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第3章 ハーヴェスト
職人街の子どもたち②
しおりを挟むお菓子、そういった瞬間に、一斉に後ろに隠れていた子どもたちがわっと出てきた。あれ!?さっき隠れてた子達以上にいるよね!?どこから出てきた!
「お菓子!?お菓子くれるの?」
「甘いやつ?俺一回しか食べたことない!」
「おにいちゃん、おかしちょーだい!」
おかし、おかし!と次第にコールが大きくなっていく。僕がその勢いに押されていると、シルヴァがそっと後ろに立って僕の耳をふさいだ。
「お前らいい加減にしろ!!!!!」
大音量だった。耳を塞がれてたのにキーンとする。うう、シルヴァグッジョブだ。子どもたちは突然の大声に固まっている。あ、ノエルは直撃したようだ。南無。
「たかるんじゃない、阿呆どもが」
「でもにーちゃん、お菓子だぞ!」
「「そうだそうだ!」」
「そうやって連れてかれたやつのこと忘れたのか」
そういうと、騒いでいた子どもたちも静かになった。
「連れてかれた?」
僕がぼそりと呟くと、シルヴァが後ろから静かに答えた。
「人攫いだよ」
僕はハッと息を飲む。そうか、ここはそういう世界だった。この子たちが警戒していた理由は、そういうことだった。気がつけば、井戸端会議をしているお母さんたちも、どこか僕たちの様子を伺っているようだった。僕は改めて気をつけながら、再び口を開いた。
「大丈夫。パーティーの会場は大人たちの宴会の会場の上の部屋なんだ。同じ建物の中だよ。勿論、この領の領主の息子として、安全も保証する」
「………」
「どんなことをやるかっていうと、絵本の読み聞かせ、宝探しみたいなゲーム、それからお菓子を実際に作ってみるとか、そういうこと。勿論、ハーヴェストのお料理もたくさん用意するよ」
周りの子どもたちの目がキラッキラと輝いている。おお、喜んでくれているようだ。でも、彼らのリーダーであるトールの顔は優れない。
「金はいくら取られるんだ」
「お金?かからないよ」
「そんなわけない。大人たちの宴会だってある程度集金されてる」
「うーん、でも僕ら子どもだし」
どうも、トールの中で引っかかってるのはそこのようだ。確かに、タダより怖いものはない。
「うーん、じゃあこうしよう。自分たちで用意できる範囲で、何かみんなで楽しめるものを持ってくるとか」
「そんなもの持ってない」
「何でもいいんだよ。例えば、お母さんの作った珍しいハーヴェストのお料理を少し分けてもらうとか。面白い話でもいい。友達との間で流行ってる遊びとか。それに、1人一つじゃなくてもいい。ここにいる全員が街で拾ったもので作った作品とか」
作品、そういった瞬間トールの目の色も変わった。
「それをお前に渡せばいいのか」
「そうだね、母さんに頼んで集会所に子どもたちの展示室とか作ってもらえないかな?」
そういった僕のセリフを、トールは全く聞いておらず、すでに友達数人と何を作るかの話に熱中しているようだ。
「ああなったら何いっても聞こえてないわよ。あいつら、職人の息子だからものづくりとなったらうるさいのよ」
アリアが呆れたように言った。でも、それはいずれこの街の領主をする僕にとっては、とても頼もしいことだと言えた。
子どもたちの説得が終わった僕は、彼らにお近づきの印として、1人一袋クッキーを配った。あと、井戸端会議のお母さんたちにも。こんなことするんです~よろしくお願いします、みたいな感じで。無事好印象を抱いてもらうことに成功した。
みんななぜかその場で食べて感想を叫んでいたけど、手洗いは…そんな文化ないのか。いずれ浸透させなくては…。そんな中、1人の子に目が止まった。
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