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4.始まる冒険
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御神木と別れを告げて僕とキンバリーは、森の中を進んでいた。
彼女がいるから、エルフの道を使って簡単に森の中を進んでいけるのだけど、僕一人だと果たしてどれくらい森の中を進むのは大変なのだろう。
「ところで、アキノスケ様……」
「なんだい?」
「森を抜けたら、どんなお仕事をなさるのですか?」
仕事と聞いて、僕は密かに嫌な言葉だと感じていた。
日本にいたとき、僕は働いていなかった。
最後に仕事をしていたのは29の時で、その時に仕事場が業務移転のために無くなってしまい、新たな就職先を探すのも面倒になり、今日までずるずるとニート生活を送っている。
もちろん、親にも働きなさいとそのたびに言われてきたが、僕はどうせなんとななるだろうという気持ちで、実家に寄生し居候生活を満喫していた。
今から考えれば、よい御身分だったと自分でも思ってしまう。
「そうだね……毎日決まった時間に仕事に行って、決まった時間に帰る……のような仕事は嫌かな」
キンバリーはじっと僕を眺めていた。
確かに、僕も彼女の立場で考えれば、何言ってるのコイツ状態だろう。僕がもしキンバリーなら、つべこべ言っていないで働きなさいと、母親のように声を荒げているかもしれない。
「それなら、冒険者になるのが一番ですね」
その言葉を聞いて僕は意外に思った。
背中には確かに履歴書のようなステータスが書かれているけれど、僕は素性の知れない怪しい東洋人という感じだろう。これでも……冒険者として雇ってくれるところがあるのだろうか。
「冒険者って僕でもなれるの?」
「このフロンティア地域では冒険者は実力が全てです。犯罪歴などがあれば……さすがに話は変わってきますが、異国の難民が、この国に来て英雄になるという話は幾つもあります」
そこまで言うとキンバリーは顔を赤らめた。
「私の父も……元は貴方と同じ日本から来た異世界人でしたが、今ではフロンティア地域を代表する勇者のひとりです」
僕は驚きのあまり、口を半開きにしていた。
キンバリーのお父さんの名前は、確かカイトだったか。多分元から優れていた人なんだろうけど、それでも同じような身の上で、成り上がったのだから自分のことのように嬉しくなってしまう。
「なんだか、その話を聞いていたら……元気が出てきたよ! 僕も君のお父さんの10分の1でも強くなれるように頑張ってみようかな!」
そう伝えるとキンバリーは微笑んだ。
「10分の1なんて遠慮しなくてもいいのですよ。ただ……」
そこまで言うと、キンバリーは少し心配そうな顔をした。
「どうしたの?」
「今の冒険者街は、我が父カイトが来たときよりも、魔境の開拓が進んでしまいまして……昔のようなフロンティア精神あふれる街ではなくなっているのです」
「なので……」
キンバリーは木の陰に立つと、少し大き目の手鏡を出してから中に映像を出した。
どうやらこれは、自分のイメージを映像化する魔法のようだ。
「べ、便利だね……」
「アビリティ【イメージング】を一般化した魔法です。本家本元なら他人のイメージを立体映像として再現できると聞きます」
「そ、それは……凄すぎる!」
まあ、イメージングの詳しい話は割愛するとして、僕はオリヴィアの手鏡を見た。
鏡の中には、まだまだ空き地は多いが、まさに田舎から中世の都会へと発展しようとしている感じの街があり、多くの武装した若者や行商人などが行き来していた。
「ここは……どこの町なんだい?」
「ここと同じフロンティア地域の……新冒険者街と呼ばれている場所です。この近くに【邪竜のねぐら】と呼ばれるダンジョンが見つかり、一種のゴールドラッシュのような状態になっています」
邪竜のねぐらか。如何にもダンジョンって感じの響きで、僕の冒険者心もくすぐられる。
人によっては、ありきたりすぎる名前だと萎えるかもしれないが、こういうのはシンプルでわかりやすい方がいい。
「なるほど。つまりこの町に行って……冒険者ギルドに入れてもらえばいいわけかな?」
キンバリーは少し考えてから答えた。
「実は私が所属しているフロンティア・トリトンズも進出したばかりで、ギルド員を募集していたと思いました。アキノスケ様は私が推薦しますので……この町に参りましょう」
それなら僕も大賛成だ。
というか、何だかキンバリーと一緒にいると、異世界にやってきたんだという気分になってくる。
「よし! キンバリー……一緒にここ行こう!」
そう伝えると、キンバリーは嬉しそうにニコニコと笑った。
「ここから軽く100キロメートルは離れていますが、行って後悔はしないはずです。参りましょう!」
100キロメートルという言葉に、僕はしり込みしたが、キンバリーはどこ吹く風という様子だ。僕の手を握って、微笑みながらエルフの道を通っていくのだった。
【キンバリーのローブ】
このローブは、母オリヴィアが誕生日に買った特殊なローブで、オリヴィアの精神状態や前に使った魔法などで、その色やデザインが変わる。
