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第四章 私とカグラ

no50...バイバイ

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 私とカグラは配信魔法で作った身体を動かして、ベネッサと王子の側にやってきた。二人はまだ抱き合ってる。ラブラブだ。

 私はカグラと抱き合うことは出来ないから、少し羨ましいな。

「ベネッサ。よかったね。王子が生き返って」

「はい! 涼音さんの食い意地のおかげです!」

「食い意地……」

 別に食い意地が張ってるわけじゃないもん! あんな場所にいたら食料の確保は必須でしょ?!

「って、あれその配信魔法で作った身体から声が出せるんですか?」

「あ、そうみたい。便利だね。早く覚えれば幻術!とか分身攻撃!とかに使えたのになぁ」

 驚いたことにこの身体、私の視線も切り替わってる。丁度ヘッドマウントディスプレイを装着した時のように、本当に動かしてるみたいな感覚だ。

『分身が剣を持っていない時点で、どっちが偽物かバレバレだろう』

「あ、そっか」

 あははと笑っていると、フェルリオルが私の前に来て頭を下げた。

「涼音よ。以前は邪険な扱いをしてすまなかった。この度の助力、心より感謝する」

「いいっていいって、成り行きだよ」

「今回の事件は、レティーナ王国で長く語り継がれるだろう。記念に涼音とカグラの銅像を作らせてくれ」

「ええぇ?! いいよいいよそんなの! だったらベネッサとフェルリオルの銅像にしてよ」

『うむ。我らの存在は混乱を招くだろう。お主らで解決したことにするが良い』

「しかし――」

 なにやら王子は記念をしたいらしいけど、私とカグラの銅像を置いても、なにこれ?で終わってしまうし、語り継がれても困る。

「う……。うぐ――」

「ベネッサ! 大丈夫か?!」

 ベネッサが突然、胸を押さえてうずくまった。あの位置、私と同じだ……。まさか……。
 私の不安な視線に気付いて、ベネッサが顔を上げた。

「実は、私も涼音さんと同じ現象が……出ているんです。うぐッ」

 ベネッサにも影響が出てたの? しかも私より辛そうだけど……。

『やはり一つの肉体に二つの魂というのは、無理があるようだな。恐らく涼音に起きている離魂現状が、ベネッサにも起きているのだろう』

「そ、それってどうなるの?」

『恐らくゾア・スライムを召喚した影響だろう。ベネッサの方が先に追い出されるかもしれん』

「そんなのダメだよ! 私はいいけど、ベネッサが追い出されるなんてダメだよ!」

 私は他の世界から来た人間だ。私がベネッサの身体に残って王子と結婚しろっていうの?!

『仕組みがわからん以上。どうなるかわからん』

 もうエンドフィシュは無い。また取りに行くとしてもそれまでにベネッサの魂が身体から離れてしまう可能性は高いし。エンドフィッシュが二回目も効果があるのかわからない。そんな賭けには出れない。

「私を先に追い出す方法はないの?!」

『……あるぞ』

「え? あるの?! あるならやろうよ! どうやるの?!」

「お、おい! ベネッサ! ベネッサ! しっかりしろ!」

 ベネッサの意識が朦朧としている。気絶寸前だ……。もう本当に時間がないのかもしれない。

「カグラお願い! 教えて!」

『……リナティスの固有スキル。《万物分断》を使うのだ』

「え? 魔剣カグラ・リナティスなら完全に破壊しちゃったけど……」

『魔剣カグラにも魔核は存在する。運が良ければ、リナティスの《万物分断》を《神剣献上》で奪っている可能性がある』

 確かに、見えないものを切り離す《万物分断》なら私の魂だけを切り離すことが出来るかもしれない。

「どうしよ。一度鑑定したいけど、ベネッサと交代〈スイッチ〉しないとスキル使えない……」

 ベネッサはもう立つことも出来なくなっている。意識も薄く、フェルリオル王子が声をかけても、口に魚の残りを突っ込んでも反応が弱い。

『いまの状態なら、スキルが使えるのではないか?』

「あー、確かに? やってみるね」

 配信魔法で作った分体ならいけるかもしれない。私は自分に向けて鑑定スキルを使った。

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名 前:宮森鈴音
種 族:人間(魂)  レベル:574
状 態:離魂中  固 有:ー
スキル:すごい鑑定Lv4 光魔法Lv7 配信魔法Lv5 超級神剣術 神剣献上 万物分断 雷神魔法Lv1 煉獄魔法Lv5 蜘蛛糸Lv10 操糸Lv8 悪食Lv6 水魔法Lv1 空間機動Lv5 岩竜の鎧Lv1
攻撃値:すごい 耐久値:そこそこ 機動値:すごい 賢さ:あんまり 魔力:いい感じ
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 《王家の血筋》とかテイマーとしてのスキルは、肉体に紐付いてるのか、やっぱり表示されない。

「ってあったよ! 万物分断!」

 よかった!

 うまいこと奪えてた!

 これで私の魂をベネッサから剥がして、ベネッサは本来の身体で生きられる。

 ……でも私には心残りがあった。
 だからこっそり調べたんだ。

「あ、あのね、カグラ。私、知ってるんだ。カグラの最後の????のスキル」

『見たのか……』

「うん……。でも、それでも私は《万物分断》を使うよ」

『……そうか』

 カグラの????になっていたスキルは、《命の絆》というスキルだった。

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命の絆(相手:宮森涼音)
 神剣解放の発動に必要。絆を結んだ相手と命を共にする
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 私が分断されて死んだら、カグラも道連れになって死ぬ。それでもこの世界を救うためには、仕方なかった。《神剣解放》が無ければ、魔剣カグラ・リナティスは倒せなかったから……。

「さようなら、カグラ。楽しい冒険をありがとう。少しの間だけ……お別れだよ。また会おうね」

『我もだ。涼音が来なければ、まだダンジョンの最下層に刺さったままだっただろう。さらばだ涼音。また会おう』

「ベネッサ。幸せになってね。――《万物分断》」

 その瞬間、鋭い刃物でスパッと斬られた感覚に襲われた。そう、まるでカマボコ板から外されたカマボコなように、ベネッサから私の魂が離れるのがわかった。
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