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13.ギルドからの熱心な依頼
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冒険者は情報が命らしく、ギルド長もすぐに馬牧場が被害を受けたことを知ったようだ。
彼は受付嬢ソフィアと深刻な様子で話をしていたが、小生の話を聞いたらしく朝食を終えたころには、こちらへとやってきた。
「ディディ君」
「貴方は、ギルド長のオリヴァーさんですね」
「覚えていてくれたのだね。嬉しいものだ!」
ギルド長はエルフの男性だが、同じエルフのバンジャマンよりも生真面目な雰囲気を纏っていた。背格好だけでなく筋肉もついているので、少し細めの軍人のようにも見えてくる。
その服装も質素なローブだけなので、本当に必要最低限の恰好をしている。質実剛健という言葉を表したような人物なのだろう。
「単刀直入にお願いしたい。ホースレースに出走してもらえないだろうか?」
「……小生としては気が進みませんね。他に頼めるケンタウロスや駿馬はいないのでしょうか?」
そう切り返しても、オリヴァーギルド長は表情一つ変えなかった。恐らくソフィアからも、小生があまり乗り気でないことを言われているのだろう。
「結論から言えばいない。我がギルドには12頭の馬が登録されているが、いずれも荷運び用の農耕馬なんだ」
「…………」
小生はすぐに農耕馬の恰好を思い出していた。
早馬と農耕馬の違いは、筋肉量やお腹の出っ張り具合だろう。農耕馬は力持ちで丈夫なのだけど、脚が短いうえに下腹部も出ているので、脚を力強く上げるとお腹に当たってしまうモノさえいる。
彼らに競争をさせるのは、戦士に魔法使いの代わりをしろと言っているようなものだろう。
「その様子だと、アテにしていたウマも、借りるのが難しくなったと……?」
「ああ、先ほど馬牧場の関係者に聞いてみたが、借りる予定だった早馬が大怪我をしてしまったそうだ」
「……じゃあ、仕方ありませんね。ギルドが恥をかかないように気を付けて走ります」
「ありがとう!」
オリヴァーギルド長も安心した様子で胸を撫でおろしていた。フェイルノートは冒険者街でも古参の方のギルドだけに、ホースレースへの出走取消という事態は避けたかったと見える。
隣にいたアレックスも微笑みながら言った。
「レース規定で、出走直前の取り消しにはペナルティがありますからね」
「事態が事態だから、やむを得ない事情と認められはするだろうが……下手をすれば来年からの出走権を取り消されてしまう恐れもある。そうなったら、何かと面倒だから良かった」
オリヴァーは、小生をしっかりと見て「では、よろしく頼む」というと、ギルド長の執務室へと戻っていった。まあ、ライバルたちの実力は謎だが、出走して馬群に混じって走っていれば来年分の出走権を取り消されないのなら、ほどほどにやればいいだろう。
そんなことを考えていると、エルフのレティシアは思い出した様子で言った。
「そういえば、ディディさんの乗り手は誰が?」
アレックスもケヴィンも、そう言えばという雰囲気でお互いを見合っていた。
「アレク、お前……乗馬できる?」
「乗れることは乗れるけど、ホースレースなんてさすがにできないよ。ケヴィンは?」
「俺も乗馬はできるけど、体重が70キロ近くあるから無理だな。重すぎる」
その言葉を聞いたアレックスも困り顔になった。
「僕も60キログラムくらいあるからなぁ。確かホースレースの重量って54キログラムだっけ?」
「ああ、それも鞍とか込みで……」
男2人が重量オーバーなのなら、もう女の子に頼るしかないだろう。2人や小生の視線がすぐに運動神経の良さそうなジルーへと向いた。
「どうだい、ジルー?」
そう聞かれると、オオカミ耳のジルーは耳をぴょこんと上げてから、慌てて両手を振った。
「ムリムリムリムリ! あたしって小さい頃にヤギに乗ってたら振り落とされたことあるの。それ以来……どうも乗馬って苦手で……」
「何だよ、肝心なところで約に立たねえんだな、イヌ娘!」
「見事なブーメランが突き刺さってるよ、この筋肉バカ!」
3人が揃って全滅となると、もう消去法で1人しかいなくなってしまった。アレックスはすぐにレティシアを見た。
「レティシア、頼めるかい?」
「え、ええ……まあ……」
こうして小生は、レティシアとコンビを組むことになり、彼女の希望もあって試走してみることにした。
まずはギルドの納屋へと向かうと、そこでウマへと変身して鞍や手綱を出すと、アレックス、ケヴィン、ジルーが3人がかりでレティシアを小生の背中に上げる。彼女が背中に乗った感じでは、ちょうど50キログラムくらいの重さだろう。165センチ近い彼女の身長を考えれば、かなり痩せている方だ。
『じゃあ、まずは会場となる広場まで徒歩で向かってみるよ』
「はい、お願いします!」
小生がギルドを出ると、アレックス、ジルー、ケヴィンの3人は、前と両サイドに立って付き添ってくれた。さすがに冒険者街は治安があまり良くないらしく、こうやって護衛をしないと悪さをしにくるヤツがいるという。
実際に会場を見てみると、まだホースレースの準備は始まっていないらしく、のどかな広場という感じがする。アレックスたちも満足そうに頷いていた。
「さすがに1週間後じゃ、こんな感じだよね」
「さっそく走ってみるか?」
『うん、レティシア!』
「はい!」
レティシアが落馬しないように走り出すと、思いのほか彼女の乗馬能力は高いらしく、楽に脚運びができた。
下手な人間を乗せると、まるでバランスの悪い50キログラムの荷物を背負った感じになるけど、彼女は巧みに体重移動をして、小生の身体に負担がかからないようにしてくれている。
彼女とペアを組めて良かった。そう思いながら走っていると、後ろから蹄を打ち鳴らす音が響いてくる。
――ドドドド、ドドドドド、ドドド、ドドドドド!
一体何の足音だと思いながら後ろを見ると、小生はギョッとした。
ウマの色は鹿毛色という見慣れたウマだったが、その背中に乗っていたのは人間に扮した悪魔だったのである。しかも、乗り手の人間の瞳には禍々しい瘴気のようなモノが流れだしており、取りつかれたように手綱をさばいている。
そのウマと乗り手は、小生たちの姿など目に映らない様子で追い抜くと、そのまま通り抜けていった。
【ギルド長オリヴァー クエスト時の様子】
彼は受付嬢ソフィアと深刻な様子で話をしていたが、小生の話を聞いたらしく朝食を終えたころには、こちらへとやってきた。
「ディディ君」
「貴方は、ギルド長のオリヴァーさんですね」
「覚えていてくれたのだね。嬉しいものだ!」
ギルド長はエルフの男性だが、同じエルフのバンジャマンよりも生真面目な雰囲気を纏っていた。背格好だけでなく筋肉もついているので、少し細めの軍人のようにも見えてくる。
その服装も質素なローブだけなので、本当に必要最低限の恰好をしている。質実剛健という言葉を表したような人物なのだろう。
「単刀直入にお願いしたい。ホースレースに出走してもらえないだろうか?」
「……小生としては気が進みませんね。他に頼めるケンタウロスや駿馬はいないのでしょうか?」
そう切り返しても、オリヴァーギルド長は表情一つ変えなかった。恐らくソフィアからも、小生があまり乗り気でないことを言われているのだろう。
「結論から言えばいない。我がギルドには12頭の馬が登録されているが、いずれも荷運び用の農耕馬なんだ」
「…………」
小生はすぐに農耕馬の恰好を思い出していた。
早馬と農耕馬の違いは、筋肉量やお腹の出っ張り具合だろう。農耕馬は力持ちで丈夫なのだけど、脚が短いうえに下腹部も出ているので、脚を力強く上げるとお腹に当たってしまうモノさえいる。
彼らに競争をさせるのは、戦士に魔法使いの代わりをしろと言っているようなものだろう。
「その様子だと、アテにしていたウマも、借りるのが難しくなったと……?」
「ああ、先ほど馬牧場の関係者に聞いてみたが、借りる予定だった早馬が大怪我をしてしまったそうだ」
「……じゃあ、仕方ありませんね。ギルドが恥をかかないように気を付けて走ります」
「ありがとう!」
オリヴァーギルド長も安心した様子で胸を撫でおろしていた。フェイルノートは冒険者街でも古参の方のギルドだけに、ホースレースへの出走取消という事態は避けたかったと見える。
隣にいたアレックスも微笑みながら言った。
「レース規定で、出走直前の取り消しにはペナルティがありますからね」
「事態が事態だから、やむを得ない事情と認められはするだろうが……下手をすれば来年からの出走権を取り消されてしまう恐れもある。そうなったら、何かと面倒だから良かった」
オリヴァーは、小生をしっかりと見て「では、よろしく頼む」というと、ギルド長の執務室へと戻っていった。まあ、ライバルたちの実力は謎だが、出走して馬群に混じって走っていれば来年分の出走権を取り消されないのなら、ほどほどにやればいいだろう。
そんなことを考えていると、エルフのレティシアは思い出した様子で言った。
「そういえば、ディディさんの乗り手は誰が?」
アレックスもケヴィンも、そう言えばという雰囲気でお互いを見合っていた。
「アレク、お前……乗馬できる?」
「乗れることは乗れるけど、ホースレースなんてさすがにできないよ。ケヴィンは?」
「俺も乗馬はできるけど、体重が70キロ近くあるから無理だな。重すぎる」
その言葉を聞いたアレックスも困り顔になった。
「僕も60キログラムくらいあるからなぁ。確かホースレースの重量って54キログラムだっけ?」
「ああ、それも鞍とか込みで……」
男2人が重量オーバーなのなら、もう女の子に頼るしかないだろう。2人や小生の視線がすぐに運動神経の良さそうなジルーへと向いた。
「どうだい、ジルー?」
そう聞かれると、オオカミ耳のジルーは耳をぴょこんと上げてから、慌てて両手を振った。
「ムリムリムリムリ! あたしって小さい頃にヤギに乗ってたら振り落とされたことあるの。それ以来……どうも乗馬って苦手で……」
「何だよ、肝心なところで約に立たねえんだな、イヌ娘!」
「見事なブーメランが突き刺さってるよ、この筋肉バカ!」
3人が揃って全滅となると、もう消去法で1人しかいなくなってしまった。アレックスはすぐにレティシアを見た。
「レティシア、頼めるかい?」
「え、ええ……まあ……」
こうして小生は、レティシアとコンビを組むことになり、彼女の希望もあって試走してみることにした。
まずはギルドの納屋へと向かうと、そこでウマへと変身して鞍や手綱を出すと、アレックス、ケヴィン、ジルーが3人がかりでレティシアを小生の背中に上げる。彼女が背中に乗った感じでは、ちょうど50キログラムくらいの重さだろう。165センチ近い彼女の身長を考えれば、かなり痩せている方だ。
『じゃあ、まずは会場となる広場まで徒歩で向かってみるよ』
「はい、お願いします!」
小生がギルドを出ると、アレックス、ジルー、ケヴィンの3人は、前と両サイドに立って付き添ってくれた。さすがに冒険者街は治安があまり良くないらしく、こうやって護衛をしないと悪さをしにくるヤツがいるという。
実際に会場を見てみると、まだホースレースの準備は始まっていないらしく、のどかな広場という感じがする。アレックスたちも満足そうに頷いていた。
「さすがに1週間後じゃ、こんな感じだよね」
「さっそく走ってみるか?」
『うん、レティシア!』
「はい!」
レティシアが落馬しないように走り出すと、思いのほか彼女の乗馬能力は高いらしく、楽に脚運びができた。
下手な人間を乗せると、まるでバランスの悪い50キログラムの荷物を背負った感じになるけど、彼女は巧みに体重移動をして、小生の身体に負担がかからないようにしてくれている。
彼女とペアを組めて良かった。そう思いながら走っていると、後ろから蹄を打ち鳴らす音が響いてくる。
――ドドドド、ドドドドド、ドドド、ドドドドド!
一体何の足音だと思いながら後ろを見ると、小生はギョッとした。
ウマの色は鹿毛色という見慣れたウマだったが、その背中に乗っていたのは人間に扮した悪魔だったのである。しかも、乗り手の人間の瞳には禍々しい瘴気のようなモノが流れだしており、取りつかれたように手綱をさばいている。
そのウマと乗り手は、小生たちの姿など目に映らない様子で追い抜くと、そのまま通り抜けていった。
【ギルド長オリヴァー クエスト時の様子】
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