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第一章

[ 019 ] ギルド試験

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 エルツには道中で「ギルドで雇って貰うのではなく、冒険者になりたいって言ってね」って言われたけど……。

 どうやら財政難っぽいし確かに雇うのは難しそう。なら冒険者となって依頼をこなしてお金を稼ぐのが僕にとっては最適ってことかな。

「どうします? 冒険者試験を受けますか?」

 エルツの方を見るとコクリと頷いてる。明日を生きる力もお金もない。今は進むしかない!

「はい! お願いいたします!」
「わかりました! こちらをご覧になって、少々お待ちください」

 冒険者試験についてというチラシを渡すと、フィーアが嬉しそうにウサ耳を揺らしながら、カウンターの裏へ向かった。

(マスター! 見てくださいあの顔! イケメンですよ! 絶対良いとこのお坊ちゃんですよ!)
(よし、例の作戦で行くんじゃ!)
(了解です!)

「こほん、お待たせしました。早速体力試験を行いたいと思います!」
「は、はい!」
「では、一度外へ出ましょう」

 言われて全員でギルドの外に出ると、マスターのおじいさんが赤と青の箱を出してきた。パカっと開けると中には赤と青の粉のようなものが入っている。

「それでは、体力測定を始めようかね。ルールは一つだけ、このギルドをスタートして、街の上にあるキーゼル採掘所の壁にこのチョークの粉を付けて来るだけじゃ。それ以外にルールは無い」

 チョークの粉がついた手で髭をモシャモシャするもんだから、白い髭が赤と青になっていく……。

「で合否の判定じゃけどな? フィーアより速く帰ってきたら合格じゃ」

 よかった。フィーアさんがどれくらい足に自信があるかわからないけど、脚力の試験なら大丈夫。キーゼル採掘所もここから見えるし、道に迷うことも無さそうだ。

「どうかね? 何か質問はあるかい?」
「いえ! 大丈夫です!」
「ほぉ、えらい自信じゃのう。こりゃ期待が持てるわい」
「本当は、腕力試験か脚力試験を選べるんだけど、腕力試験はシュテルンさんがいないから出来ないの、ごめんね」
「いえ、脚力試験の方が得意です!」
「言いましたね?! 手加減しませんよ?」

 僕は青のチョークを、フィーアは赤のチョークを指につけると、マスターが地面にチョークで線を引いた。

「よいか? タッチしないで戻ってきたら、いくら速くても失格じゃからな」
「はーい」
「わかりました」

 僕とフィーアは線に足を合わせて走る構えを取ると、マスターが笛を咥えた。

「いちについてー、よーい」

 マスターが笛を吹く瞬間、右にいるフィーアの足に魔力が集まる感覚を感じた。

「……フリューネル」

 フィーアの足が青い魔力に包まれる。
 そんな……魔法の使用はありなのか?!

「スタートぉお!」

 合図と共に、お互いほぼ同時に駆け出した。

 走り出して驚いた。足が軽い。いや、軽いなんて言葉じゃ足りないくらいの身軽さだ。まるで体が浮いてるのかのようで、次々と階段を駆け上がっていく。

「うわ! ロイたん、はっや!」
「ほぉ。なかなかやりおる。じゃが……」

 速い……けど、体幹を鍛えてないから上半身の制御がままならないっ。気を抜いたらバランスを崩しそうだ。フィーアは僕の後ろについてきている。

 追い越されないまま階段を登ると、キーゼル採掘所の壁に最初にタッチしたのは僕だった。よしっ! あとは降りるだけだ! ターンして体の向きを変えた時、登ってきたフィーアとすれ違いになった。

「へぇ、なかなか速いですね。それなら……」

 背後から魔力の収束を感じる。何かが来る、早くゴールしないと! その思いで強く強く地面を蹴る。ギルドの屋根についた巨大な剣のオブジェの下、マスターとエルツが待っているのが見えた。もう少し! そう思った時だった。

「フリューネル・オルト」

 遠くの背後から、微かに呪文詠唱が聞こえた。
 その瞬間。
 
 走るという概念を覆して、飛んでるのではと思うほどの速さでフィーアが僕の横を通り抜けた。

「はい、ゴールっと。へへ、ロイエ君もなかなかだけどまだまだだねぇ」
「はぁはぁ……フィーアさん、速すぎる……」
「ということでー! 負けたロイエ君は残念ながら試験は不合格です。試験の挑戦代として銀貨一枚を頂きたいですです!」
「えぇ……お金いるんですか」
「当たり前じゃないですか!」

 なんてこった。不合格な上にお金まで掛かるなんて、エルツに借りるしか無い……。
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