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その夜、イーサンはなかなか寝つけずにいた。
ベッドヘッドに背中を預け、蒸留酒で舌を湿らせる。
上衣は身に付けておらず、よく鍛えられた肉体は隆々とした筋肉に覆われており、その鎧のような肌には大小様々な傷痕が刻まれていた。
カチャと備えつけの浴室の扉が開く音に目をやれば、ほの暗いランプが灯るなかガウンをまとったエリィが出てくる。
しっとりと濃く濡れた長めの髪は片側に流されていて、あらわになった首筋が白く浮かび上がっていた。
ガウンの紐で締められた腰のラインを目でなぞりながら、ああやはり俺は・・・と、先ほどのテオとのやりとりを思い返す。
あの貴人から預けられた、黒い鳥。
あの貴人はよく「私のかわいい黒い小鳥」などと愛しげに口にしていたが、実際会った彼は、あれの欲目で語る人物とはちょっと違う気がした。
18歳にしては思慮深く大人びた人物だと聞いていたが、話した感じは年齢より幼くみえた。
最初は全く喋らず、さすがに用心深いと思ったが、出された飲み物をなんの疑いもなく飲み干すあたり豪気なのか、はたまた警戒心が皆無なのか判別がつかない。
なにも疑わず俺についてきたのもそうだ。
育ちの良さが表れてはいるが、王宮で出された食事をなんの警戒もせず口にしたというし、どこに刺客が潜んでるかも分からないなか、どうにも危機感が足りないように思う。
それにしても。
王子への忠誠は王宮随一と聞いていたが、さっきのあれはなんだったのか。
1人では服が脱げないと言われた時は、何を言ってるんだと思った。
夜も深く秘め事にはもってこいの時間、二人しかいない密室、傍らのベッド。
これは独り寝が寂しいというやつか?と、誰もが勘違いしておかしくない状況だった。
だが、王子一筋と聞いている。
まさかそんな、浮気のような真似をするはずがない。
やむをえず脱がしてやったが、なんのてらいもなくさらされた後ろ姿を見て困惑した。
しなやかで健康的な肢体はのびやかでしみひとつなく、真珠のように輝く肌をみてなぜかドキリとしたのだ。
テオは身長も高く決して女らしくないのだが、瑞々しい背中をみて邪な感情がもたげる。
そう思った瞬間すぐ我にかえった。
いつもの自分らしくない。
普段はこんな事で反応しないのに。
ボタンがはずせないと言われて、変な空気になったせいだろうか。
しかし冷静になった今、なぜボタンがはずせなかったのか、やはり疑問が残る。
明日もう少し話しを聞いた方がいいだろう。
あれの頼みでしばらくうちに預かるなら、なおさら。
ふぅ、と知らず詰めていた息がもれる。
「ため息なんて珍しいですね。さすがの貴方も今日は疲れましたか?」
眠る準備を終え、ベッドの片側に座った恋人の腰を抱き寄せながら「そうでもない」と嘯いた。
「おや?では他に疲れることでも?」
くすくすと喉で笑う恋人のしっとりと湿った長い髪を手に取る。
サイドテーブルに置いてある精油を手のひらに数滴垂らし、白いうなじに唇を落としながら、束にした髪に丁寧に丁寧に馴染ませていく。
こうして2人して穏やかに迎えられる夜は貴重だ。
こんな時間が好きだと思うイーサンだったが、ちらりと振り返る目が楽しげに細められるのを見て、ああこの顔はあの部屋で起きたこと把握してるなと思った。
それもそうだろう。
この舘はエリィが回している。
