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第三章 カグラ編

no33...涼音の怠慢

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「また別れ道だー。カグラどっちー?」

『右だ』

「はーい」

 絶死のダンジョンの内部に詳しいカグラの道案内に従って、右へ左へと進むとだんだん勾配が上がり、地上に向かっているのがわかる。

(どうしてカグラさんは詳しいのですか?)

「昔、神級鍛治師のマサラさんって人と、ここに来たことがあるらしいよ」

(神級鍛治師の、マサラ……?)

『ああ マサラは我と共にこのダンジョンでモンスターを狩り 様々なスキルを手に入れた』

 カグラが思い出に浸っているけど、そんな人がいれば地上でも噂になってるんじゃないのかな? いつの人かわからないけど。

「ベネッサは、マサラって人知ってる?」

(いえ存じていませんね。少なくともフェルトグランの歴史には出てきておりません)

「多分中央の人だと思うよ」

(そうですか。お役に立てず申し訳ありません)

「いいのいいの、カグラの妄想かもしれないんだから」

『おい』

 うーん。カグラの話を聞く感じ、相当前の人みたいだし。地上には痕跡が残ってない可能性高いよね。

「ちょっと休憩! よいっしょ!」

 開けた場所に出たので、手頃な岩に座って蜘蛛糸でコップを作ると、水魔法で水を注いだ。

「やったー! 蜘蛛糸便利すぎない? んくんく! おいしい! ぬるいけど!」

『レベルが上がれば 水魔法の温度を調整出来たはずだ』

「えー。なら、もっとエンドフィッシュ倒してくれば良かった……」

『貴様がベネッサに王子を会わせなきゃ! って意気揚々と歩き出したのだぞ』

「そうでした……」

(すみません。涼音さん)

「あ、いいのいいの」

 二匹目のエンドフィッシュの魔核は、勢いよく食べた時に飲んじゃったからなぁ。大丈夫だよね? 私、モンスターになったりしないよね?

 その時、お尻がぐらぐらと揺れた。

「ん? 地震?」

『涼音! 下だ!』

「下?!」

 バッと飛び退くと、私が座っていた岩だけがグラグラ揺れて、地面の中から何かが飛び出して来た。

「モンスター?!」

『シェルロックリザードだ!』

(気をつけて! 確かこの種は頑強で素早いです!)

 ベネッサの警告を聞いて、私は空間機動と蜘蛛糸を駆使して一気に飛び退いた。

「グォオオオオ!」

 飛び出したシェルロックリザードは、貝殻みたいな流線形の岩が連なった一メートル五十センチほどの大トカゲだった。尻尾がまるで鞭のように太くて長い。

『涼音! 逃げるぞ! 貴様では勝てん!』

「大丈夫! 私とカグラは最強コンビだからね!」

『いいから逃げろ!』

「えー? 新しいモンスターなら新しいスキルゲットのチャンスなのに?」

 私とカグラの意見が別れていると、ドスドスと思ったよりも速い速度で、シェルロックリザードが私たちに突進して来た。

「ほら! やるよ! カグラ!」

『ダメだ! 奴の装甲は切れん!』

「え?! そうなの?!」

『チッ! 間に合わん!』

 ガキンッ! 目前まで迫っていたため、仕方なくカグラで突進を防ぐと、手が痺れるほどの衝撃が伝わってきてカグラを落としそうになった。

「痛っつ!」

『奴の装甲はただの岩ではない 高度な土魔法によって固められた岩だ 剣すら弾く!』

「急にそんなこと言われても! わ!」

 シェルロックリザードは、器用にその身体を捻らせて尻尾による攻撃を繰り出して来たきたが、尻尾は硬度が高くないのかギリギリ弾ける! 問題は頭の岩だ。硬すぎて切れない!

「蜘蛛糸!」

 切れないなら動きを封じる! 私は蜘蛛糸でシェルロックリザードをグルグルに縛り上げると、手をかざして雷神魔法をお見舞いした。

「食らえ! ライジングボルト!」

 エンシェントデビルが全然いないからレベルは一のままだけど、煉獄魔法だと蜘蛛糸が溶けるし、水魔法はレベルが低すぎる。これしか選択肢が無かった。

 左手から放たれた雷神魔法は、バリバリと激しい音と共にシェルロックリザードへ命中したが……。様子がおかしい。ダメージを受けるわけでもなく、そのまま帯電している。

『馬鹿者! 岩に雷が効くわけないだろう! 速く逃げろ!』

「あ……」

(涼音さん! 来ます!)

「げ! どうしよ!」

 蜘蛛糸に包まれたシェルロックリザードは、その長い尻尾をバネのように縮ませると、雷を纏いながらまるで弾丸のように高速回転して飛んできた。

「くっ! 逃げれない! ごめん! カグラ耐えて!」

 回転しながら高速で突進するシェルロックリザードをカグラで受けると、ガリガリとカグラの刃が削られていく。

「くっ! うそ! やだやだ! カグラ!」

『涼音! 避けろ!』

「カグラが!」

『 チッ! ――神技 冥空絶炎斬!』

 カグラの必殺技で軌道がずれたシェルロックリザードは、私の右手にぶつかりカグラを弾き飛ばすと、壁にぶつかり大穴を開けた。

「痛っ……。カ、カグ、なにこれ身体が動かない……」

 大ダメージを受けた私は、帯電したシェルロックリザードに触れた事で、雷神魔法の効果により麻痺状態となってしまった。 ガラガラと大穴が開いた壁が崩れて、壁の中で眠っていた十体ほどのシェルロックリザードが目を覚まして、次々と溢れ出て来た。

「「「グォオオオオ!」」」

 嘘でしょ……。一匹でもあんなに強いのに、十体以上だなんて……。

『涼音! ベネッサと変われ! 貴様が死んだら 我はまた一人になるんだぞ!』

 カグラ……。ごめん。私、カグラの相棒とか言いながら、自分のことしか考えてなかった。

「交代〈スイッチ〉!」

 ぐわっと後ろに引っ張られる感覚に襲われると、私の魂はベネッサと入れわかり、身体の中へと引っ込んだ。

『ベネッサ! 頼んだぞ!』

(ごめんなさい! ベネッサ! 私が全部やるなんて言っておいて……こんな。お願い! 助けて!)

「大丈夫ですよ。涼音さん。秒で終わらせてあげます」

――配信累計時間:7時間34分
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