20 / 262
第一章
[ 019 ] ギルド試験
しおりを挟む
エルツには道中で「ギルドで雇って貰うのではなく、冒険者になりたいって言ってね」って言われたけど……。
どうやら財政難っぽいし確かに雇うのは難しそう。なら冒険者となって依頼をこなしてお金を稼ぐのが僕にとっては最適ってことかな。
「どうします? 冒険者試験を受けますか?」
エルツの方を見るとコクリと頷いてる。明日を生きる力もお金もない。今は進むしかない!
「はい! お願いいたします!」
「わかりました! こちらをご覧になって、少々お待ちください」
冒険者試験についてというチラシを渡すと、フィーアが嬉しそうにウサ耳を揺らしながら、カウンターの裏へ向かった。
(マスター! 見てくださいあの顔! イケメンですよ! 絶対良いとこのお坊ちゃんですよ!)
(よし、例の作戦で行くんじゃ!)
(了解です!)
「こほん、お待たせしました。早速体力試験を行いたいと思います!」
「は、はい!」
「では、一度外へ出ましょう」
言われて全員でギルドの外に出ると、マスターのおじいさんが赤と青の箱を出してきた。パカっと開けると中には赤と青の粉のようなものが入っている。
「それでは、体力測定を始めようかね。ルールは一つだけ、このギルドをスタートして、街の上にあるキーゼル採掘所の壁にこのチョークの粉を付けて来るだけじゃ。それ以外にルールは無い」
チョークの粉がついた手で髭をモシャモシャするもんだから、白い髭が赤と青になっていく……。
「で合否の判定じゃけどな? フィーアより速く帰ってきたら合格じゃ」
よかった。フィーアさんがどれくらい足に自信があるかわからないけど、脚力の試験なら大丈夫。キーゼル採掘所もここから見えるし、道に迷うことも無さそうだ。
「どうかね? 何か質問はあるかい?」
「いえ! 大丈夫です!」
「ほぉ、えらい自信じゃのう。こりゃ期待が持てるわい」
「本当は、腕力試験か脚力試験を選べるんだけど、腕力試験はシュテルンさんがいないから出来ないの、ごめんね」
「いえ、脚力試験の方が得意です!」
「言いましたね?! 手加減しませんよ?」
僕は青のチョークを、フィーアは赤のチョークを指につけると、マスターが地面にチョークで線を引いた。
「よいか? タッチしないで戻ってきたら、いくら速くても失格じゃからな」
「はーい」
「わかりました」
僕とフィーアは線に足を合わせて走る構えを取ると、マスターが笛を咥えた。
「いちについてー、よーい」
マスターが笛を吹く瞬間、右にいるフィーアの足に魔力が集まる感覚を感じた。
「……フリューネル」
フィーアの足が青い魔力に包まれる。
そんな……魔法の使用はありなのか?!
「スタートぉお!」
合図と共に、お互いほぼ同時に駆け出した。
走り出して驚いた。足が軽い。いや、軽いなんて言葉じゃ足りないくらいの身軽さだ。まるで体が浮いてるのかのようで、次々と階段を駆け上がっていく。
「うわ! ロイたん、はっや!」
「ほぉ。なかなかやりおる。じゃが……」
速い……けど、体幹を鍛えてないから上半身の制御がままならないっ。気を抜いたらバランスを崩しそうだ。フィーアは僕の後ろについてきている。
追い越されないまま階段を登ると、キーゼル採掘所の壁に最初にタッチしたのは僕だった。よしっ! あとは降りるだけだ! ターンして体の向きを変えた時、登ってきたフィーアとすれ違いになった。
「へぇ、なかなか速いですね。それなら……」
背後から魔力の収束を感じる。何かが来る、早くゴールしないと! その思いで強く強く地面を蹴る。ギルドの屋根についた巨大な剣のオブジェの下、マスターとエルツが待っているのが見えた。もう少し! そう思った時だった。
「フリューネル・オルト」
遠くの背後から、微かに呪文詠唱が聞こえた。
その瞬間。
走るという概念を覆して、飛んでるのではと思うほどの速さでフィーアが僕の横を通り抜けた。
「はい、ゴールっと。へへ、ロイエ君もなかなかだけどまだまだだねぇ」
「はぁはぁ……フィーアさん、速すぎる……」
「ということでー! 負けたロイエ君は残念ながら試験は不合格です。試験の挑戦代として銀貨一枚を頂きたいですです!」
「えぇ……お金いるんですか」
「当たり前じゃないですか!」
なんてこった。不合格な上にお金まで掛かるなんて、エルツに借りるしか無い……。
どうやら財政難っぽいし確かに雇うのは難しそう。なら冒険者となって依頼をこなしてお金を稼ぐのが僕にとっては最適ってことかな。
「どうします? 冒険者試験を受けますか?」
エルツの方を見るとコクリと頷いてる。明日を生きる力もお金もない。今は進むしかない!