普段は白だが、大地魔法を使ったら緑色、水魔法を使ったら水色という具合である。
彼女がいるから、エルフの道を使って簡単に森の中を進んでいけるのだけど、僕一人だと果たしてどれくらい森の中を進むのは大変なのだろう。
「ところで、アキノスケ様……」
「なんだい?」
「森を抜けたら、どんなお仕事をなさるのですか?」
仕事と聞いて、僕は密かに嫌な言葉だと感じていた。
日本にいたとき、僕は働いていなかった。
最後に仕事をしていたのは29の時で、その時に仕事場が業務移転のために無くなってしまい、新たな就職先を探すのも面倒になり、今日までずるずるとニート生活を送っている。
もちろん、親にも働きなさいとそのたびに言われてきたが、僕はどうせなんとななるだろうという気持ちで、実家に寄生し居候生活を満喫していた。
今から考えれば、よい御身分だったと自分でも思ってしまう。
「そうだね……毎日決まった時間に仕事に行って、決まった時間に帰る……のような仕事は嫌かな」
キンバリーはじっと僕を眺めていた。
確かに、僕も彼女の立場で考えれば、何言ってるのコイツ状態だろう。僕がもしキンバリーなら、つべこべ言っていないで働きなさいと、母親のように声を荒げているかもしれない。
「それなら、冒険者になるのが一番ですね」
その言葉を聞いて僕は意外に思った。
背中には確かに履歴書のようなステータスが書かれているけれど、僕は素性の知れない怪しい東洋人という感じだろう。これでも……冒険者として雇ってくれるところがあるのだろうか。
「冒険者って僕でもなれるの?」
「このフロンティア地域では冒険者は実力が全てです。犯罪歴などがあれば……さすがに話は変わってきますが、異国の難民が、この国に来て英雄になるという話は幾つもあります」
そこまで言うとキンバリーは顔を赤らめた。
「私の父も……元は貴方と同じ日本から来た異世界人でしたが、今ではフロンティア地域を代表する勇者のひとりです」
僕は驚きのあまり、口を半開きにしていた。
キンバリーのお父さんの名前は、確かカイトだったか。多分元から優れていた人なんだろうけど、それでも同じような身の上で、成り上がったのだから自分のことのように嬉しくなってしまう。
「なんだか、その話を聞いていたら……元気が出てきたよ! 僕も君のお父さんの10分の1でも強くなれるように頑張ってみようかな!」
そう伝えるとキンバリーは微笑んだ。
「10分の1なんて遠慮しなくてもいいのですよ。ただ……」
そこまで言うと、キンバリーは少し心配そうな顔をした。
「どうしたの?」
「今の冒険者街は、我が父カイトが来たときよりも、魔境の開拓が進んでしまいまして……昔のようなフロンティア精神あふれる街ではなくなっているのです」
「なので……」
キンバリーは木の陰に立つと、少し大き目の手鏡を出してから中に映像を出した。
どうやらこれは、自分のイメージを映像化する魔法のようだ。
「べ、便利だね……」
「アビリティ【イメージング】を一般化した魔法です。本家本元なら他人のイメージを立体映像として再現できると聞きます」
「そ、それは……凄すぎる!」
まあ、イメージングの詳しい話は割愛するとして、僕はオリヴィアの手鏡を見た。
鏡の中には、まだまだ空き地は多いが、まさに田舎から中世の都会へと発展しようとしている感じの街があり、多くの武装した若者や行商人などが行き来していた。
「ここは……どこの町なんだい?」
「ここと同じフロンティア地域の……新冒険者街と呼ばれている場所です。この近くに【邪竜のねぐら】と呼ばれるダンジョンが見つかり、一種のゴールドラッシュのような状態になっています」
邪竜のねぐらか。如何にもダンジョンって感じの響きで、僕の冒険者心もくすぐられる。
人によっては、ありきたりすぎる名前だと萎えるかもしれないが、こういうのはシンプルでわかりやすい方がいい。
「なるほど。つまりこの町に行って……冒険者ギルドに入れてもらえばいいわけかな?」
キンバリーは少し考えてから答えた。
「実は私が所属しているフロンティア・トリトンズも進出したばかりで、ギルド員を募集していたと思いました。アキノスケ様は私が推薦しますので……この町に参りましょう」
それなら僕も大賛成だ。
というか、何だかキンバリーと一緒にいると、異世界にやってきたんだという気分になってくる。
「よし! キンバリー……一緒にここ行こう!」
そう伝えると、キンバリーは嬉しそうにニコニコと笑った。
「ここから軽く100キロメートルは離れていますが、行って後悔はしないはずです。参りましょう!」
100キロメートルという言葉に、僕はしり込みしたが、キンバリーはどこ吹く風という様子だ。僕の手を握って、微笑みながらエルフの道を通っていくのだった。
【キンバリーのローブ】
このローブは、母オリヴィアが誕生日に買った特殊なローブで、オリヴィアの精神状態や前に使った魔法などで、その色やデザインが変わる。
普段は白だが、大地魔法を使ったら緑色、水魔法を使ったら水色という具合である。
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