この中で起きることで、エリィが知らないことは何ひとつないのだ。
するりとベッドに身を滑らせてくる細身の体を両腕におさめながら、艶やかな髪をひと房指にまきつけ今日の長かった一日を思う。
イーサンは最初、この緊急で来たやんごとなき人からの依頼を断ろうと思った。
今までどんな困難な仕事をふられてもやり遂げてきたイーサンだったが、王宮にも誰にも気取られずに、どこかに飛び出していった黒い鳥を五体満足でひそかに捕まえてほしいと言われた時に、手に余ると思ったからだ。
だが、ふだんはイーサンと呼びすてにしてくる尊大な甥から「叔父上、どうかお願いします」とかつて見たことがないほど余裕のない切迫した様子で頼まれ断りきれなかった。
全方位に捜索をかけるため膨大な数のやさぐれまで収集をかけたが、それがいけなかった。
訓練の未熟な末端まで命令が行き届かず、やっと鳥を見つけた時には何も知らない半端者どもが鳥を取り囲み悪さをしようとしていて、馬鹿どもの考えなしな行為に全員天国にぶっぱなしてやろうかと思った。
「エリィ」
「はい」
「俺は今日、まあまあいい仕事をしたと思うんだ」
「そうですね。あの人使いの荒いお方の無茶ぶりに応えられるのは、雷の獅子と言われる貴方くらいのものです」
「そうだろう、だから褒美をくれ」
「なるほど」
「あと・・・」
「あと?」
目を閉じて思う。
今日は一瞬とはいえ、この全幅の信頼を寄せてくれる恋人とは違う相手に邪な気持ちを抱いた。
だが、エリィを前にした今ならわかる。
あれは劣情ではあったが欲情ではなかった。
腹の上にのってくる重みに、閉じていた目を開く。
どうやら恋人は俺が今日しでかした罪を許してくれるらしい。
俺を面白いおもちゃを見つけた猫のような目で見て微笑んでいる。
蠱惑的な瞳で腹の上に股がるエリィの頬を手のひらで撫でれば、すりとよせてきて、かしとかじられた。
「俺はこうしてお前の尻にしかれてるくらいがちょうどいいのかもな」
「殊勝な心がけですね。それなら、今日は特別に甘やかしてあげますよ。それこそ身も心も」
「お手柔らかに」
「甘やかしてあげると言っているのに」
はだけたロープの裾から手を差し入れて太ももをなで回せば、柔らかな尻肉が震えるのが腹に伝わる。
極上の手触りを楽しみながら、みっちりと熱い媚肉のなかに肉の穂先が含まれていくのに喉を鳴らした。
エリィの唇から熱い吐息がこぼれる。
「・・・っ、貴方のすべては、私のものでしょう・・・?」
「・・・、違いない」
甘く吐息が合わさる。
エリィの腹のなかで扱かれる穂先からびくびくと樹液が漏れていく。
ーああ、やはり俺はお前でないと。
鼓動とタイミングを高めていけば、お互いの極みはすぐそこにある。
ーお前じゃないと。
ーお前がいれば。
「ぜんぶ、受けとめろ・・・っ」
「あ、あ・・・っ」
細い腰を掴んで力強く腰を打ち込みながら、迸る思いを全て愛する者の最奥に叩きつけた。
次の日の朝。
イーサンはすっかり身支度を終えたテオを見て絶句した。
「またそれを着たのか?」
「だめでしたか?そんな汚れてないと思うんですが」
くんくんと自分を匂うテオを見て、思わず遠い目になる。
「そうか。それで今夜は誰に脱がせてもらうつもりなんだ」
「え、あ!ボタンをとめるのは普通にできたので忘れてました!」
「もっと!警戒心をもって!」
「は、はい!」
え?警戒心??
