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第一章:光属性の朝日さんの堕とし方
第16話:初デート? その1
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一晩が経ち、遂に当日を迎えてしまった。
昨晩は一時前にはベッドに入ったが、緊張のせいでなかなか寝付けなかった。
結局意識が途絶えたのは三時頃で、起きたのは八時前と五時間も寝られていない。
約束の時刻は十五時なのでもう一眠りしようとしたが、体力は回復していないのに目は冴えてしまっている状況でそれも出来なかった。
結局、昼まで適当にゲームをして過ごし、最悪のコンディションのままでその時を迎えてしまった。
今日の散策地である商業施設の入り口付近、指定したモニュメントの前で彼女が到着するのを待つ。
到着してから、おおよそ十回目になる時刻確認を行う。
スマホの液晶画面には14:55と表示されていた。
そろそろ来るかなと視線を上げて周囲を見渡す。
月曜日ではあるが世間は大型連休の真っ只中で、大勢の人で溢れかえっている。
まさか同級生と鉢合わせたりしないよなと、今更心配になってきた。
秀葉院生の主な行動圏内からは少し離れているが、それでも誰かがいる可能性は十分にある。
俺はともかく、朝日さんの方は学年の括りを超えた有名人。
千人近い生徒のほぼ全員に顔を知られている。
そんな人が男と二人きりでいるのが目撃されれば、あの懸念が現実になってしまう。
やっぱりやめとくべきだったんじゃないかと、心配がピークに達した時――
「お待たせ~」
その不安をかき消すように、軽やかで心地の良い声が正面から聞こえてくる。
地面に落ちつつあった視線を上げると、朝日さんがすぐ側まで来ていた。
「ごめん、もしかして結構待ってくれてた?」
「いや、全然……俺もさっき来たばっか」
「なら、よかった。それじゃ行こっか」
その言葉を合図に、俺たちのデート的な何かが開始された。
まずは俺が先導する形で、側の自動ドアから商業施設の中へと入る。。
「ここ来るの、結構久しぶりだな~」
「そうなんだ」
「うん、子供の頃はお父さんがたまに連れて来てくれてたけど、高校に入ってからは初めてかな」
「まあ他の買い物するだけなら、わざわざこっちにまで来る必要も無いしね」
そんな他愛のない会話をしながら、二人で並んで歩く。
外で見る彼女の私服姿には、屋内で見るのとはまた違った新鮮さがあった。
ここは、似合ってるとか褒めたりする方が男らしいんだろうか……?
いや、別に付き合ってるわけじゃないんだからそこまでは要らないか……。
「ところでさ、この服どうかな?」
いや、そっちから聞いてくんのかよ!
「昨日お兄ちゃんの買い物に付き合ってる間に買った奴なんだけど、似合ってる? 自分じゃよく分かんないから出来れば他の人の感想が聞きたいんだよね」
しかも、俺との買い物に新しい服を下ろしてくるなんて恐れ多い。
「えーっと……俺にはよく似合ってるように見えるけど……」
どこがどういう風にとは言語化はできないので、シンプルな感想を伝える。
「えへへ、そっか。なら、よかったー」
安心したような照れ笑いを浮かべる朝日さん。
これは、今ので正解だったのか……?
選択肢が表示されて、それっぽい効果音が鳴ってくれないと全く分からない。
「全く具体的な感想じゃなくて申し訳ないけど……」
「んーん。そういうのって結局個人の感性だし、今日は隣にいる影山くんが直感的にでも似合ってるって言ってくれればそれが一番じゃない?」
「そ、そんなもんかな……」
「少なくとも私はそうかな。ちなみに影山くんはどんな感じかな~……?」
エスカレーターに乗ると、一段前に進んだ朝日さんが俺の服装をじっと眺めてくる。
薄いグレー系のシャツに、丈が短い薄手のジャケットを合わせただけ。
どのベースアイテムが良いのか、どのModが強いのか何も分からない状態で適当に組み合わせた素人の雰囲気ビルド以外の何物でもない。
しかし、これが唯一俺に可能なフルパワーのオシャレだった。
「なるほど~……細身だからスキニーパンツは似合うよね」
「そ、そう……? 俺も自分じゃよく分からないけど……」
これ、スキニーパンツって言うんだ……!
「うん、全体的にシュッとして見えるし、暗めの色も大人っぽくて落ち着いてる影山くんの雰囲気に合ってるよね」
大人っぽくて落ち着いてる……。
根暗な陰キャをこの上なく無難に言い換えた表現のように思ってしまうのは、自分の劣等感故だろうか。
少しずつ慣れてきてはいるが、それでもこの本質的な性はなかなか変えられない。
「……と言うことで、総評は私に負けず劣らず似合ってると思います!」
「ど、どうも……」
とはいえ、及第点は得られたようなので一安心する。
そうこうしている間に三階――今日の目的地である専門店へとたどり着いた。
「これが噂の専門店……!」
そのスタイリッシュな店構えに、朝日さんも目を輝かせている。
「とりあえず入ろうか。あっ、そこ段差あるから気をつけて」
「ほんとだ。危ない危ない……」
入り口の改装作業に伴う小さな段差を気遣い、ポイントを一つ稼いで入店する。
「おおー……! 本当にいっぱい並んでる……!」
中に入ると、彼女は目の輝きを更にもう一段階上げる。
最終的には、ゲーミングデバイスのように七色に輝くんじゃないだろうか。
「何か見たいものはある? 俺の買う物はもう決まってるから後でいいんだけど……」
「ん~……私も特にこれってのはないし、順番に見て回ろうかな」
「了解。じゃあ、こっちからで……」
入り口から時計回りに進むルートを提案する。
店内は一般的な量販店ほど広くはないが、専門店と考えればそれなりに広い。
棚の一つ一つにデバイスが所狭しと並んでおり、圧さえ感じる。
「キーボードも色々と種類があるよねー」
「スイッチの軸の種類が色々あるメカニカルキーボードとか、逆にスイッチのない無接点構造のキーボードとかね。タッチの軽さか静音性か、それとも打鍵感を求めるのかで結構好みの差が出るから」
「なるほど~……ちなみに、影山くんはどれが好き?」
「んー……そうだなぁ……」
ディスプレイ用に並んでいるキーボードを軽く叩きながら考える。
「やっぱりオーソドックスに赤軸かな。青軸のカチカチってクリック音としっかりした打鍵感も好きなんだけど、マイクが音を拾うのが……」
「確かに、これは結構うるさいから夜中だと隣の人に怒られたりしそうかも」
「後は無接点方式のも一度使ってみたいけど、こっちは値段がね……」
「ふむふむ……うわっ、ほんとだ! これなんて四万円もする! でもすっごい軽くて押しやすいなぁ……」
ちょうど手前にあったキーボードの値札を見て、朝日さんが驚く。
ゲーミング系のデバイスは、高い物だと普通に数万円を超える物が多くある。
いずれはこだわりにこだわりぬいた環境を整備したいとは思うが、流石に学生の身分でそれは難しい。
キーボードのコーナーを通り過ぎて、次の売り場へと向かう。
「おぉ……すっごい音圧……。重低音が頭の芯にまで響く~……」
「俺はそこまでじゃないけど、音響機器もこだわり出すとかなりの沼らしいよ」
ヘッドセットやマイク、スピーカーなどの音響機器。
「うわぁ……すっごぉ……これ本当に実写じゃないの?」
「そう思う向けの人に……ほら、人の操作でオブジェクトに干渉する部分もちゃんと」
「未来だぁ……ここに未来がある……」
次世代ゲームエンジンのデモを流しているモニターコーナー。
「よ、よんせんきゅうじゅう……これだけで30万円以上もするってどういうことなの……」
「普通にゲームする分には流石にちょっと過剰だけど、憧れはあるよね」
「うん、自分で組むなら妥協したくないなー……目指すはヌルヌルの4K!!」
CPUやグラフィックボードなどの本体部品。
RPGのダンジョンでボス直するのではなく、全ての道を探索するような買い物。
一人で来るのとは違う、必要のない行程も楽しむそれは始めての体験だった。
そうして無駄なようで無駄じゃない長い時間を経て、ようやく目的のマウス売り場に辿り着く。
「数がすごい!」
売り場を見て、朝日さんが第一声を張り上げる。
棚の大きさは他と変わらないが、サイズの小ささもあって商品点数は一番多い。
「パソコンを使ってると、大体の人が一番長く使うデバイスだしね」
「確かに、そう言われればそうだよね。影山くんはもうどれ買うか決めてるんだっけ?」
「うん、使い慣れたやつを。家にあるのは、ホイールがかなりへたってきたから」
そう言って、吊り下げられている箱を一つ取る。
後はこれをレジに持っていくだけで、今日の目的は果たされる。
「ん~……せっかくだし私も何か買おうかな~……。なんか見てると欲しくなってきた……」
「流石にマウスは今後パソコンを買ってからの方がいいんじゃない……? 後で、もっと自分に合うのが出てきてるかもしれないし」
「それはそうだよねぇ……う~ん……あっ、そうだ! だったら……」
マウスの並ぶ棚をじっと睨みつけていたかと思えば、今度は何かを思い出したかのように元来た方向へと歩き出した朝日さん。
後を追い、角を曲がると――
「じゃ~ん! ゲーミングクッション!!」
彼女はエナジードリンクみたいな柄の入った大きめのクッションを抱えていた。
昨晩は一時前にはベッドに入ったが、緊張のせいでなかなか寝付けなかった。
結局意識が途絶えたのは三時頃で、起きたのは八時前と五時間も寝られていない。
約束の時刻は十五時なのでもう一眠りしようとしたが、体力は回復していないのに目は冴えてしまっている状況でそれも出来なかった。
結局、昼まで適当にゲームをして過ごし、最悪のコンディションのままでその時を迎えてしまった。
今日の散策地である商業施設の入り口付近、指定したモニュメントの前で彼女が到着するのを待つ。
到着してから、おおよそ十回目になる時刻確認を行う。
スマホの液晶画面には14:55と表示されていた。
そろそろ来るかなと視線を上げて周囲を見渡す。
月曜日ではあるが世間は大型連休の真っ只中で、大勢の人で溢れかえっている。
まさか同級生と鉢合わせたりしないよなと、今更心配になってきた。
秀葉院生の主な行動圏内からは少し離れているが、それでも誰かがいる可能性は十分にある。
俺はともかく、朝日さんの方は学年の括りを超えた有名人。
千人近い生徒のほぼ全員に顔を知られている。
そんな人が男と二人きりでいるのが目撃されれば、あの懸念が現実になってしまう。
やっぱりやめとくべきだったんじゃないかと、心配がピークに達した時――
「お待たせ~」
その不安をかき消すように、軽やかで心地の良い声が正面から聞こえてくる。
地面に落ちつつあった視線を上げると、朝日さんがすぐ側まで来ていた。
「ごめん、もしかして結構待ってくれてた?」
「いや、全然……俺もさっき来たばっか」
「なら、よかった。それじゃ行こっか」
その言葉を合図に、俺たちのデート的な何かが開始された。
まずは俺が先導する形で、側の自動ドアから商業施設の中へと入る。。
「ここ来るの、結構久しぶりだな~」
「そうなんだ」
「うん、子供の頃はお父さんがたまに連れて来てくれてたけど、高校に入ってからは初めてかな」
「まあ他の買い物するだけなら、わざわざこっちにまで来る必要も無いしね」
そんな他愛のない会話をしながら、二人で並んで歩く。
外で見る彼女の私服姿には、屋内で見るのとはまた違った新鮮さがあった。
ここは、似合ってるとか褒めたりする方が男らしいんだろうか……?
いや、別に付き合ってるわけじゃないんだからそこまでは要らないか……。
「ところでさ、この服どうかな?」
いや、そっちから聞いてくんのかよ!
「昨日お兄ちゃんの買い物に付き合ってる間に買った奴なんだけど、似合ってる? 自分じゃよく分かんないから出来れば他の人の感想が聞きたいんだよね」
しかも、俺との買い物に新しい服を下ろしてくるなんて恐れ多い。
「えーっと……俺にはよく似合ってるように見えるけど……」
どこがどういう風にとは言語化はできないので、シンプルな感想を伝える。
「えへへ、そっか。なら、よかったー」
安心したような照れ笑いを浮かべる朝日さん。
これは、今ので正解だったのか……?
選択肢が表示されて、それっぽい効果音が鳴ってくれないと全く分からない。
「全く具体的な感想じゃなくて申し訳ないけど……」
「んーん。そういうのって結局個人の感性だし、今日は隣にいる影山くんが直感的にでも似合ってるって言ってくれればそれが一番じゃない?」
「そ、そんなもんかな……」
「少なくとも私はそうかな。ちなみに影山くんはどんな感じかな~……?」
エスカレーターに乗ると、一段前に進んだ朝日さんが俺の服装をじっと眺めてくる。
薄いグレー系のシャツに、丈が短い薄手のジャケットを合わせただけ。
どのベースアイテムが良いのか、どのModが強いのか何も分からない状態で適当に組み合わせた素人の雰囲気ビルド以外の何物でもない。
しかし、これが唯一俺に可能なフルパワーのオシャレだった。
「なるほど~……細身だからスキニーパンツは似合うよね」
「そ、そう……? 俺も自分じゃよく分からないけど……」
これ、スキニーパンツって言うんだ……!
