ヒロインピンチを切り抜ける、三十路半ニート男のドドドドドドド……本気モード異世界冒険記

スィグトーネ

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9.まだまだ続く、固有魔法の作成

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 キンバリーの記憶を辿ってみると、水の上を歩く魔法を見つけた。
 名前も【ホバー】といい、わかりやすい。

 詳しく知ろうと、魔法書の隅々までの記憶を呼び戻すと、元となったアビリティ名は【ジェット】ということがわかった。

「ジェットは、船やイカダなどに推力を与えて、上流に移動させる固有特殊能力……か」
 何だか現代的な名前だが、基本的な考え方はとてもシンプルだった。船や人を少しだけ浮かせて動かせば、好きな場所に行けるでしょ……ということだ。


 ただシンプルだけに、ジェットは奥が深いアビリティでもある。
 コピー自体は簡単にできるのだが、扱いは意外にも慣れが必要で、4本の脚が使えるユニコーン状態の僕でも、体を安定させて長いあいだ滑走するには、慣れが必要だ。

 これに時間をかけると、キンバリーの救出に間に合わなくなりそうだ。他に役立ちそうな魔法はないか、もう一度調べ直してみることにした。


「…………」
「…………」
 キンバリーの記憶を読み続けていると、少しずつ日が暮れて夜闇が迫りつつあった。
 そうなると、欲しいのはキンバリーが生贄に捧げられるまでの、具体的かつ正確な残り時間だ。なにか……なにか良いアビリティはないだろうか。

 周囲が闇に包まれ、耳元に飛び交うハエや蚊を無視しながら、キンバリーの記憶を辿っていると、魔導書のうちの1冊が気になった。
「……テレパシーか」

 どうやら、これは僕が思っていた通り魔法世界の通信手段という感じだ。遠距離の相手と精神力で会話ができるが、こういう魔法には当然……
「やっぱりあった」

 テレパシー通信を、盗み聞きする類の魔法も存在するようだ。
 その魔法名は【インターセプト】。これに対抗するには、テレパシーの上位魔法である【エンコードテレパシー】。これは要するにテレパシーを暗号化して送るという上位テクニックだ。
「そして、調べてみると……そのエンコードテレパシーを解読する上位傍受魔法もある……か」


 まるでイタチごっこのような、通信する側と傍受側の知恵比べを眺めていると、僕の額には角が現れて光を放っていた。
 その柔らかい光が夜の闇を照らしたとき、まるで僕の脳裏には電気が走ったかのような閃きが起こっていた。


――キリン式テレパシー


 これは……人間では聞き取れない音を、ユニコーン独自のテレパシー回線に繋ぎ、更に日本人である僕だけが知っている暗号に変えてから圧縮し、目的の人物に届けて、本人の脳内に届いてから解凍&暗号解除を行うという、かなり回りくどいことをするテレパシーだった。

 アビリティ【ゴッドコール】を持つ人間に比べれば、機能は限定的なものになってしまうしMP消費も大きいが、ゴッドコールの使い手同士だと、レベルによっては傍受されてしまうこともあるため、僕のアビリティの方が都合がいい場合もある。
「…………」
 僕はさっそく、キンバリーに向けて【キリン式テレパシー】を使ってみた。


【キンバリー……聞こえているかい? 僕は君の救出を諦めていない。もし、返答を送ることが可能だったら……君が生贄に捧げられるまでのリミットをなるべく正確に教えて欲しい】

 キンバリーは、ものの2分ぐらいで僕のテレパシーに返答を送ってきた。
【今までに感じたことのないテレパシーですが、これは……貴方の能力でしょうか? これなら傍受の心配もなさそうですね……】
 何だか、キンバリーが周囲を確認しているような、そんな雰囲気がした。

【私の処刑は明後日の朝。生きたままウェアウルフの村の大木の根元に埋められるみたいです。その日はどうやら、この村のオオカミ族にとって、記念日になっているようです】


 なるほど。記念日か……
 それなら時期がずれ込むということも考えづらい。

 僕は、再びキンバリーが、どこに監禁されているのかを調べることにした。


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