とテオは戸惑っていたが、放置だ。
ボタンの特殊性については説明してあったのに、いくらあれの頼みとはいえ、これじゃ先が思いやられる。
「まあいい。その服は目立つから着替えてもらう。いま手伝いが来る」
「おはようございます」
「あ、エリィさん、おはようございます。わぁここにはチビッ子もいるんですね」
ちょうど部屋に入ってきたエリィと、その後ろについてきた10歳くらいの男の子を見て、テオが顔をほころばせた。
「テオ。こいつはアイルだ。まだ子供だが腕はたつ。これをテオにつける。先ずは着替えの手伝いから」
「えっ、でもあのボタンって王族にしかはずせないんでしょう?」
「アイルならはずせるだろう。俺の子だから」
「えっ、こんな大きなお子さんが」
「ついでに言うなら俺たちの子供だ」
「えー!」
アイルを真ん中にエリィの肩を抱いて引き寄せる。
テオのビックリした顔を見て、イーサンの溜飲がどこかさがった。
ベッドヘッドに背中を預け、蒸留酒で舌を湿らせる。
上衣は身に付けておらず、よく鍛えられた肉体は隆々とした筋肉に覆われており、その鎧のような肌には大小様々な傷痕が刻まれていた。
カチャと備えつけの浴室の扉が開く音に目をやれば、ほの暗いランプが灯るなかガウンをまとったエリィが出てくる。
しっとりと濃く濡れた長めの髪は片側に流されていて、あらわになった首筋が白く浮かび上がっていた。
ガウンの紐で締められた腰のラインを目でなぞりながら、ああやはり俺は・・・と、先ほどのテオとのやりとりを思い返す。
あの貴人から預けられた、黒い鳥。
あの貴人はよく「私のかわいい黒い小鳥」などと愛しげに口にしていたが、実際会った彼は、あれの欲目で語る人物とはちょっと違う気がした。
18歳にしては思慮深く大人びた人物だと聞いていたが、話した感じは年齢より幼くみえた。
最初は全く喋らず、さすがに用心深いと思ったが、出された飲み物をなんの疑いもなく飲み干すあたり豪気なのか、はたまた警戒心が皆無なのか判別がつかない。
なにも疑わず俺についてきたのもそうだ。
育ちの良さが表れてはいるが、王宮で出された食事をなんの警戒もせず口にしたというし、どこに刺客が潜んでるかも分からないなか、どうにも危機感が足りないように思う。
それにしても。
王子への忠誠は王宮随一と聞いていたが、さっきのあれはなんだったのか。
1人では服が脱げないと言われた時は、何を言ってるんだと思った。
夜も深く秘め事にはもってこいの時間、二人しかいない密室、傍らのベッド。
これは独り寝が寂しいというやつか?と、誰もが勘違いしておかしくない状況だった。
だが、王子一筋と聞いている。
まさかそんな、浮気のような真似をするはずがない。
やむをえず脱がしてやったが、なんのてらいもなくさらされた後ろ姿を見て困惑した。
しなやかで健康的な肢体はのびやかでしみひとつなく、真珠のように輝く肌をみてなぜかドキリとしたのだ。
テオは身長も高く決して女らしくないのだが、瑞々しい背中をみて邪な感情がもたげる。
そう思った瞬間すぐ我にかえった。
いつもの自分らしくない。
普段はこんな事で反応しないのに。
ボタンがはずせないと言われて、変な空気になったせいだろうか。
しかし冷静になった今、なぜボタンがはずせなかったのか、やはり疑問が残る。
明日もう少し話しを聞いた方がいいだろう。
あれの頼みでしばらくうちに預かるなら、なおさら。
ふぅ、と知らず詰めていた息がもれる。
「ため息なんて珍しいですね。さすがの貴方も今日は疲れましたか?」
眠る準備を終え、ベッドの片側に座った恋人の腰を抱き寄せながら「そうでもない」と嘯いた。
「おや?では他に疲れることでも?」
くすくすと喉で笑う恋人のしっとりと湿った長い髪を手に取る。
サイドテーブルに置いてある精油を手のひらに数滴垂らし、白いうなじに唇を落としながら、束にした髪に丁寧に丁寧に馴染ませていく。
こうして2人して穏やかに迎えられる夜は貴重だ。
こんな時間が好きだと思うイーサンだったが、ちらりと振り返る目が楽しげに細められるのを見て、ああこの顔はあの部屋で起きたこと把握してるなと思った。
それもそうだろう。
この舘はエリィが回している。
この中で起きることで、エリィが知らないことは何ひとつないのだ。
