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第9話 We Will Rock You

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早速俺達は練習に明け暮れた
待ってくれる時間がほとんどない為、寝る時間を削っての練習となった
ただ、睡眠不足で倒れても元も子もないので練習は効率よく行う

リズムパターンはシンプルに、ベースとギターは基本ルート弾き、ピアノはコード弾きをメインとした
非常にシンプルなやり方だがロックはこれでも問題ない

「ユヅル!このリズム簡単で楽しい!!」

「そうでしょ~フォルテ!これは私の故郷に伝わるみんなを一瞬で見てる人から参加する人に変えられる魔法のリズムなんだよ!」

冒頭のリズムを繰り返しテンポがずれないように練習してもらう
簡単なフレーズほど段々ずれていくものだ

練習中ガチャンと大きな音を立てて入り口の扉が開いた

「時間だ!!早く来い!!」
兵士が迎えに来た

俺達はすぐに王宮へと向かった
講堂に案内してされ準備を行う
ドラムセットの案内は俺がやっている
セットを組んでいる間、観客を見る

「ドルチェ、ヴィヴァーチェ、ここに楽団の人は来てる?」

2人は客席全体を見渡して、少し暗い顔をした

「試験官が来てるわね」
「塔の展望台で見かけた人が居ます、楽団の多くが来てるのではないでしょうか?」

勢揃いな訳だ

ここで認めさせれば俺達は自由に音楽が出来る
そして、王からの催促がなされる

「時間だ!始めろ!」

「宜しくお願いします!私の故郷に伝わる、ロックというものを演奏します!」
「演奏の前に、皆様にお願いがあります」

「なんだ?」

「これから皆様には、私と同じリズム、動きをして頂きたいのです」

「それは演奏に関係あるのか?」

「はい!最も重要と言えます!」

「分かった、皆のもの、合わせてやれ」

「ありがとうございます」

フォルテを見てコクっと頷く
同時に同じリズムを叩く

俺は明日とクラップ
フォルテはバスドラムとスネア

ドンドンダン!
ドンドンダン!
ドンドンダン!
ドンドンダン!

「さぁ皆さんご一緒に!!」

おそらく楽団の連中だろうか?
半分くらいやらないな
陛下は座りながら軽くやってはくれているが...
時間もない始めるか

そのリズムをキープしながらタイミングを見計らって
ギターのブリッジミュートと一緒に歌いだす
コード進行はまた転調させてキーも変えた
1回目はギターとドラム
2回目はベースを加えて
3回目にピアノを加えて
段々と壮大にしていった
終盤、これまでの演奏の中でも最高の熱量で演奏が出来た
楽団の連中見てるか!
これが4人しか居ないバンドの熱量だ!


Em
おお、我が主人を讃えよ
Em
我々を慈しみ、愛を与える御心
D
我が国に生まれてなんと喜ばしい
F
宝石の様に瑞々しく美しく澄んで輝く

G D C D Em
おお、我が主人を讃えよ
G D C D Em
我々を慈しみ、愛を与える御心
G D C D Em
我が国に生まれてなんと喜ばしい
G D C D Em
宝石の様に瑞々しく美しく澄んで輝く

G D C D Em
おお、我が主人を讃えよ
G D C D Em
我々を慈しみ、愛を与える御心
G D C D Em
我が国に生まれてなんと喜ばしい
G D C D Em
宝石の様に瑞々しく美しく澄んで輝く

ジャーン!
最後の音も綺麗に揃った!
完璧だ!
誰もが疑う余地も無いほど良い演奏だったと確信した

陛下の顔はどうだ、驚いているじゃないか
が、側近の奴が何やら耳打ちしてるな
つまらない事を言わなきゃ良いが
うん、うん、と頷いている
結論は早く出そうだ

「ご苦労だった、お前達の処遇が決まった」

不問とする、その言葉以外ないと思っていたから
発した言葉を理解するのに時間がかかった

「お前達は解散とする!ユヅルと言ったか、お前は楽団に入団させる!拒否権は無い!」

な、ふざけるなよ
フォルテはまだ始めたばっかりだが、他の2人は充分能力があるのに何を言ってるんだ!

「待って下さい!陛下!」

「この国から出ていかなくて済んだ分、良かったと思え!」
そう言って陛下は講堂から出て行ってしまった

残った俺達は何も出来ず呆然と立ち尽くしていた

「みんなを守れなかった...本当にごめん...」
涙を堪えながら謝った
短い時間とは言え、ここまで一緒に頑張った仲なんだ
こんな結果はあんまりすぎる

「ユヅル...あなたは悪くないわ」
「ユヅルさん、謝らないで下さい」
「ユヅル!泣くな!」

「みんな本当にごめん!」
堪えきれなくなり涙が溢れてしまった
せっかく形になってきたのに...