「はい! お願いいたします!」
「わかりました! こちらをご覧になって、少々お待ちください」
冒険者試験についてというチラシを渡すと、フィーアが嬉しそうにウサ耳を揺らしながら、カウンターの裏へ向かった。
(マスター! 見てくださいあの顔! イケメンですよ! 絶対良いとこのお坊ちゃんですよ!)
(よし、例の作戦で行くんじゃ!)
(了解です!)
「こほん、お待たせしました。早速体力試験を行いたいと思います!」
「は、はい!」
「では、一度外へ出ましょう」
言われて全員でギルドの外に出ると、マスターのおじいさんが赤と青の箱を出してきた。パカっと開けると中には赤と青の粉のようなものが入っている。
「それでは、体力測定を始めようかね。ルールは一つだけ、このギルドをスタートして、街の上にあるキーゼル採掘所の壁にこのチョークの粉を付けて来るだけじゃ。それ以外にルールは無い」
チョークの粉がついた手で髭をモシャモシャするもんだから、白い髭が赤と青になっていく……。
「で合否の判定じゃけどな? フィーアより速く帰ってきたら合格じゃ」
よかった。フィーアさんがどれくらい足に自信があるかわからないけど、脚力の試験なら大丈夫。キーゼル採掘所もここから見えるし、道に迷うことも無さそうだ。
「どうかね? 何か質問はあるかい?」
「いえ! 大丈夫です!」
「ほぉ、えらい自信じゃのう。こりゃ期待が持てるわい」
「本当は、腕力試験か脚力試験を選べるんだけど、腕力試験はシュテルンさんがいないから出来ないの、ごめんね」
「いえ、脚力試験の方が得意です!」
「言いましたね?! 手加減しませんよ?」
僕は青のチョークを、フィーアは赤のチョークを指につけると、マスターが地面にチョークで線を引いた。
「よいか? タッチしないで戻ってきたら、いくら速くても失格じゃからな」
「はーい」
「わかりました」
僕とフィーアは線に足を合わせて走る構えを取ると、マスターが笛を咥えた。
「いちについてー、よーい」
マスターが笛を吹く瞬間、右にいるフィーアの足に魔力が集まる感覚を感じた。
「……フリューネル」
フィーアの足が青い魔力に包まれる。
そんな……魔法の使用はありなのか?!
「スタートぉお!」
合図と共に、お互いほぼ同時に駆け出した。
走り出して驚いた。足が軽い。いや、軽いなんて言葉じゃ足りないくらいの身軽さだ。まるで体が浮いてるのかのようで、次々と階段を駆け上がっていく。
「うわ! ロイたん、はっや!」
「ほぉ。なかなかやりおる。じゃが……」
速い……けど、体幹を鍛えてないから上半身の制御がままならないっ。気を抜いたらバランスを崩しそうだ。フィーアは僕の後ろについてきている。
追い越されないまま階段を登ると、キーゼル採掘所の壁に最初にタッチしたのは僕だった。よしっ! あとは降りるだけだ! ターンして体の向きを変えた時、登ってきたフィーアとすれ違いになった。
「へぇ、なかなか速いですね。それなら……」
背後から魔力の収束を感じる。何かが来る、早くゴールしないと! その思いで強く強く地面を蹴る。ギルドの屋根についた巨大な剣のオブジェの下、マスターとエルツが待っているのが見えた。もう少し! そう思った時だった。
「フリューネル・オルト」
遠くの背後から、微かに呪文詠唱が聞こえた。
その瞬間。
走るという概念を覆して、飛んでるのではと思うほどの速さでフィーアが僕の横を通り抜けた。
「はい、ゴールっと。へへ、ロイエ君もなかなかだけどまだまだだねぇ」
「はぁはぁ……フィーアさん、速すぎる……」
「ということでー! 負けたロイエ君は残念ながら試験は不合格です。試験の挑戦代として銀貨一枚を頂きたいですです!」
「えぇ……お金いるんですか」
「当たり前じゃないですか!」
なんてこった。不合格な上にお金まで掛かるなんて、エルツに借りるしか無い……。
0
お気に入りに追加
416
あなたにおすすめの小説
日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊
北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。
家出した令嬢は自由気ままに『捕食』する!