するりとベッドに身を滑らせてくる細身の体を両腕におさめながら、艶やかな髪をひと房指にまきつけ今日の長かった一日を思う。
イーサンは最初、この緊急で来たやんごとなき人からの依頼を断ろうと思った。
今までどんな困難な仕事をふられてもやり遂げてきたイーサンだったが、王宮にも誰にも気取られずに、どこかに飛び出していった黒い鳥を五体満足でひそかに捕まえてほしいと言われた時に、手に余ると思ったからだ。
だが、ふだんはイーサンと呼びすてにしてくる尊大な甥から「叔父上、どうかお願いします」とかつて見たことがないほど余裕のない切迫した様子で頼まれ断りきれなかった。
全方位に捜索をかけるため膨大な数のやさぐれまで収集をかけたが、それがいけなかった。
訓練の未熟な末端まで命令が行き届かず、やっと鳥を見つけた時には何も知らない半端者どもが鳥を取り囲み悪さをしようとしていて、馬鹿どもの考えなしな行為に全員天国にぶっぱなしてやろうかと思った。
「エリィ」
「はい」
「俺は今日、まあまあいい仕事をしたと思うんだ」
「そうですね。あの人使いの荒いお方の無茶ぶりに応えられるのは、雷の獅子と言われる貴方くらいのものです」
「そうだろう、だから褒美をくれ」
「なるほど」
「あと・・・」
「あと?」
目を閉じて思う。
今日は一瞬とはいえ、この全幅の信頼を寄せてくれる恋人とは違う相手に邪な気持ちを抱いた。
だが、エリィを前にした今ならわかる。
あれは劣情ではあったが欲情ではなかった。
腹の上にのってくる重みに、閉じていた目を開く。
どうやら恋人は俺が今日しでかした罪を許してくれるらしい。
俺を面白いおもちゃを見つけた猫のような目で見て微笑んでいる。
蠱惑的な瞳で腹の上に股がるエリィの頬を手のひらで撫でれば、すりとよせてきて、かしとかじられた。
「俺はこうしてお前の尻にしかれてるくらいがちょうどいいのかもな」
「殊勝な心がけですね。それなら、今日は特別に甘やかしてあげますよ。それこそ身も心も」
「お手柔らかに」
「甘やかしてあげると言っているのに」
はだけたロープの裾から手を差し入れて太ももをなで回せば、柔らかな尻肉が震えるのが腹に伝わる。
極上の手触りを楽しみながら、みっちりと熱い媚肉のなかに肉の穂先が含まれていくのに喉を鳴らした。
エリィの唇から熱い吐息がこぼれる。
「・・・っ、貴方のすべては、私のものでしょう・・・?」
「・・・、違いない」
甘く吐息が合わさる。
エリィの腹のなかで扱かれる穂先からびくびくと樹液が漏れていく。
ーああ、やはり俺はお前でないと。
鼓動とタイミングを高めていけば、お互いの極みはすぐそこにある。
ーお前じゃないと。
ーお前がいれば。
「ぜんぶ、受けとめろ・・・っ」
「あ、あ・・・っ」
細い腰を掴んで力強く腰を打ち込みながら、迸る思いを全て愛する者の最奥に叩きつけた。
次の日の朝。
イーサンはすっかり身支度を終えたテオを見て絶句した。
「またそれを着たのか?」
「だめでしたか?そんな汚れてないと思うんですが」
くんくんと自分を匂うテオを見て、思わず遠い目になる。
「そうか。それで今夜は誰に脱がせてもらうつもりなんだ」
「え、あ!ボタンをとめるのは普通にできたので忘れてました!」
「もっと!警戒心をもって!」
「は、はい!」
え?警戒心??
とテオは戸惑っていたが、放置だ。
ボタンの特殊性については説明してあったのに、いくらあれの頼みとはいえ、これじゃ先が思いやられる。
「まあいい。その服は目立つから着替えてもらう。いま手伝いが来る」
「おはようございます」
「あ、エリィさん、おはようございます。わぁここにはチビッ子もいるんですね」
ちょうど部屋に入ってきたエリィと、その後ろについてきた10歳くらいの男の子を見て、テオが顔をほころばせた。
「テオ。こいつはアイルだ。まだ子供だが腕はたつ。これをテオにつける。先ずは着替えの手伝いから」
「えっ、でもあのボタンって王族にしかはずせないんでしょう?」
「アイルならはずせるだろう。俺の子だから」
「えっ、こんな大きなお子さんが」
「ついでに言うなら俺たちの子供だ」
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