「ユヅル、顔を上げなさい」

ゆっくりと顔を上げる
どんな顔をすればいいのか分からなかった

「諦めの悪いところがあなたの良いところなのよ」

ハッとした
そうだ、死ぬ前だって、この世界に来てからだって
ずっと行動してきたじゃないか
落ち込むなんて俺らしくないよな!

「そう、だったね、ありがとう!目が覚めた!」
涙を拭って力強く答えた

「みんな、またみんなで出来る様にするから、それまで待ってて、練習を辞めたらダメだよ?」

「勿論よ」
「頑張ります」
「早く帰ってきてね!」

ああ、やっぱり仲間ってのは頼もしいな
信頼出来るって事が嬉しい

「じゃあ、行ってくるね!」

とはいえどうしたものか、楽団の方向性をガラリと変えられるか?
まずは相手の出方を見てから考えるか

謁見の間へ案内された俺は王から意外な言葉を聞くことになる

「ご苦労だったユヅル、初めて聴く演奏で胸が震えた、感動した」

じゃあ何故?

「何故?と言いたいか?説明する為にお前を呼んだ、よく聞け」

「他国で演奏を聴くことがあったがお前の言う通りこの国の音楽は閉鎖的だ、故に進化が無い」
「世界は平和に成りつつある、今後はこういった所にも力を入れるべきだ、大国を見てそう感じた、国の士気にも少なからず関わってくる」

「後は...分かるな?」

「楽団を変えろ、そういう事ですね?」

「そうだ、多少の荒事は多めに見てやろう、仲間ともう一度やりたいなら早く行動する事だな」

変えろ、と言われてもな
簡単に言ってくれるぜ

「分かりました」

とは言ったものの...何から手をつけるべきなんだ?
革新派の奴は少なからず居るだろうが、保守派の連中は何をやっても考えが変わるとは思えない

その場で悩んで居ると1人の女性が俺の前に来た

「あなたが新しく楽団に入団する方ですね、私はアンダンテ 、フルートを吹いているわ、宜しくね」

淡々としている、単純だがメガネをかけているのと話し方のせいか知的に見える

「貴方を歓迎してる人は少ないと思うけど...変わった楽器での演奏は興味があるわ」

1人でも多くの味方が欲しいな
頼っても大丈夫か?

「この楽団の事を色々教えてくれたら、私の楽器と音楽の事を教えるよ」

「あら、それは助かるわ、夜の自由時間にあなたの部屋へ行っても?」

「部屋?」

「聞いてないのかしら?ここでの生活は皆王宮離れの寮で生活してるのよ、勿論お給料も出るわ」

ついに!?音楽だけでメシが食えるのか!?
と思ったのも一瞬で、ヴィヴァーチェ達の事がすぐ頭をよぎった

「良かったら案内してくれる?」

「構わないわ」


部屋に案内してもらい、ここでの生活の事を聞いた
スケジュールはしっかりしていた
朝食の時間も、練習の時間も全て計画された通りに行動するのだという

「大体こんなところかしら、質問はある?」

「私は今まで通り、この楽器を使って良いのかな?」

「それは明日説明があると思うけど、クラシックギターを支給されるわ、今日演奏した様な音じゃ貴方だけ異質だもの」

そうか...没収されないだけまだマシか

「それから...」

「まだ何か?」

ここからが本題だ
陛下のことは流石に伏せておこう

「私は王宮向かいの塔でぼぉーっとするのが好きで、よく楽団の演奏を聴いてたよ、でも物足りないと感じるの」「あなたは楽団に居てどう感じる?」

「そうねぇ、それなら私も同じ意見だわ、貴方の演奏を聞いた時、なんて言えば良いのかしら、情熱の様なものを感じたわ」

これなら彼女は味方に出来る可能性があるな

「私の国には楽譜に音楽記号というのがあるの、それは音の大きさやどういう感情で演奏するか書いてあるの、例えば元気に、とかね」
「その説明を各々が解釈するの、この国にはそれが無い」

「だから情熱的に聞こえると?それなら今すぐにでも取り入れたいわ...けど」

「けど?」

言葉を詰まらせながら彼女は言う

「残念ながら楽団長が全てを決めるの、いくら賛同者を集めても彼が良いと言わない限りは何も変えられないわ、今までだって何かを変えたい人達はいたの...」

「その人達の意見は封殺されたって事?」

「そうよ、だからあなたのやりたい事は叶わないわね」

「楽団長は誰が決めてるの?」

「陛下の側近よ」

「私が今日演奏した時、陛下の隣に居た人?」

「そうよ、変な気は起こさない事ね」

「ありがとう、私もここでの暮らしを続けたいからね、余計な事はしないよ」

「そういう顔には見えないわね」

心の中でメラメラと野心を燃やす
現状に満足してない奴らは確実にいる
だからこそ賛同者は地道に説得していけば集まるだろう
変化を嫌うあいつがこの国の音楽の発展を妨げているんだ

今に見てろよ
この国の歴史に残る程のクーデターを起こしてやる


We Will Rock You
Fin
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