116(イイロ)
ファンタジー
「捕食」の加護を持つ家出した謎多き令嬢、サルビアが1人の青年と出会い珍しい魔物や薬を求めて冒険するお話。
好きで魔物を狩り食べているだけの令嬢の存在がいつしか国を揺るがす大事件へと発展する!ちょっと(いやかなり)食歴がおかしい令嬢は、気がつけば多くの人と出会い、仲間にめぐまれる!?
グルメあり、バトルあり、感動ありの自由気ままな大暴食令嬢の物語!!!
なろうにも掲載しています。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
ぽっちゃり女子の異世界人生
猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。
最強主人公はイケメンでハーレム。
脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。
落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。
=主人公は男でも女でも顔が良い。
そして、ハンパなく強い。
そんな常識いりませんっ。
私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。
【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】
超文明日本
点P
ファンタジー
2030年の日本は、憲法改正により国防軍を保有していた。海軍は艦名を漢字表記に変更し、正規空母、原子力潜水艦を保有した。空軍はステルス爆撃機を保有。さらにアメリカからの要求で核兵器も保有していた。世界で1、2を争うほどの軍事力を有する。
そんな日本はある日、列島全域が突如として謎の光に包まれる。光が消えると他国と連絡が取れなくなっていた。
異世界転移ネタなんて何番煎じかわかりませんがとりあえず書きます。この話はフィクションです。実在の人物、団体、地名等とは一切関係ありません。
魔力無し転生者の最強異世界物語 ~なぜ、こうなる!!~
月見酒
ファンタジー
俺の名前は鬼瓦仁(おにがわらじん)。どこにでもある普通の家庭で育ち、漫画、アニメ、ゲームが大好きな会社員。今年で32歳の俺は交通事故で死んだ。
そして気がつくと白い空間に居た。そこで創造の女神と名乗る女を怒らせてしまうが、どうにか幾つかのスキルを貰う事に成功した。
しかし転生した場所は高原でも野原でも森の中でもなく、なにも無い荒野のど真ん中に異世界転生していた。
「ここはどこだよ!」
夢であった異世界転生。無双してハーレム作って大富豪になって一生遊んで暮らせる!って思っていたのに荒野にとばされる始末。
あげくにステータスを見ると魔力は皆無。
仕方なくアイテムボックスを探ると入っていたのは何故か石ころだけ。
「え、なに、俺の所持品石ころだけなの? てか、なんで石ころ?」
それどころか、創造の女神ののせいで武器すら持てない始末。もうこれ詰んでね?最初からゲームオーバーじゃね?
それから五年後。
どうにか化物たちが群雄割拠する無人島から脱出することに成功した俺だったが、空腹で倒れてしまったところを一人の少女に助けてもらう。
魔力無し、チート能力無し、武器も使えない、だけど最強!!!
見た目は青年、中身はおっさんの自由気ままな物語が今、始まる!
「いや、俺はあの最低女神に直で文句を言いたいだけなんだが……」
================================
月見酒です。
正直、タイトルがこれだ!ってのが思い付きません。なにか良いのがあれば感想に下さい。
夜が長いこの世界で
柿沼 ぜんざい
ファンタジー
ここは夜が少し長い世界 エステレラ
この世界の小さな国 メルエムにその少女は存在した
彼女の名はサテライト=ヴィル・アストレア
通称 “赤ずきん”
誰もが羨む美貌を持つサテラ
そんな彼女はこの世界に蔓延る獣(けだもの)
“人狼”を殺戮する為に設立された組織 聖導教会の聖職者(プリースト)であった
かつて“人狼”に襲われ、叔母を失った過去を持つ彼女は“人狼”には慈悲など無く容赦ない殺戮を繰り返していた
そして物語は彼女が人狼調査の為に訪れた離れ村のトナードで捕食事件が起きた所から始まる──
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる