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2.ヒヒーンキック
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小生たち冒険者一行を取り囲んでいたのはゴブリンだ。
その数は18匹と多く、木の影や草の影に隠れながらナイフやショートボウを構えている。そのうち半数近いゴブリンの武器からトリカブトの臭いがする。
一方、こちらは4人と1頭。全員が背中合わせに円陣を組み、剣やナイフ、杖を構えて目の前を睨んでいた。
「ブッツブセ!」
ゴブリンうちの1匹が叫ぶと、他のゴブリンたちの半分がショートボウを放ってきた。これもうち5本がトリカブト。もし当たれば致命傷を受けなくても即死だ。
エルフの魔法使いレティシアは、炎系の魔法を放って矢を2本叩き落し、オオカミ耳の戦士ジルーは短剣で矢を1本斬り払い、重戦士ケヴィンは大盾で矢を2本はじき返し、剣士アレックスは矢がブレストプレートに当たって跳ね返されて驚いていた。
そして小生は、水魔法で防壁を目の前に展開し、矢3本の威力を軽減して地面へと落下させた。水の防壁を使えば、トリカブトの毒がだいぶ薄められ、当たっても致命傷にならなくて済む。
「ぎょあっはぁ!」
そう言いながら9匹のゴブリンたちが、ナイフを両手に構えて突っ込んできた。小生の目の前には3匹か。まずはこいつらを何とかしよう。
風系魔法レベル1のエアナイフを放つと、ゴブリンの身体は真っ二つに裂けて蒸発した。こいつら闇の住人は致命傷を受けると、こうやって身体が霧のように蒸発。足元には何パーセントかの確率で魔石というモノが残される。初撃破したゴブリンはハズレだったようだけど問題ない。猛毒持ちは最初に倒すのがセオリーだ。
小生は間髪を入れずに、2射目のエアナイフを目の前のゴブリンに命中させ、残ったゴブリンが近づいてきたところで左前脚キックを見舞った。
「ごびゅ!?」
蹴りを受けたゴブリンは錐揉みで吹き飛び、後ろで弓を番えていたゴブリンを巻き込んで樹木に激突した。4匹倒して魔石は1つか。あまりドロップ率は高くないようだ。
目の前のゴブリンたちが壊滅したので、仲間の援護をしようと思いながら周囲を見渡すと……
…………
…………
仲間たちは、全員が苦戦を強いられていた。
さすがに、敵が猛毒を使ってくるのだから当然か。ん、ジルーが……いや、この動きはただ速いだけか。まあいい。
さて、誰から助けるべきか。
「コノ、うまアァ!」
『うるさい』
突っ込んできたゴブリンを蹴り飛ばすと、ゴブリンは「ぎゃぼふびー!」と叫びながら頭から木の幹に激突した。よし、ここはレティシアの援護をすべきだろう。
風魔法を放ってゴブリンを2匹なぎ倒すと、ゴブリンは次々と逃げ出していく。あれ……どうして急にゴブリンが弱腰になったんだ。毒持ちはまだいたのに……
辺りを見渡すと、木の幹の下に少し大き目の魔石が落ちていた。もしかしたら誰かが、知らず知らずのうちにボスを倒したのかもしれない。
『みんな、ケガはないかい?』
そう質問すると、アレックスやケヴィンは汗を手で拭いながら答えた。
「あ、危ないところだった……」
「ああ、何だかわからないが、ゴブリンどもが逃げてくれて助かった」
オオカミ耳のジルーは、辺りを見回しながら言った。
「多分だけど、誰かがボスをやっつけたんじゃないかな。ゴブリンって基本的にボスがいなくなると、すぐに逃げ出す習性があるからね」
「な、なるほど……運が良かったのか」
アレックスやケヴィンが笑いあうなか、レティシアは小生を見てきた。
「それにしてもディディさん、とても強かったですが……どこで武術や魔法を?」
その言葉を聞いていたジルーも頷いた。
「うん、ディディが何匹もゴブリンをなぎ倒してたから驚いちゃったよ。接近戦も強いみたいだし……もしかして一角獣?」
さすがに、両サイドにいたレティシアとジルーには、気付かれるかと思いながら小生は頷いた。
『正確には、一角獣の子供でユニコーンホーンは、まだ生えていない』
「風と水の魔法……もしかして、プイちゃんの生まれ変わり?」
『プイちゃん?』
そう聞き返すと、レティシアはごまかすように笑った。
「ああ、何でもありません。忘れてください」
『あ、ああ……わかった』
間もなくジルーは、ゴブリンの魔石を拾いながらこちらを見た。
「それにしても、こんなに可愛い顔をしているのに、一番強いなんて……やっぱりディディを仲間に入れて良かったよね!」
その言葉を聞いた重戦士ケヴィンは、小生を指さしながら「こいつ、そんなに強いの?」と未だに信じられない様子だったが、レティシアはジルーに同調した。
