊張していた。  すでに就職活動で12連敗している彼にとって、今回の面接は決して失敗は許されない。  なぜ、それほどまでに彼が苦戦しているのかと言えば、最近の魔王たちは、採用人数を大きく絞っているからである。  近年ゴーレムの性能が上がっているため、少ない人員でもダンジョンを管理できてしまう。  魔王たちは、如何に少ない人員でダンジョンを運営するかを自慢しはじめており、巷ではコスパの良いダンジョンが持てはやされている。  だから、チャンスコネクター号も、今回の魔王に不採用と言われてしまうと、モンスター街の有力魔王で頼れる者がいなくなってしまう。  彼は緊張しながら待機していると、魔王の秘書がドアを開け……チャンスコネクターの名を呼んだ。 ※この物語はフィクションです。 ※また、表紙絵や物語の中に登場するイラストは、AIイラストさんで作成したモノを使っています。

おっさん料理人と押しかけ弟子達のまったり田舎ライフ

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
真面目だけが取り柄の料理人、本宝治洋一。 彼は能力の低さから不当な労働を強いられていた。 そんな彼を救い出してくれたのが友人の藤本要。 洋一は要と一緒に現代ダンジョンで気ままなセカンドライフを始めたのだが……気がつけば森の中。 さっきまで一緒に居た要の行方も知れず、洋一は途方に暮れた……のも束の間。腹が減っては戦はできぬ。 持ち前のサバイバル能力で見敵必殺! 赤い毛皮の大きなクマを非常食に、洋一はいつもの要領で食事の準備を始めたのだった。 そこで見慣れぬ騎士姿の少女を助けたことから洋一は面倒ごとに巻き込まれていく事になる。 人々との出会い。 そして貴族や平民との格差社会。 ファンタジーな世界観に飛び交う魔法。 牙を剥く魔獣を美味しく料理して食べる男とその弟子達の田舎での生活。 うるさい権力者達とは争わず、田舎でのんびりとした時間を過ごしたい! そんな人のための物語。 5/6_18:00完結!

召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します

あけちともあき
ファンタジー
異世界召喚されたコトマエ・マナビ。 異世界パルメディアは、大魔法文明時代。 だが、その時代は崩壊寸前だった。 なのに人類同志は争いをやめず、異世界召喚した特殊能力を持つ人間同士を戦わせて覇を競っている。 マナビは魔力も闘気もゼロということで無能と断じられ、彼を召喚したハーフエルフ巫女のルミイとともに追放される。 追放先は、魔法文明人の娯楽にして公開処刑装置、滅びの塔。 ここで命運尽きるかと思われたが、マナビの能力、ヘルプ機能とチュートリアルシステムが発動する。 世界のすべてを事前に調べ、起こる出来事を予習する。 無理ゲーだって軽々くぐり抜け、デスゲームもヌルゲーに変わる。 化け物だって天変地異だって、事前の予習でサクサククリア。 そして自分を舐めてきた相手を、さんざん煽り倒す。 当座の目的は、ハーフエルフ巫女のルミイを実家に帰すこと。 ディストピアから、ポストアポカリプスへと崩壊していくこの世界で、マナビとルミイのどこか呑気な旅が続く。

タブレット片手に異世界転移!〜元社畜、ダウンロード→インストールでチート強化しつつ温泉巡り始めます〜

夢・風魔
ファンタジー
一か月の平均残業時間130時間。残業代ゼロ。そんなブラック企業で働いていた葉月悠斗は、巨漢上司が眩暈を起こし倒れた所に居たため圧死した。 不真面目な天使のせいでデスルーラを繰り返すハメになった彼は、輪廻の女神によって1001回目にようやくまともな異世界転移を果たす。 その際、便利アイテムとしてタブレットを貰った。検索機能、収納機能を持ったタブレットで『ダウンロード』『インストール』で徐々に強化されていく悠斗。 彼を「勇者殿」と呼び慕うどうみても美少女な男装エルフと共に、彼は社畜時代に夢見た「温泉巡り」を異世界ですることにした。 異世界の温泉事情もあり、温泉地でいろいろな事件に巻き込まれつつも、彼は社畜時代には無かったポジティブ思考で事件を解決していく!? *小説家になろうでも公開しております。

ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~

ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。 そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。 そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。

処理中です...