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よすが

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 久々の独り寝は、ずっと望んでいたはずのことなのに気が落ち着かない。
 分厚く良質な布団の中は暖かいのにそら寒く感じる。静かすぎる空間はかえって眠気を追い払ってしまった。
 すっかり冴えてしまった目で座敷を見回しても、暇つぶしの道具になるようなものは見当たらない。
 仔猫も、もしかしたらと亜希に連れ帰られてしまった。
 縁側で夜景を見ようかとも考えたが、女中に見つかりでもしたらどうなるかは目に見えていて、諦めるより他になかった。
 かといって仕方なく布団に閉じこもっても微睡むこともできず、幸菜は何度目かの溜息を吐いた。

(あの人、殿様と仲良いのかな……)

 遼展が彰久に好意的であることは一目でわかる。彼も、不承不承なのだろうがそれを受け入れているようだし、きっと嫌っているというわけではない。
 遼展が客人である以上幸菜の取る態度は変わらない。だが同盟さえ明確でなく、関係もこうしてぼやけたものなら、周囲の言うように気を抜かない方が自分のためだ。
 そう思うと、溜息を堪えることはできなかった。

(明日から、どうしようかな……)

 とにかく部屋から出ないで過ごすことが第一だが、日がな一日寝て過ごすというわけにもいかない。仔猫もきっと付き合いきれないだろう。
 彰久は彼に付き合わされるだろうから気安いといえば気安いが、それはそれは長い一日になってしまうこともわかって、良いのか悪いのかわからない。
 ふと、先日の誰ぞやの羽織を取り出した。亜希以外の女中にも持ち主を聞いてみたが、皆苦笑いするばかりだった。
 結局誰のものなのかわからず手元に残ったままのそれは、腕に抱くとまだふわりとほのかな香りがした。微かな甘さを孕んで胸を切なくさせる、不思議な香りが。
 この感覚に酷似したものを幸菜は知っている。思い出すたび、もどかしくて、どうしようもなくなる。
 だからだろうか、夢を見てしまうのだ。この羽織の持ち主に。
 あるはずがないと思っているのに期待してしまう。馬鹿なことだと自分でも思う。それでもやめられなくて、度々こうして一人の時に縋るのだ。
 羽織を抱きしめて布団に転がると、不思議と眠気はすぐにやってきた。自分以外の存在を感じられるからだろうか。
 一時のまやかしに誘われて、幸菜はそっと目を閉じた。
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