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第二章 ベネッサ編

no23...ピンチ!

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 通常の魔法と違って発動光は無いけど、ネルフィム様の体内から毒が流れてくるのがわかる。

「……がはっ!」

 毒消しの指輪が効いたのか、毒の症状が悪化してしまったのかわからないけど、ボタボタとネルフィム様の口から血が流れ、私と彼女のドレスを鮮血が染める。止めどなく血を吐き続けるネルフィム様だったが、毒消しの指輪が効いているのか、少しだけ呼吸が安定した気がした。助かるかもしれない。

「ベネッサ様?!」

「ルイン! 治癒術師を呼んで!」

 ネルフィム様が皆に背を向けていたため分からなかったようだが、いち早く異変に気づいたルインに指示を出すと、同席していたティナード様達も異常事態に気付いた。

「お、おい……どうし、なんだこれは……?!」

「血?! ベネッサ様、これはいったい……?!」

 続いてリルト様も事態の緊急性に気付いたが、ティナード様が助けを呼ぼうとした時だった。

「おい! 治ゆ……」

「ベネッサ様が! ネルフィム様を毒殺したわ!」

 ティナード様の声を遮って一番大きな声で叫んだのは、ネルフィム様の側近であるヴェロニカだった。

「キャァアア! ネルフィム様!」

「おい! 見ろ! ベネッサ様がネルフィム様を!」

「取り押さえろ!」

「なんてことだ! 治癒術師を呼べ!」

 私は駆けつけたネルフィム様の護衛騎士が掴まれると、強引に引き剥がされ、乱暴に地に組み伏せられた。

「ぐっ! 違うんです! 私はネルフィム様を……」

「大人しくしろ!」

「あぐっ」

「ベネちゃん!」

「貴様ら! ベネッサ様に何をする!」

 床に押さえつけられた私を見てカルナセシルとルインが剣を抜くが、背後から現れた別の騎士達に取り押さえられてしまった。

「フェルトグランの者は全て捕えよ!」

「くそっ! ベネッサ様!」

 ルインとカルナセシルの背後では、シファも取り押さえられているのが見えた。まずい……。完全に誤解されている。まだネルフィム様の解毒は完全じゃないのに!

 強引に顔を起こして、なんとかネルフィム様の様子見を見ると、いまだに彼女は血を吐いている。ヴェロニカがネルフィム様の解毒や回復をしているようだが、一向に良くなっている気配はしない。

「ダメだわ! 解毒魔法も回復魔法も効かないの!」

「なんだと?!」

 ヴェロニカの悲壮な声を聞いて、周りにいる者が驚愕の表情を浮かべる。しかし、私だけは気付いていた。さっきヴェロニカは私がネルフィム様を毒殺したと叫んだ。ティナード様達が壁になって、見えるはずもないあの位置から……。

 まさか彼女が……? だとしたら、私がやらないとネルフィム様が死ぬ! 周りの者に説明してる暇は無い!

「くっ、離しなさい!」

「大人しくしていてください! ベネッサ様!」

「うぅ! この……!」

「う、動くなッ!」

 ガン!と剣の柄で頭を殴られて、私は額から血が流れた。なんでこんな事に! 早く……。早くネルフィム様を助けないと……!

「ベネッサ様! 大丈夫ですか?!」

「お前も動くな!」

「ぐはっ!」

 こんなことをしてる間にもネルフィム様が……!
 もう、なりふり構っていられない!

「この……! 退きなさい! 《サモンテイム》アイアンゴーレム!」

「ひっ、なんだ?! モンスター?!」

 私のすぐ側に展開された魔法陣から鋼鉄のゴーレムが現れると、検知魔法が作動し城中に警告音が鳴り響いた。

「蹴散らせ!」

 アイアンゴーレムは、私を押さえつけていたネルフィム様の護衛騎士を投げ飛ばすと、そのまま突進。ネルフィム様の周りにいたヴェロニカを含む護衛騎士を、全員弾き飛ばした。

「ぐわ!」

「ひぃい! モンスターだ! 逃げろー!」

「キャァァァァ!」

 アイアンゴーレムの後を追って、私はネルフィム様に駆け寄ると再度解毒の指輪を発動させた。

「ネルフィム様! しっかりしてください!」

 時間がない! 護衛騎士が駆けつけてくるのは時間の問題だった。毒が残っている場所はどこ?! 腹、食道、喉、顔と順に指輪を這わせて毒を吸っていく。

「もう少しです! ネルフィ……がはっ!」

 ネルフィム様の護衛騎士に、思い切り脇腹を蹴り飛ばされた。

「反逆者め! この! ネルフィム様から離れろ!」

「ごほっ……。聞きなさい! ネルフィム様は!」

「黙れ!」

「ぐっ」

 私が必死に弁明しようとしても、この護衛騎士は聞き耳を持たず、私を蹴り続けた。ルインもシファも捕まってしまい、視界の端ではアイアンゴーレムも中央の騎士達に氷漬けにされてしまっている。

「見ろ! ベネッサ様の指輪から毒の反応があるぞ!」

「ち、違う! これは解毒の指、がはっ!」

「黙れ反逆者! ネルフィム様の痛みを知れ!」

「この悪女め!」

「第一領地になるためにネルフィム様を狙うとは!」

 ち、違う。私じゃない……。その毒は毒消しの指輪で毒を吸っただけ!

 私はネルフィム様を救おうとしたの!と叫びたくても血が喉を塞いで声が出ない。

 蹴られ続けた私は、意識が朦朧となり、額から流れる血で視界も赤く染まり、耳も聞こえなくなった。

 もうダメ……意識が……。

 なぜネルフィム様が狙われるの……。

 やはりヴェロニカが……。

 でも、毒殺はマグルディン様が計画していたはずでは……。

 何がどうなっているの……。

 ダメ……。全身に力が入らない。

 私はどこで選択を間違えたのだろう……。

 私は……。わたし……は。


――『起きろ! ベネッサ・ユーリーン!』

 誰かの声が聞こえる。懐かしい声だ。

『起きろ!』

 ベネッサ……ってだれ……。

『どっちが貴様の名前なのだ!』

 どっち? 何を言ってるの。でも……。

 苦しい時も危ない時も、この声のおかげで頑張れたような……。

『スズネ! 起きろ!』

 私の名前を呼ぶのは誰? 確かこの声は……。

「カ、カグラ……?」

『気が付いたか! 我を取れ! 敵だ!』

 その声でバッと身体を起こして視線を巡らせると、見覚えのある鍾乳洞の中、私はストリングタラテクトの群れに囲まれていた。

――配信累計時間:5時間34分
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