「うん、全体的にシュッとして見えるし、暗めの色も大人っぽくて落ち着いてる影山くんの雰囲気に合ってるよね」
大人っぽくて落ち着いてる……。
根暗な陰キャをこの上なく無難に言い換えた表現のように思ってしまうのは、自分の劣等感故だろうか。
少しずつ慣れてきてはいるが、それでもこの本質的な性はなかなか変えられない。
「……と言うことで、総評は私に負けず劣らず似合ってると思います!」
「ど、どうも……」
とはいえ、及第点は得られたようなので一安心する。
そうこうしている間に三階――今日の目的地である専門店へとたどり着いた。
「これが噂の専門店……!」
そのスタイリッシュな店構えに、朝日さんも目を輝かせている。
「とりあえず入ろうか。あっ、そこ段差あるから気をつけて」
「ほんとだ。危ない危ない……」
入り口の改装作業に伴う小さな段差を気遣い、ポイントを一つ稼いで入店する。
「おおー……! 本当にいっぱい並んでる……!」
中に入ると、彼女は目の輝きを更にもう一段階上げる。
最終的には、ゲーミングデバイスのように七色に輝くんじゃないだろうか。
「何か見たいものはある? 俺の買う物はもう決まってるから後でいいんだけど……」
「ん~……私も特にこれってのはないし、順番に見て回ろうかな」
「了解。じゃあ、こっちからで……」
入り口から時計回りに進むルートを提案する。
店内は一般的な量販店ほど広くはないが、専門店と考えればそれなりに広い。
棚の一つ一つにデバイスが所狭しと並んでおり、圧さえ感じる。
「キーボードも色々と種類があるよねー」
「スイッチの軸の種類が色々あるメカニカルキーボードとか、逆にスイッチのない無接点構造のキーボードとかね。タッチの軽さか静音性か、それとも打鍵感を求めるのかで結構好みの差が出るから」
「なるほど~……ちなみに、影山くんはどれが好き?」
「んー……そうだなぁ……」
ディスプレイ用に並んでいるキーボードを軽く叩きながら考える。
「やっぱりオーソドックスに赤軸かな。青軸のカチカチってクリック音としっかりした打鍵感も好きなんだけど、マイクが音を拾うのが……」
「確かに、これは結構うるさいから夜中だと隣の人に怒られたりしそうかも」
「後は無接点方式のも一度使ってみたいけど、こっちは値段がね……」
「ふむふむ……うわっ、ほんとだ! これなんて四万円もする! でもすっごい軽くて押しやすいなぁ……」
ちょうど手前にあったキーボードの値札を見て、朝日さんが驚く。
ゲーミング系のデバイスは、高い物だと普通に数万円を超える物が多くある。
いずれはこだわりにこだわりぬいた環境を整備したいとは思うが、流石に学生の身分でそれは難しい。
キーボードのコーナーを通り過ぎて、次の売り場へと向かう。
「おぉ……すっごい音圧……。重低音が頭の芯にまで響く~……」
「俺はそこまでじゃないけど、音響機器もこだわり出すとかなりの沼らしいよ」
ヘッドセットやマイク、スピーカーなどの音響機器。
「うわぁ……すっごぉ……これ本当に実写じゃないの?」
「そう思う向けの人に……ほら、人の操作でオブジェクトに干渉する部分もちゃんと」
「未来だぁ……ここに未来がある……」
次世代ゲームエンジンのデモを流しているモニターコーナー。
「よ、よんせんきゅうじゅう……これだけで30万円以上もするってどういうことなの……」
「普通にゲームする分には流石にちょっと過剰だけど、憧れはあるよね」
「うん、自分で組むなら妥協したくないなー……目指すはヌルヌルの4K!!」
CPUやグラフィックボードなどの本体部品。
RPGのダンジョンでボス直するのではなく、全ての道を探索するような買い物。
一人で来るのとは違う、必要のない行程も楽しむそれは始めての体験だった。
そうして無駄なようで無駄じゃない長い時間を経て、ようやく目的のマウス売り場に辿り着く。
「数がすごい!」
売り場を見て、朝日さんが第一声を張り上げる。
棚の大きさは他と変わらないが、サイズの小ささもあって商品点数は一番多い。
「パソコンを使ってると、大体の人が一番長く使うデバイスだしね」
「確かに、そう言われればそうだよね。影山くんはもうどれ買うか決めてるんだっけ?」
「うん、使い慣れたやつを。家にあるのは、ホイールがかなりへたってきたから」
そう言って、吊り下げられている箱を一つ取る。
後はこれをレジに持っていくだけで、今日の目的は果たされる。
「ん~……せっかくだし私も何か買おうかな~……。なんか見てると欲しくなってきた……」
「流石にマウスは今後パソコンを買ってからの方がいいんじゃない……? 後で、もっと自分に合うのが出てきてるかもしれないし」
「それはそうだよねぇ……う~ん……あっ、そうだ! だったら……」
マウスの並ぶ棚をじっと睨みつけていたかと思えば、今度は何かを思い出したかのように元来た方向へと歩き出した朝日さん。
後を追い、角を曲がると――
「じゃ~ん! ゲーミングクッション!!」
彼女はエナジードリンクみたいな柄の入った大きめのクッションを抱えていた。
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