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第四章
[ 222 ] 船旅
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「おいおい、乗客は後一人、全部で三人じゃなかったのか?」
「すみません……。急遽増えてしまって……」
「まぁいまさら帰れと言われても無理だろう。二日程度だが、食料の問題もある。調理場で人数変更を知らせるのと自分で謝ってこい」
「わかりました」
シルフィとテトラさんの分を、二日分だから最低でも六食分は捻出してもらわないといけない。ロゼは船長と話すことがあるらしく、狭い船内に何人も入るわけにもいかないため、僕一人で調理場へと向かった。
「いい匂い……」
調理場は船の後方にあった。これは船員が甲板に出る際に、邪魔にならないよう配慮された結果のようだ。
「あの、忙しいところすみません……」
恐る恐る調理場に入ると、数人のコックが忙しそうに何か煮込んだり、皿を洗ったりと忙しく動いていた。誰に話していいかわからず、僕は大きな声で要件を伝えることにした。
「船長さんより、言伝を預かってきました! 乗船予定者が二人増えましたので、その分の食事の用意をお願いいたします!」
チラッと何人かのコックがコチラを見たが、すぐに視線を戻して調理を再開した。感じ悪い……どうしよう。そんなことを考えていると、一人のコックが僕の方へやってきた。
「あれ? ロイエじゃねぇか。なにやってんだこんなところで」
「て、店長?! 何してるんですか?!」
「何してるか? どうみても料理だろ?」
「いやそうじゃなくて……。いつのまにか船に?」
料理関係ならどこにでも現れる人だな……。勝手に潜り込んだんじゃないようだけど。
「昨日の夜からだな! レストランを出た後に食材の匂いが流れてきてな。後を追ってみたらこの船に辿り着いてよ」
「それで、楽しそうで手伝ってるうちに、いつの間にか調理をすることに?」
「わかってんじゃねぇーか。たこ焼きも気になってるから、そろそろ戻ろうかと思ってたところだよ」
おっと、まずいぞ。出航したことを知らなそうだ……。一度出たらしばらくはナッシュに戻らないんじゃないかな。
「あの、店長。この船もう出航してます……」
「は?! ばか言ってんじゃねーよ。俺が宿に秘伝のソースやら色々置いてきたままなんだぞ?」
「いや、でも……」
「ま、まじなのか?! ちょっと見てくる!」
店長は、全速力で甲板へ向かって走っていってしまった。どんなに急いでも手遅れだし、風魔法使いでもこの距離は魔力が持たないと思う……。調理場のコックにお辞儀をすると、僕も甲板へ急いだ。
「うぉーーー! なんてこったーー!」
甲板の方から店長の叫び声が聞こえる……。そうなるよね。とりあえず店長は僕らとヘクセライへ行ってもらうしかないな。
「店長……」
「くそっー! 俺のソースを使ったたこ焼きの発売日なのに客の反応が見れないなんて……」
本気で悔しいのか甲板をガンガンと叩いている。その店長の背後に、ピンクフードを被ったテトラが近づいてきた。
「ソースを置いてきちゃったのー?」
「あぁ、俺の魂を込めた作品が……」
「私のでよかったら、あげよーかー?」
「いらねぇやい。俺のソースより美味いソースなんて……」
「えい!」
「?!?!」
テトラさんが指に付けたソースを、店長の口に無理やり突っ込んだ……。側から見るとおじさんが小さな女の子の指をしゃぶっている光景で、とても気持ち悪い……。
「う、うめぇ……。なんだこのピリッとする味覚は」
「これはアクアリウム特産のサワビソースだよっ。どう美味しい?」
「ああ! めっちゃくちゃ美味いな! これ! 研究させてくれよ! 嬢ちゃん!」
「いいよー。他にもアクアリウム産の食材あるけどみるー?」
「まじか! みるみる!」
見た目は完全に子供だが、成人しているテトラさんに連れられて店長はどこかへ消えてしまった。機嫌は完全に良くなったので、もう放っておこう。
「あれ? ハリルベルはどこだろ……」
船首の方に話をしている船長とロゼを見つけて、僕は近寄ってみた。船首の付近では船員の方がいろんな作業をしており、忙しそうだ。
「ロゼ、話し中ごめん。ハリルベルってどこに……」
「それが……ハリルベルさんならシルフィさんと客室に……。元々私たち三人分しかお話ししてなかったので、シルフィさんとテトラさんのお部屋は無いのです」
「あぁ、そうだったね。それでハリルベルとシルフィは客室に……」
「えっと、まぁ……そういう事だと思います……」
さっきの続きをしているのか……。こっちも放っておくしか無いな……。僕が介入出来る問題でも無い。
「じゃぁ、テトラさんの部屋は僕の部屋を当てて、僕はロゼの部屋に泊めてもらおうかな」
「そうですね! そうしましょう! えへへ」
顔を赤らめながらも、嬉しそうにピョンと跳ねるロゼは本当に可愛い。二人でニコニコしていると、ロゼの前にずいっと船長の顔が割り込んできた。
「おい、小僧。お前には仕事を割り振ったよな?」
「あ……」
完全に忘れていた。荷物を軽くしろって言われていたんだった……。積荷の重さで目的地までの到着後早くなり、燃料費、少量、運搬費の効率が段違いになるらしい。
「すぐにやります!」
「言われる前にやれ!」
「すみません!」
これも格安で乗せてもらうための条件の一部らしいので、逆らうわけにはいかない。僕は慌てて指示されていた貨物室へと向かった。
「すみません……。急遽増えてしまって……」
「まぁいまさら帰れと言われても無理だろう。二日程度だが、食料の問題もある。調理場で人数変更を知らせるのと自分で謝ってこい」
「わかりました」
シルフィとテトラさんの分を、二日分だから最低でも六食分は捻出してもらわないといけない。ロゼは船長と話すことがあるらしく、狭い船内に何人も入るわけにもいかないため、僕一人で調理場へと向かった。
「いい匂い……」
調理場は船の後方にあった。これは船員が甲板に出る際に、邪魔にならないよう配慮された結果のようだ。
「あの、忙しいところすみません……」
恐る恐る調理場に入ると、数人のコックが忙しそうに何か煮込んだり、皿を洗ったりと忙しく動いていた。誰に話していいかわからず、僕は大きな声で要件を伝えることにした。
「船長さんより、言伝を預かってきました! 乗船予定者が二人増えましたので、その分の食事の用意をお願いいたします!」
チラッと何人かのコックがコチラを見たが、すぐに視線を戻して調理を再開した。感じ悪い……どうしよう。そんなことを考えていると、一人のコックが僕の方へやってきた。
「あれ? ロイエじゃねぇか。なにやってんだこんなところで」
「て、店長?! 何してるんですか?!」
「何してるか? どうみても料理だろ?」
「いやそうじゃなくて……。いつのまにか船に?」
料理関係ならどこにでも現れる人だな……。勝手に潜り込んだんじゃないようだけど。
「昨日の夜からだな! レストランを出た後に食材の匂いが流れてきてな。後を追ってみたらこの船に辿り着いてよ」
「それで、楽しそうで手伝ってるうちに、いつの間にか調理をすることに?」
「わかってんじゃねぇーか。たこ焼きも気になってるから、そろそろ戻ろうかと思ってたところだよ」
おっと、まずいぞ。出航したことを知らなそうだ……。一度出たらしばらくはナッシュに戻らないんじゃないかな。
「あの、店長。この船もう出航してます……」
「は?! ばか言ってんじゃねーよ。俺が宿に秘伝のソースやら色々置いてきたままなんだぞ?」
「いや、でも……」
「ま、まじなのか?! ちょっと見てくる!」
店長は、全速力で甲板へ向かって走っていってしまった。どんなに急いでも手遅れだし、風魔法使いでもこの距離は魔力が持たないと思う……。調理場のコックにお辞儀をすると、僕も甲板へ急いだ。
「うぉーーー! なんてこったーー!」
甲板の方から店長の叫び声が聞こえる……。そうなるよね。とりあえず店長は僕らとヘクセライへ行ってもらうしかないな。
「店長……」
「くそっー! 俺のソースを使ったたこ焼きの発売日なのに客の反応が見れないなんて……」
本気で悔しいのか甲板をガンガンと叩いている。その店長の背後に、ピンクフードを被ったテトラが近づいてきた。
「ソースを置いてきちゃったのー?」
「あぁ、俺の魂を込めた作品が……」
「私のでよかったら、あげよーかー?」
「いらねぇやい。俺のソースより美味いソースなんて……」
「えい!」
「?!?!」
テトラさんが指に付けたソースを、店長の口に無理やり突っ込んだ……。側から見るとおじさんが小さな女の子の指をしゃぶっている光景で、とても気持ち悪い……。
「う、うめぇ……。なんだこのピリッとする味覚は」
「これはアクアリウム特産のサワビソースだよっ。どう美味しい?」
「ああ! めっちゃくちゃ美味いな! これ! 研究させてくれよ! 嬢ちゃん!」
「いいよー。他にもアクアリウム産の食材あるけどみるー?」
「まじか! みるみる!」
見た目は完全に子供だが、成人しているテトラさんに連れられて店長はどこかへ消えてしまった。機嫌は完全に良くなったので、もう放っておこう。
「あれ? ハリルベルはどこだろ……」
船首の方に話をしている船長とロゼを見つけて、僕は近寄ってみた。船首の付近では船員の方がいろんな作業をしており、忙しそうだ。
「ロゼ、話し中ごめん。ハリルベルってどこに……」
「それが……ハリルベルさんならシルフィさんと客室に……。元々私たち三人分しかお話ししてなかったので、シルフィさんとテトラさんのお部屋は無いのです」
「あぁ、そうだったね。それでハリルベルとシルフィは客室に……」
「えっと、まぁ……そういう事だと思います……」
さっきの続きをしているのか……。こっちも放っておくしか無いな……。僕が介入出来る問題でも無い。
「じゃぁ、テトラさんの部屋は僕の部屋を当てて、僕はロゼの部屋に泊めてもらおうかな」
「そうですね! そうしましょう! えへへ」
顔を赤らめながらも、嬉しそうにピョンと跳ねるロゼは本当に可愛い。二人でニコニコしていると、ロゼの前にずいっと船長の顔が割り込んできた。
「おい、小僧。お前には仕事を割り振ったよな?」
「あ……」
完全に忘れていた。荷物を軽くしろって言われていたんだった……。積荷の重さで目的地までの到着後早くなり、燃料費、少量、運搬費の効率が段違いになるらしい。
「すぐにやります!」
「言われる前にやれ!」
「すみません!」
これも格安で乗せてもらうための条件の一部らしいので、逆らうわけにはいかない。僕は慌てて指示されていた貨物室へと向かった。
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