上 下
1 / 1

一話 異世界に召喚されました

しおりを挟む
目が覚めた瞬間、視界に飛び込んできたのは煌びやかなシャンデリアだった。ふわふわと漂っていた意識が一気に現実へ引き寄せられ、倒れていた身体を起こす。

白いワンルームとは大違いの豪華な装飾に包まれた大広間、私を見ながらザワザワと騒がしい人達。
見慣れない空間と、自分を取り囲む沢山の人に私の意識は再び飛びそうになった。

(ここは一体どこ……ついさっきまで家で寝ていた筈なのに!?)

ぐるぐると混乱していると、中心に立っていた五十歳くらいの男性が声をかけてくる。


「聞こえるか、黒髪の少女よ」

「は、はいっ…!」

「貴殿は、我が国の平和を保つ為に私が召喚した。まずは礼を言う」

「我が国……こ、ここは一体…?」


赤髪に森色の瞳を持つ男性は淡々と言葉を続け、周囲の人間に視線を向けた。その姿は国王の様で、空気がピシッと引き締まる。


「ここは情熱の国グレビリア、そして私はこの国の王、ブラッド・ユースリアだ」

「情熱の国、グレビリア……」

「して、貴殿の名は何という?」

「…私は笹倉香澄と言います」

「ササクラ…ふむ、カスミでよいか」


国王の言葉に頷くと、座り込んでいた床が赤色に光り始めた。おとぎ話でよく見る魔法陣の形をした光はゆっくりと上がり、足元から頭のてっぺんを囲むようにしてからパッと消える。

その瞬間、先程のざわめきがより大きくなった。

(えっ、何!?魔法陣みたいな模様が私を包んで…そのまま消えちゃった……)


「陛下、彼女は異世界人で間違いありません」

「そうか、流石ジェダイト公爵の魔力だ」

「当然の責務ですから」


魔法陣が消えた瞬間、陛下の背後から黒髪の男性が現れ、耳打ちする様に話しかける。
年齢は二十代後半くらいだろうか…そう考えていれば、翡翠色の瞳がこちらを向いた。

(公爵って事は、王位と爵位が存在する中世ヨーロッパ風の世界なのかな?)

自分の住んでいた日本とはかけ離れた服装と装飾品に、正反対の世界である事は明白だ。
髪や瞳の色は勿論、魔法だって漫画や小説でしか読んだ事がない。


「カスミよ」

「…っはい、何でしょうか?」

「呼び出されて早々に申し訳ないが、貴殿にはある物に触れて欲しい」

「ある物、ですか?」

「教皇、ラピスの水晶をこちらへ」

「かしこまりました」


教皇と呼ばれた初老の男性はゆっくりと此方に近付き、座っている私の足元に青い球体を置いた。
丁寧に置かれた球体はキラキラと輝き、この世の全てを見透かしている様な雰囲気に包まれている。


「初めまして、カスミ様」

「は、初めまして」

「私はスノウ・カランコエと申します」

「笹倉香澄です、よろしくお願いします…」


優しそうな笑みを浮かべた教皇は私の目の前に膝をつき、両手を差し出した。


「僭越ながら、カスミ様のお手を拝借してもよろしいでしょうか?」

「はい」

「ありがとうございます、そのまま水晶に手を近付けてください」


教皇の言われた通りに右手を水晶に近付けた瞬間、視界が一気に白く染る。星空のような輝きと共に目の前が光り、全身が暖かくなった。

(ま、眩しい…!!)

ぎゅっと目を瞑ったまま謎の暖かさに身を委ねていれば、次第に光が落ち着いてくる。

そして、手をかざしていた水晶から

『所持スキル:鑑定』

という二文字が浮かび上がっていた。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~

こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。 それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。 かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。 果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!? ※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

ズボラ通販生活

ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

裏アカ男子

やまいし
ファンタジー
ここは男女の貞操観念が逆転、そして人類すべてが美形になった世界。 転生した主人公にとってこの世界の女性は誰でも美少女、そして女性は元の世界の男性のように性欲が強いと気付く。 そこで彼は都合の良い(体の)関係を求めて裏アカを使用することにした。 ―—これはそんな彼祐樹が好き勝手に生きる物語。

女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません

青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。 だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。 女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。 途方に暮れる主人公たち。 だが、たった一つの救いがあった。 三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。 右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。 圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。 双方の利害が一致した。 ※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

処理中です...