ヒロインピンチを切り抜ける、三十路半ニート男のドドドドドドド……本気モード異世界冒険記

スィグトーネ

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10.キンバリーを取り返せ

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 【キリン式テレパシー】を使ってみると、その霊力の伝わる速さなどから、洞窟の内部の様子がおおよそだが見当がつくようになった。
 そして、一般魔法のトレースを応用すると、僕は固有魔法【ユニコーンアイ】を覚えた。

 これを使えば……やはり、キンバリーの監禁されている位置がわかるし、周辺の警備状況も大まかに理解できた。

「……明日の夜になると、警備も厳重になるかもしれない」
 そう呟くと、音をなるべく立てないように走り出した。


 洞窟の側まで行くと、僕は固有魔法【スペース】を使った。
 すると、身体は壁をすり抜けて、洞窟の通路となっている部分に入り込むことができた。そのまま真っ直ぐに進んでいって、右に曲がると……調べた通りキンバリーが鎖に繋がれていた。

 彼女は、どうしてウマが入り込んできているのか驚いていたが、どうやらすぐに正体が僕だということに気が付いたようだ。
 僕はそっと近づくと、魔法【アンロック】を使って、まずは彼女の足を自由にした。
 

 キンバリーが両足で地面を踏みしめると、今度は両手を拘束していた手錠を外した。
 すると彼女は安堵した様子で僕にしがみつき、顔に口づけをしてくれた。
「ありがとうございます……」
「まだ、油断はできないよ。安全な場所に行こう」

 僕は後ろ脚を下げてお座りのポーズを取ると、キンバリーを背中に乗せようとしたが、ふとあることを思い出した。そういえば、キンバリーの服は母親から貰った大切なプレゼントだ。
 あれだけは、どう考えても取り返さないといけない。


 辺りを見回すと、ちょうど木でできた宝箱のようなものが置いてあり、中からはキンバリーの匂いがする。
 恐らく、この中に彼女の服や所持品が入っているのだろうが、箱の中から不自然に毒の臭いも漂ってきた。何だかオオカミ族の人間が、不必要に触った後もあるので、トラップが仕掛けられている危険性がある。

「普通にアンロックをかけるだけでは危ないな」
 そう言うと僕は、額の角を宝箱に近づけて【ユニコーンキーシステム】を使った。トラップに対して一番有効なのは【キーエクスチェンジ】だ。

 この魔法は普段、鍵穴の構造を変化させるシロモノだが、応用すれば中に仕掛けられているトラップの構造も変化させて無害化させることもできる。
 内部に働きかけを行ってみると、宝箱に仕込まれているのはクロスボウだった。


 クロスボウなら、弦の部分を壊してしまえば使い物にならなくなることは明白だ。
 【キーエクスチェンジ】を使って、宝箱の中に仕込まれているクロスボウを使い物にならなくさせると、僕はゆっくりと【アンロック】を用いて宝箱のカギを開いた。

 宝箱が開くと同時に、クロスボウが発射される構造になっていたが、弦の部分が壊れていたので矢はそのままという形になった。
 僕が頷くと、キンバリーはそっと手を伸ばして自分の衣服を身に纏い、他にも所持品を取り返した。


 間もなく僕は、その宝箱に【ロックアップ】の魔法と、【キーエクスチェンジ】の魔法を軽くかけておいた。
 鍵穴の構造をほんの一部変更した程度だが、開くと思っている箱が開かなければ、ウェアウルフたちの追っ手が減る可能性がある。

 その間にキンバリーも背中に乗ってくれたし、僕はゆっくりと立ち上がると洞窟の奥に向かった。
「ここから先は……行き止まりですよ?」

 どうやら彼女は、僕がどうやって入ってきたのかがわからないようだ。
 ゆっくりと岩壁を睨むと、僕はある場所に立ってから言った。
「しっかり掴まってて」
「は、はい」

 そして固有魔法【スペース】を発動した。
 僕とキンバリーの身体は、一瞬にして岩壁を通り抜けると、そのまま川へと落下していく。ぶっつけ本番という感じだが、僕は更に固有魔法を使った。

 固有魔法【ミニ・ホバークラフト】。
 そう脳内で叫ぶと、僕の4脚は水面に着水に成功し、水面に浮いている状態になった。背中に乗っているキンバリーもキツネにつままれたような雰囲気で辺りを見回している。


「こ……これはホバー? だけど……500キログラム以上のモノを浮かべるなんて……何という霊力! いや、そのまえに空間移動のアビリティをお持ちだったのですか?」
「あれは神の贈り物アビリティではなく、転移魔法の出来損ないだよ」
「いったい、どうやって覚えたのです?」

 間もなく、ウェアウルフの集落を抜けて森の中へと入ると、キンバリーは僕の背に跨りながら言った。
「……ウマノ……こほん、あなた」
「どうしたんだい?」

 そう聞き返すと、彼女は僕の背中を触りながら言った。
「アキノスケ様の2つ目と3つ目のアビリティ名が読めそうです!」
「その名前は?」

 質問すると、キンバリーは答えた。
固有魔法作成スペルクリエイター。他人の所有するアビリティを元に、自分独自の魔法を作り出す力です!」

 色々な魔法が次々と思い浮かぶのは、そういうアビリティを持っていたからなのか。
「3つ目は?」
「3つ目は……ええっ!!」
「どうしたんだい?」

 キンバリーは驚いた様子で言った。
「ひ、ヒーリング! 引く手あまたのレア能力です!」

 その話を聞いた僕は、回復魔法は確かに便利だけど、僕みたいなヤローが使ってもあまり有難みがないなぁと感じていた。
 キンバリーも大げさなリアクションをするものだと思う。



 そう考えながら空を見上げた時、そこにはおぼろ月が浮かんでいた。
 実はこの時、僕が命を懸けて争うことになる魔族の女も、同じように月を見上げていたのだが、この時の僕はまだ知る由もなかった。

【魔族の女が見ている光景】

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