217 / 262
第四章
[ 211 ] 仮面の女ゼクト
しおりを挟む
ナルリッチさんのレストランを出ると、店長は寄るところがあると言いどこかへいなくなった。
僕はすぐ近くにあるメルダーホテルへ足を向けると、ふと懐かしくなってフィクスブルートを見に行った。
人通りもまばらで、非活性のフィクスブルートは光を失っている。
「一度奪われた星の魔力は戻らないのかな……」
思いついた疑問を漏らしていると、塀の向こうから戦いの気配を感じた。
「誰か……戦ってる?」
正門へ向かうと門番はいたが、彼らは何も感じていないようだ。お出かけですか?とか呑気に聞かれたが、無視して門を飛び出した。
「あっちか!」
正門を出て右の塀に沿って走ると、二十匹ほどのブラオヴォルフに囲まれている黒い影を見つけた。
「ゼクトさん……?」
「ヴィベルスルフト」
ゼクトは風魔法★5の連続移動魔法を発動させると、リュカさんやシュテルンさんの使っていた同じ魔法とは思えないほどの速さで巨大な剣を軽々振り回し、ブラオヴォルフの群れをまるで紙切れのように次々と切り刻んだ。
「なんだこれ、速すぎる……」
Sランクとはいえ、練度が違うとあんなにも高速で動けるものなのか?! 仮面の女ゼクトの超高速移動剣撃は、目にも止まらぬ速さで周囲の地形ごと抉り取っていた。
バタバタと倒れるブラオヴォルフとゼクトの戦闘に見惚れていると、突然ゼクトが叫んだ。
「後ろだ!」
透き通ったその声に反応して背後へ視線を送ると、背後からブラオヴォルフが僕に飛びかかろうとしていた。
「ジオグラン……っ!」
魔法を唱えようとした瞬間、激しい頭痛で目が眩んだ。そうだった。僕は魔法が……!
「伏せろ!」
ゼクトの声を受けて慌てて身を伏せると、僕の頭上を巨大な剣が横凪に払われ、頭上へ迫っていたブラオヴォルフが一刀両断された。
「あ、ありがとう……ございます」
「……まぁいい、手間が省けた」
「え?」
「魔法が使えないのは本当らしいな」
大量のブラオヴォルフを全て一人で片付けたゼクトは、剣を収めると僕に話しかけてきた。
「え、あの……」
「お前らがクルトと話しているのを聞いた」
僕らの会話を盗み聞きしていたのか……やはり信用ならないな。
僕はゼクトとの会話をすぐにでもやめるべきだと思ったけど、彼女の物腰は柔らかく敵意を感じなかった。それに、僕に話しかけてきた真意を知りたくて、僕は会話を続けた。
「魔力回路がダメージを受けてるらしくて……」
「なるほどな。お前、ダブルだろ」
ゼクトは石の上に腰を下ろすと、語りかけてきた。親方がゼクトとテトラは王国の回し者の可能性があると言っていた言葉が、脳内でフラッシュバックする。
――情報は漏らすなよ
「えっと、違います」
「ふん、まぁいい。魔力回路の治し方を教えてやろう」
「え?!」
「なんだ? 聞きたく無いのか?」
「いえ……。聞きたいですけど」
ゼクトの真意がわからない。相変わらず仮面をしたままで表情は読めないし、街の塀につけられた灯りは光源として頼りなく、さらに表情は伺い知れない。
「魔力回路が仮に、二つある場合……。魔力を流しすぎると体内にある魔力回路に摩耗が生じる。これを魔力摩耗と呼ぶが、治し方は二通り」
「二通り?」
「ああ、一つは片方の魔力回路を諦めるか、もう一つは二つの魔力回路を合わせるか」
諦めるというのは、使えなくなると言うことだろ。しかし、魔力回路を合わせるとは……。
「合わせるってどう言う意味ですか?」
「そのままだ。血管のように隣り合う二つの魔力回路に故意に穴を開け、一つの魔力回路として利用する」
「それってかなり危険なんじゃ……」
「ああ、普通ならまず魔力の暴走で身体中の血管や筋肉が引きちぎれて死ぬ」
とんでもない事をさらっと言ったぞ。この人……。
「ただし、回復術師はこの限りでは無い」
「なっ……!」
「使えるんだろう。回復魔法……」
バカな、僕が回復術師だと知る人は限られている。仮に王国側に情報が漏れているとして、ナッシュのギルド員フィーア、調査班の団長のアウス、バルカン村で戦ったレールザッツの3人くらいだ。
フィーアはヘクセライで捕まってるらしいから、行方を眩ましたレールザッツからか? だとしたら僕のところに大量に追っ手が来ても良さそうだけど。
僕はゼクトから距離を取り、腰の剣へ手を伸ばした。
「なぜ知っている」
「どうでもいいだろう。そんなこと。それよりも魔力回路を治すのが先じゃ無いのか? そのままでこの後の戦いを乗り切れるのか?」
なんなんだコイツ……。僕が回復術師であること、この後ヘクセライや王都で激しい戦いがある事、敵味方どちらの情報も持っていると言うのか?!
