上 下
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敗者は

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「っんぅ……っは、ああ! ひっ、くぅ……っ!」

 上も下もなぶられるなかでも、一度快楽を知った体は従順に一つ一つを拾い集める。
 不意に、彰久は中で暴れさせていた指の動きをゆっくりとしたものに変えた。
 相変わらずの狭いそこで、くるりと腹で撫でるように指を回す。それだけで、幸菜の中は締め付けるようにうごめいた。

「あ……」

 蜜口がもどかしげに収縮を繰り返す。波のように絶え間無く押し寄せる甘やかな痺れが思考を溶かしていく。
 けれど果てるには及ばない微弱な快感に、幸菜は知らず知らずのうちに脚をすり合わせていた。口から溢れ出る吐息がひどく熱い。

「ふん、これはこれで悪くないな」

 彰久の呟きを朦朧もうろうとしながら聞きとめる。その意味するところを考えようとしたところで、電流が走り思考を霧散させた。
 中を穿つ指はそのままに、肉芽を揉むように触れられる。思わず蜜口を締めると、挿し込まれた指の形を意識してしまった。

「ぁっ、ふ、んん……」

 湯殿での荒さが嘘のような味わうような愛撫は、幸菜の理性を残したまま熱を高めていく。だからこその羞恥に、暴かれた方がましだったと思わずにはいられなかった。
 彰久は幸菜の体を余すことなく堪能している。自らの下で身悶みもだあえぐ彼女を眺めていた。
 一瞬、彰久が幸菜の泣き所を強く刺激する。襲い来た強烈な快感に、幸菜が体を大きく跳ねさせ果てる。彰久の指が強く締め付けられた。

「あ、あっ、ふ、くぅ……っ!」

 快感の波が引く前に、彰久はまたゆっくりと幸菜を弄んだ。
 もうやめてとどれだけこいねがっても、彰久は責め苦をやめることはない。だんだんと、果てる感覚が短くなっていく。

「ゃ、ああっ! また……! やだっ、だめ……!!」

 またも押し寄せる快楽の波に、堪らず声が上がる。達した途端また焦れったい愛撫に変えられて、幸菜は胸を喘がせていた。
 もう何度繰り返されたかしれない絶頂。
 新たな大波を前に、不意に彰久は手を止めた。
 幸菜は目を見開いた。

「なん、で……」

 息も絶え絶えになりながら、幸菜が問う。
 彰久は意地悪い笑みを浮かべた。

「何故も何も。嫌だ嫌だと拒むのはお前ではないか。嫌がる者を組み敷くのは、俺の本意ではない」

 だから聞き入れてやったのだと言う彼に、幸菜はぽろぽろと涙を零した。
 果てる寸前までたかぶった体は欲深く、その瞬間を望んで淫らにくねる。鎮めるにはもう手遅れだった。
 もじもじと腰をうずかせる幸菜の中から指を抜き、はだけたえりを正す。
 堪えるように身を丸めたまま恨めしそうに見上げてくる彼女に、彰久は「どうした?」とわざとらしく問うた。

「何か言いたいことがあるなら言ってみろ」

 愉しそうに見下ろされ、幸菜は悔しさに歯噛みした。
 彼の企みに気付けないほど、幸菜も浅はかではない。彼もそれを承知の上で、葛藤かっとう逡巡しゅんじゅんを繰り返す彼女さえも愉しみ、降伏の言葉を待ち侘びているのだ。
 ぶるぶると握りしめた拳が震える。認めたくない。なのに、心に反して熱も疼きも増すばかり。頭がくらくらする。
 抗う間も指の腹で柔く刺激を続けられ、間際を維持される。

「……い、て」
「うん? 聞こえないな。どうした、先ほどまであれほど大きな声を出していたのに」

 羞恥をあおる言葉に体の震えが増す。けれど、もう限界だった。

「抱、いて……ください……」

 屈辱の言葉を吐いた瞬間、彰久は幸菜を一息に貫いた。

「っああああ!!」

 衝撃に大きく口を開かせて、甲高い喘ぎ声が口を突いて出る。指を突き入れられただけで、幸菜は絶頂を迎えた。
 頭の中が真っ白になる。待ち望んだ瞬間に体は震えてよろこんでいた。
 達したばかりだというのに、彰久は手を止めなかった。ぐずぐずに蕩けた中を刺激し続けられる。去ったはずの大波に立て続けに打たれ、幸菜は悲鳴を上げた。

「ひあっ…!? あっ、いやぁ!!」
「嫌? どうして。お前が望んだことだろう」
「ちが、こんな、やあっ」

 違うと幸菜が首を振る。責め苦は一層激しさを増した。恐ろしく思えるほどの快感に、幸菜は喘ぐ以外どうしようもない。

嘘言そらごとはいかんな。仕置きだ」
「ああっ! ぁ、ん、あーっ」

 頭の中が白に侵されていく。叫ぶしかできない幸菜の耳元に口を寄せ、彰久は手の動きを緩めて甘く囁いた。

「俺のものだと認めるなら、許してやるぞ」

 達せぬ絶妙な力加減で彰久が答えを催促する。
 微かに残った意識の中で、幸菜は自身の甘さを痛感した。だが、今更気付いてももう遅い。
 理性を凌駕りょうがして体は動き、答えを返していた。
 見届けた彰久がにい、と口角を上げる。間を置かず、息も継げぬほど激しい責め苦が幸菜を襲った。

 頭の中がちかちかする。
 緩やかに意識がほやけていく。

 快楽の渦に飲み込まれて、幸菜はついに理性を手放した。
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