「すこし観察するだけですぐにわかると思います。あの短い時間で7匹もゴブリンを倒していたくらいですから」
「しかも、トリカブトの毒を持ちだすような連中をね!」
7匹という言葉を聞き、剣士アレックスも驚いた顔で小生を見てきた。さすがの彼も単なる喋るウマだと思っていたようだ。
『それで、このチームのリーダーは誰? 次の目的地は?』
そう聞くと、ケヴィン、レティシア、ジルーの3人はアレックスを見た。
「え……僕?」
「そうだろ、パーティー組みたいって言ったのお前だし!」
「そうですね。リーダーはアレックス。そしてエースはディディです」
「異議なし!」
ほぼ全会一致で可決してしまうと、アレックスは助けを求めるように小生を見てきた。いやいやいや、こっちに話を振られても困るぞ。
「冒険者街に戻りたいんだけど……どう帰ればいいかわからなくって」
「…………」
「…………」
「…………」
『…………』
全員が閉口するなか、隙間風が音を立てて通り抜けていった。
【ドリーミングオブドーンの一日(半人前時代)】
4:00 起床
4:00~4:10 死んでしまった弟妹や先祖の墓参
4:10~4:30 家族や友人たちに挨拶
4:30~6:00 朝露に濡れた青草をゆっくり食す
6:00~9:00 母から魔法に関するお勉強
9:00~12:00 日陰で休みながら青草を食す(少し早めの昼寝をすることも)
12:00~14:00 祖父から一角獣の歴史や周辺地理の勉強(脚力鍛錬や水練を習う日もある)
14:00~17:00 友達と団らんしながら青草を食す(情報交換や駆けっこもする)
17:00~20:00 父同伴の元、脚力トレーニングや護身術の勉強
20:00~23:00 家族で集まって夕食(父や祖父が豆や塩などを持ち帰ってくれることもある)
23:00~24:00 自習(主に今日習ったことの復習をしている)
翌0:00~4:00 横向きになってぐっすりと眠る
ディディは少ない睡眠時間で活動できるので、4時間寝れば睡眠時間が充分になることが多い。
成長するためには、多くの草を食べなければ大きくなれなかったので、平均して10時間以上を食事に費やす必要があった。ディディの場合はバランス型の教育だが、家庭によっては筋力トレーニングに重点を置くところもある。
その数は18匹と多く、木の影や草の影に隠れながらナイフやショートボウを構えている。そのうち半数近いゴブリンの武器からトリカブトの臭いがする。
一方、こちらは4人と1頭。全員が背中合わせに円陣を組み、剣やナイフ、杖を構えて目の前を睨んでいた。
「ブッツブセ!」
ゴブリンうちの1匹が叫ぶと、他のゴブリンたちの半分がショートボウを放ってきた。これもうち5本がトリカブト。もし当たれば致命傷を受けなくても即死だ。
エルフの魔法使いレティシアは、炎系の魔法を放って矢を2本叩き落し、オオカミ耳の戦士ジルーは短剣で矢を1本斬り払い、重戦士ケヴィンは大盾で矢を2本はじき返し、剣士アレックスは矢がブレストプレートに当たって跳ね返されて驚いていた。
そして小生は、水魔法で防壁を目の前に展開し、矢3本の威力を軽減して地面へと落下させた。水の防壁を使えば、トリカブトの毒がだいぶ薄められ、当たっても致命傷にならなくて済む。
「ぎょあっはぁ!」
そう言いながら9匹のゴブリンたちが、ナイフを両手に構えて突っ込んできた。小生の目の前には3匹か。まずはこいつらを何とかしよう。
風系魔法レベル1のエアナイフを放つと、ゴブリンの身体は真っ二つに裂けて蒸発した。こいつら闇の住人は致命傷を受けると、こうやって身体が霧のように蒸発。足元には何パーセントかの確率で魔石というモノが残される。初撃破したゴブリンはハズレだったようだけど問題ない。猛毒持ちは最初に倒すのがセオリーだ。
小生は間髪を入れずに、2射目のエアナイフを目の前のゴブリンに命中させ、残ったゴブリンが近づいてきたところで左前脚キックを見舞った。
「ごびゅ!?」
蹴りを受けたゴブリンは錐揉みで吹き飛び、後ろで弓を番えていたゴブリンを巻き込んで樹木に激突した。4匹倒して魔石は1つか。あまりドロップ率は高くないようだ。
目の前のゴブリンたちが壊滅したので、仲間の援護をしようと思いながら周囲を見渡すと……
…………
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仲間たちは、全員が苦戦を強いられていた。
さすがに、敵が猛毒を使ってくるのだから当然か。ん、ジルーが……いや、この動きはただ速いだけか。まあいい。
さて、誰から助けるべきか。
「コノ、うまアァ!」
『うるさい』
突っ込んできたゴブリンを蹴り飛ばすと、ゴブリンは「ぎゃぼふびー!」と叫びながら頭から木の幹に激突した。よし、ここはレティシアの援護をすべきだろう。
風魔法を放ってゴブリンを2匹なぎ倒すと、ゴブリンは次々と逃げ出していく。あれ……どうして急にゴブリンが弱腰になったんだ。毒持ちはまだいたのに……
辺りを見渡すと、木の幹の下に少し大き目の魔石が落ちていた。もしかしたら誰かが、知らず知らずのうちにボスを倒したのかもしれない。
『みんな、ケガはないかい?』
そう質問すると、アレックスやケヴィンは汗を手で拭いながら答えた。
「あ、危ないところだった……」
「ああ、何だかわからないが、ゴブリンどもが逃げてくれて助かった」
オオカミ耳のジルーは、辺りを見回しながら言った。
「多分だけど、誰かがボスをやっつけたんじゃないかな。ゴブリンって基本的にボスがいなくなると、すぐに逃げ出す習性があるからね」
「な、なるほど……運が良かったのか」
アレックスやケヴィンが笑いあうなか、レティシアは小生を見てきた。
「それにしてもディディさん、とても強かったですが……どこで武術や魔法を?」
その言葉を聞いていたジルーも頷いた。
「うん、ディディが何匹もゴブリンをなぎ倒してたから驚いちゃったよ。接近戦も強いみたいだし……もしかして一角獣?」
さすがに、両サイドにいたレティシアとジルーには、気付かれるかと思いながら小生は頷いた。
『正確には、一角獣の子供でユニコーンホーンは、まだ生えていない』
「風と水の魔法……もしかして、プイちゃんの生まれ変わり?」
『プイちゃん?』
そう聞き返すと、レティシアはごまかすように笑った。
「ああ、何でもありません。忘れてください」
『あ、ああ……わかった』
間もなくジルーは、ゴブリンの魔石を拾いながらこちらを見た。
「それにしても、こんなに可愛い顔をしているのに、一番強いなんて……やっぱりディディを仲間に入れて良かったよね!」
その言葉を聞いた重戦士ケヴィンは、小生を指さしながら「こいつ、そんなに強いの?」と未だに信じられない様子だったが、レティシアはジルーに同調した。
「すこし観察するだけですぐにわかると思います。あの短い時間で7匹もゴブリンを倒していたくらいですから」
「しかも、トリカブトの毒を持ちだすような連中をね!」
7匹という言葉を聞き、剣士アレックスも驚いた顔で小生を見てきた。さすがの彼も単なる喋るウマだと思っていたようだ。
『それで、このチームのリーダーは誰? 次の目的地は?』
そう聞くと、ケヴィン、レティシア、ジルーの3人はアレックスを見た。
「え……僕?」
「そうだろ、パーティー組みたいって言ったのお前だし!」
「そうですね。リーダーはアレックス。そしてエースはディディです」
「異議なし!」
ほぼ全会一致で可決してしまうと、アレックスは助けを求めるように小生を見てきた。いやいやいや、こっちに話を振られても困るぞ。
「冒険者街に戻りたいんだけど……どう帰ればいいかわからなくって」
「…………」
「…………」
「…………」
『…………』
全員が閉口するなか、隙間風が音を立てて通り抜けていった。
【ドリーミングオブドーンの一日(半人前時代)】
4:00 起床
4:00~4:10 死んでしまった弟妹や先祖の墓参
4:10~4:30 家族や友人たちに挨拶
4:30~6:00 朝露に濡れた青草をゆっくり食す
6:00~9:00 母から魔法に関するお勉強
9:00~12:00 日陰で休みながら青草を食す(少し早めの昼寝をすることも)
12:00~14:00 祖父から一角獣の歴史や周辺地理の勉強(脚力鍛錬や水練を習う日もある)
14:00~17:00 友達と団らんしながら青草を食す(情報交換や駆けっこもする)
17:00~20:00 父同伴の元、脚力トレーニングや護身術の勉強
20:00~23:00 家族で集まって夕食(父や祖父が豆や塩などを持ち帰ってくれることもある)
23:00~24:00 自習(主に今日習ったことの復習をしている)
翌0:00~4:00 横向きになってぐっすりと眠る
ディディは少ない睡眠時間で活動できるので、4時間寝れば睡眠時間が充分になることが多い。
成長するためには、多くの草を食べなければ大きくなれなかったので、平均して10時間以上を食事に費やす必要があった。ディディの場合はバランス型の教育だが、家庭によっては筋力トレーニングに重点を置くところもある。
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