「ゼクト……君は僕の敵なのか? 味方なのか?」
「さぁな。自分で考えるんだな」
さらっと長い銀の髪を後ろに流すと、ゼクトは僕を見据えてきた。
「僕は……魔法が使えないと困る」
「なら、さっさと治すべきだな」
「どうすればいい」
「簡単だ。限界まで魔法を使え」
「限界まで?」
「両方の魔法を同時に使うんだ。限界まで」
さっきジオグランツを使おうとしただけで、物凄い激痛だったのに。あれを限界までか……昨日それで気絶したのに、果たして意識を保てるのだろうか。
一度ハリルベルとロゼを呼びに……。
「早ければ、明日にはヘクセライ行きの船が来るんだろ?」
「……」
ゼクトは僕らの事情を全て知っている。知っていて、僕に今治せと言っている。彼女に悪意は無いと思うが……。
「さぁ、やるのかやらないのか。お前の身の安全だけは保証しよう」
「やります」
「ならこれを飲め、気付け薬だ。気を失っては魔法が使えんからな」
渡された怪しい小瓶の瓶を開けると、僕は一気に飲み干した。栄養ドリンクのような味が口いっぱいに広がる。
「安心しろ、ぶっ倒れたら何度でも起こしてやる」
「クーア! ジオグランツ!」
――頭が割れそうな程の激痛を我慢しながら、僕の魔力回路の荒療治が始まった。
僕はすぐ近くにあるメルダーホテルへ足を向けると、ふと懐かしくなってフィクスブルートを見に行った。
人通りもまばらで、非活性のフィクスブルートは光を失っている。
「一度奪われた星の魔力は戻らないのかな……」
思いついた疑問を漏らしていると、塀の向こうから戦いの気配を感じた。
「誰か……戦ってる?」
正門へ向かうと門番はいたが、彼らは何も感じていないようだ。お出かけですか?とか呑気に聞かれたが、無視して門を飛び出した。
「あっちか!」
正門を出て右の塀に沿って走ると、二十匹ほどのブラオヴォルフに囲まれている黒い影を見つけた。
「ゼクトさん……?」
「ヴィベルスルフト」
ゼクトは風魔法★5の連続移動魔法を発動させると、リュカさんやシュテルンさんの使っていた同じ魔法とは思えないほどの速さで巨大な剣を軽々振り回し、ブラオヴォルフの群れをまるで紙切れのように次々と切り刻んだ。
「なんだこれ、速すぎる……」
Sランクとはいえ、練度が違うとあんなにも高速で動けるものなのか?! 仮面の女ゼクトの超高速移動剣撃は、目にも止まらぬ速さで周囲の地形ごと抉り取っていた。
バタバタと倒れるブラオヴォルフとゼクトの戦闘に見惚れていると、突然ゼクトが叫んだ。
「後ろだ!」
透き通ったその声に反応して背後へ視線を送ると、背後からブラオヴォルフが僕に飛びかかろうとしていた。
「ジオグラン……っ!」
魔法を唱えようとした瞬間、激しい頭痛で目が眩んだ。そうだった。僕は魔法が……!
