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「それは大変失礼致しました。お初にお目文字仕ります、幸菜と申します。数ならぬ身ゆえお声掛け申し上げること憂慮しておりましたが、こうしてご挨拶が叶い、望外の喜びにございます」
正対して座し、いかにも恭しく首を垂れる。
ふわりと軽やかなはにかみを添えると、遼展は虚をつかれたような顔をして、それからふふんと尊大に胸を反らした。
微笑を貼り付けたまま、幸菜は緩やかに腰を折る。
「久方ぶりの再会では積もる話もございましょう。私は御前を失礼致します」
「よかろう。幸菜と言ったか、覚えておこう」
「光栄でございます」
もう一度腰を折り、立ち上がると亜希を引き連れて座敷を出た。
音なく障子が閉じられたことをしかと確認した後、貼り付けた笑みは一瞬のうちに消え失せる。
「なぁに、あの人。すっごく感じ悪い」
思わず手が出そうになった、と彼女は言うが、そんな素振りは亜希には見受けられなかった。
情報処理の追い付いていない頭で、ぷりぷりと口を尖らせる幸菜をぼんやりと見つめる。
「幸菜様、新しく膳をご用意致しますか?」
「うーん……そうして貰えますか? ほとんど手をつけられなかったんです」
帯の上から手を添えて腹をさする彼女は、遼展と対峙した時と随分印象が違う。年相応といえばそうなのだが、あの時の彼女からは今のような気安い砕けた人柄は想像もつかない。
へにゃりとした苦笑を向けられた年若い女中も思うことは同じようで、是と答えながらも戸惑いを隠せていなかった。
「しばらくは大丈夫だと思うけど、殿様たちが出てくる前にさっさと退散しちゃいましょう。あ、仔猫と遊んでもいいですか?」
きっと客人に捕まって今夜は来ないだろう。それを見越してのおねだりに、我に返った亜希はいかにも仕方がなさそうに頷いた。
「お食事を終えられましたら、連れて参りましょう」
残さず食べてくださいませ、と丁寧な口調で言いつけられて、はぁいとくすくす笑った。
「すぐにお持ち致しますので、お先にお戻りください」
厨へ急いだ彼女が今頃用意を終えているだろう。
ゆったりと踵を返した幸菜の後を数歩下がって付いていく。
何度見ても、華奢な体だと思う。骨皮というわけではないが、同じ年頃の娘でももう少ししっかりとした体つきをしているのではなかろうか。
山奥の人の行き来が殆どないような村から連れてこられたと聞いているが、改めて見ると、そうとは思えない身のこなしをする。
「亜希さん?」
「……いえ、何でもございません」
目元を細めて首を振った亜希に、彼女は変なのとおかしそうに笑った。
正対して座し、いかにも恭しく首を垂れる。
ふわりと軽やかなはにかみを添えると、遼展は虚をつかれたような顔をして、それからふふんと尊大に胸を反らした。
微笑を貼り付けたまま、幸菜は緩やかに腰を折る。
「久方ぶりの再会では積もる話もございましょう。私は御前を失礼致します」
「よかろう。幸菜と言ったか、覚えておこう」
「光栄でございます」
もう一度腰を折り、立ち上がると亜希を引き連れて座敷を出た。
音なく障子が閉じられたことをしかと確認した後、貼り付けた笑みは一瞬のうちに消え失せる。
「なぁに、あの人。すっごく感じ悪い」
思わず手が出そうになった、と彼女は言うが、そんな素振りは亜希には見受けられなかった。
情報処理の追い付いていない頭で、ぷりぷりと口を尖らせる幸菜をぼんやりと見つめる。
「幸菜様、新しく膳をご用意致しますか?」
「うーん……そうして貰えますか? ほとんど手をつけられなかったんです」
帯の上から手を添えて腹をさする彼女は、遼展と対峙した時と随分印象が違う。年相応といえばそうなのだが、あの時の彼女からは今のような気安い砕けた人柄は想像もつかない。
へにゃりとした苦笑を向けられた年若い女中も思うことは同じようで、是と答えながらも戸惑いを隠せていなかった。
「しばらくは大丈夫だと思うけど、殿様たちが出てくる前にさっさと退散しちゃいましょう。あ、仔猫と遊んでもいいですか?」
きっと客人に捕まって今夜は来ないだろう。それを見越してのおねだりに、我に返った亜希はいかにも仕方がなさそうに頷いた。
「お食事を終えられましたら、連れて参りましょう」
残さず食べてくださいませ、と丁寧な口調で言いつけられて、はぁいとくすくす笑った。
「すぐにお持ち致しますので、お先にお戻りください」
厨へ急いだ彼女が今頃用意を終えているだろう。
ゆったりと踵を返した幸菜の後を数歩下がって付いていく。
何度見ても、華奢な体だと思う。骨皮というわけではないが、同じ年頃の娘でももう少ししっかりとした体つきをしているのではなかろうか。
山奥の人の行き来が殆どないような村から連れてこられたと聞いているが、改めて見ると、そうとは思えない身のこなしをする。
「亜希さん?」
「……いえ、何でもございません」
目元を細めて首を振った亜希に、彼女は変なのとおかしそうに笑った。
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