「伏せろ!」
ゼクトの声を受けて慌てて身を伏せると、僕の頭上を巨大な剣が横凪に払われ、頭上へ迫っていたブラオヴォルフが一刀両断された。
「あ、ありがとう……ございます」
「……まぁいい、手間が省けた」
「え?」
「魔法が使えないのは本当らしいな」
大量のブラオヴォルフを全て一人で片付けたゼクトは、剣を収めると僕に話しかけてきた。
「え、あの……」
「お前らがクルトと話しているのを聞いた」
僕らの会話を盗み聞きしていたのか……やはり信用ならないな。
僕はゼクトとの会話をすぐにでもやめるべきだと思ったけど、彼女の物腰は柔らかく敵意を感じなかった。それに、僕に話しかけてきた真意を知りたくて、僕は会話を続けた。
「魔力回路がダメージを受けてるらしくて……」
「なるほどな。お前、ダブルだろ」
ゼクトは石の上に腰を下ろすと、語りかけてきた。親方がゼクトとテトラは王国の回し者の可能性があると言っていた言葉が、脳内でフラッシュバックする。
――情報は漏らすなよ
「えっと、違います」
「ふん、まぁいい。魔力回路の治し方を教えてやろう」
「え?!」
「なんだ? 聞きたく無いのか?」
「いえ……。聞きたいですけど」
ゼクトの真意がわからない。相変わらず仮面をしたままで表情は読めないし、街の塀につけられた灯りは光源として頼りなく、さらに表情は伺い知れない。
「魔力回路が仮に、二つある場合……。魔力を流しすぎると体内にある魔力回路に摩耗が生じる。これを魔力摩耗と呼ぶが、治し方は二通り」
「二通り?」
「ああ、一つは片方の魔力回路を諦めるか、もう一つは二つの魔力回路を合わせるか」
諦めるというのは、使えなくなると言うことだろ。しかし、魔力回路を合わせるとは……。
「合わせるってどう言う意味ですか?」
「そのままだ。血管のように隣り合う二つの魔力回路に故意に穴を開け、一つの魔力回路として利用する」
「それってかなり危険なんじゃ……」
「ああ、普通ならまず魔力の暴走で身体中の血管や筋肉が引きちぎれて死ぬ」
とんでもない事をさらっと言ったぞ。この人……。
「ただし、回復術師はこの限りでは無い」
「なっ……!」
「使えるんだろう。回復魔法……」
バカな、僕が回復術師だと知る人は限られている。仮に王国側に情報が漏れているとして、ナッシュのギルド員フィーア、調査班の団長のアウス、バルカン村で戦ったレールザッツの3人くらいだ。
フィーアはヘクセライで捕まってるらしいから、行方を眩ましたレールザッツからか? だとしたら僕のところに大量に追っ手が来ても良さそうだけど。
僕はゼクトから距離を取り、腰の剣へ手を伸ばした。
「なぜ知っている」
「どうでもいいだろう。そんなこと。それよりも魔力回路を治すのが先じゃ無いのか? そのままでこの後の戦いを乗り切れるのか?」
なんなんだコイツ……。僕が回復術師であること、この後ヘクセライや王都で激しい戦いがある事、敵味方どちらの情報も持っていると言うのか?!
「ゼクト……君は僕の敵なのか? 味方なのか?」
「さぁな。自分で考えるんだな」
さらっと長い銀の髪を後ろに流すと、ゼクトは僕を見据えてきた。
「僕は……魔法が使えないと困る」
「なら、さっさと治すべきだな」
「どうすればいい」
「簡単だ。限界まで魔法を使え」
「限界まで?」
「両方の魔法を同時に使うんだ。限界まで」
さっきジオグランツを使おうとしただけで、物凄い激痛だったのに。あれを限界までか……昨日それで気絶したのに、果たして意識を保てるのだろうか。
一度ハリルベルとロゼを呼びに……。
「早ければ、明日にはヘクセライ行きの船が来るんだろ?」
「……」
ゼクトは僕らの事情を全て知っている。知っていて、僕に今治せと言っている。彼女に悪意は無いと思うが……。
「さぁ、やるのかやらないのか。お前の身の安全だけは保証しよう」
「やります」
「ならこれを飲め、気付け薬だ。気を失っては魔法が使えんからな」
渡された怪しい小瓶の瓶を開けると、僕は一気に飲み干した。栄養ドリンクのような味が口いっぱいに広がる。
「安心しろ、ぶっ倒れたら何度でも起こしてやる」
「クーア! ジオグランツ!」
――頭が割れそうな程の激痛を我慢しながら、僕の魔力回路の荒療治が始まった。
0
お気に入りに追加
416
あなたにおすすめの小説
日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊
北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。
家出した令嬢は自由気ままに『捕食』する!
116(イイロ)
ファンタジー
「捕食」の加護を持つ家出した謎多き令嬢、サルビアが1人の青年と出会い珍しい魔物や薬を求めて冒険するお話。
好きで魔物を狩り食べているだけの令嬢の存在がいつしか国を揺るがす大事件へと発展する!ちょっと(いやかなり)食歴がおかしい令嬢は、気がつけば多くの人と出会い、仲間にめぐまれる!?
グルメあり、バトルあり、感動ありの自由気ままな大暴食令嬢の物語!!!
なろうにも掲載しています。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
ぽっちゃり女子の異世界人生
猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。
最強主人公はイケメンでハーレム。
脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。
落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。
=主人公は男でも女でも顔が良い。
そして、ハンパなく強い。
そんな常識いりませんっ。
私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。
【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】
超文明日本
点P
ファンタジー
2030年の日本は、憲法改正により国防軍を保有していた。海軍は艦名を漢字表記に変更し、正規空母、原子力潜水艦を保有した。空軍はステルス爆撃機を保有。さらにアメリカからの要求で核兵器も保有していた。世界で1、2を争うほどの軍事力を有する。
そんな日本はある日、列島全域が突如として謎の光に包まれる。光が消えると他国と連絡が取れなくなっていた。
異世界転移ネタなんて何番煎じかわかりませんがとりあえず書きます。この話はフィクションです。実在の人物、団体、地名等とは一切関係ありません。
魔力無し転生者の最強異世界物語 ~なぜ、こうなる!!~
月見酒
ファンタジー
俺の名前は鬼瓦仁(おにがわらじん)。どこにでもある普通の家庭で育ち、漫画、アニメ、ゲームが大好きな会社員。今年で32歳の俺は交通事故で死んだ。
そして気がつくと白い空間に居た。そこで創造の女神と名乗る女を怒らせてしまうが、どうにか幾つかのスキルを貰う事に成功した。
しかし転生した場所は高原でも野原でも森の中でもなく、なにも無い荒野のど真ん中に異世界転生していた。
「ここはどこだよ!」
夢であった異世界転生。無双してハーレム作って大富豪になって一生遊んで暮らせる!って思っていたのに荒野にとばされる始末。
あげくにステータスを見ると魔力は皆無。
仕方なくアイテムボックスを探ると入っていたのは何故か石ころだけ。
「え、なに、俺の所持品石ころだけなの? てか、なんで石ころ?」
それどころか、創造の女神ののせいで武器すら持てない始末。もうこれ詰んでね?最初からゲームオーバーじゃね?
それから五年後。
どうにか化物たちが群雄割拠する無人島から脱出することに成功した俺だったが、空腹で倒れてしまったところを一人の少女に助けてもらう。
魔力無し、チート能力無し、武器も使えない、だけど最強!!!
見た目は青年、中身はおっさんの自由気ままな物語が今、始まる!
「いや、俺はあの最低女神に直で文句を言いたいだけなんだが……」
================================
月見酒です。
正直、タイトルがこれだ!ってのが思い付きません。なにか良いのがあれば感想に下さい。
夜が長いこの世界で
柿沼 ぜんざい
ファンタジー
ここは夜が少し長い世界 エステレラ
この世界の小さな国 メルエムにその少女は存在した
彼女の名はサテライト=ヴィル・アストレア
通称 “赤ずきん”
誰もが羨む美貌を持つサテラ
そんな彼女はこの世界に蔓延る獣(けだもの)
“人狼”を殺戮する為に設立された組織 聖導教会の聖職者(プリースト)であった
かつて“人狼”に襲われ、叔母を失った過去を持つ彼女は“人狼”には慈悲など無く容赦ない殺戮を繰り返していた
そして物語は彼女が人狼調査の為に訪れた離れ村のトナードで捕食事件が起きた所から始まる──
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる