明日のさよなら

宇田 るう

文字の大きさ
上 下
3 / 10

3

しおりを挟む
「ああテオ、こんなに泣いて・・・かわいそうに」

隠し扉から突然現れた人に抱きしめられてギョッとしたけど、俺この人知ってる。
テオのお兄さんだ。

この亜麻色の髪にオパールの瞳をしたイケメンはアルフレッドといって、つい先日宰相代理になった。
ちなみに、今の宰相はテオとアルフレッドのお父さん。つまり、ウォールデン公爵家は代々宰相をしてる。
という知識が、なぜか自然と頭に入ってきた。

そんな次期宰相様に「さぁ、ここからお逃げ」と出てきた穴に背中を押されて戸惑う。

「えっ、この中に俺一人で?」
「俺・・・?ああ、混乱してるのか。心配いらない。この隠し通路は王族と宰相、そして神官長と騎士団長しか知らない。私も今日、父から重要機密として教わったばかりだ。まさかこんなに直ぐ使うことになるとは」

「え」
それって緊急時の王族の逃走ルートなんじゃ。
そんな重要な通路、身内といえど罪人を逃がすためにばらしちゃっていいの?

「さあ、急いで。行くと城の裏手にある井戸に出る。通用門に馬車が隠れてるから、ほとぼりがさめるまで領地で身を潜めてるんだ」

なんか分からないけど、たぶん俺のために危ない橋を渡ってくれてるみたいだし、ここは従った方がいいのかな?

「分かりました」
「私はお前の振りをしてベッドに潜りこんでおく。しばらくは時間稼ぎできるだろう。夜明けまでには私も抜け出すから。さぁ行って」

「ありがとう、兄さん」
「兄さん・・・?ふふ、今日は自分のことを俺と言ったり、まるでやんちゃな頃のお前に返ったようだね」

え。あ!貴族は俺とか兄さんとか言わないのかな。気をつけないと。

「あ・・・、ありがとうございます、あにうえ」
通路への壁に手をかけ、振り向きながらそう言ったら、一瞬目を見張ったアルフレッドが俺を見てふわりと微笑んだ。

うわぁ、この人も貴族オーラ持ってんなぁ。

「気をつけてお行き、テオ。私の愛しい弟。神のご加護を」
「・・・」

おでこにチュッてされた。

「あにうえも気をつけて」

俺は恥ずくてチュッはできないけど、捕まらないでね!
後ろでゴゴゴって壁が閉まる音を聞きながら、暗い通路に足を踏み入れる。

光り苔がほんのり照らす通路を進む。

この通路、神官長や騎士団長も知ってるってことは、さっき俺をこの部屋に連れてきてくれた2人もゆくゆくは知ることになるのかな。

リアン・ポートマン
ドミニク・カドガン

2人の家も代々神官長と騎士団長をしていて、今は2人のお父さんがそれぞれの役職に就いてる。

王子も入れたこの3人は幼馴染みで、今向かってる城の裏手の井戸辺りでも、昔はよくこの面子で遊んでた。
今は3人とも王子の側近だ。

ここら辺も、思い出というより知識として入ってくる。
テオの記憶が伝えてくれる感じかな。

それにしてもあの2人、騎士じゃないはずなのに、なんで護衛兵の格好してたんだろ。
俺を連行する時も捕まえて引っ立てるってより、まさに護衛してくれてる感じだった。

幼馴染みだから、優しくしてくれたのかな?
せっかく良くしてくれたのに、俺がいなくなったら怒られちゃうかも。
ちょっと心配。

暗闇に紛れて無事馬車に乗り込んだ俺は、ひたすら街道をすすむ。
御者が一人の二頭立ての馬車は黒塗りで、夜に溶けこむようにひたすら駆けていく。

ウォールデン公爵家の領地は王都の西側にある湖の先にある。
行くには湖を大きく迂回するか、湖の南側に隣接する山を越えていくしかない。

御者は山を越えるルートを取ったようだ。
窓は開けるなと言われたので外は見られないけど、ガラガラと険しい山道に入ったのが馬車の揺れでわかった。

湖畔をまわるより、山道ルートの方が早い。
明日の朝には領地に着くだろう。

あれ、王都の西の山?
確かこの山は夜になると。

「その馬車止まれ!」
「!!」

ガラガラガラと急停車する馬車と、山道に響き渡るドラ声。

そうだ。
この山は夜になると野盗が出るんだったー。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令息はもう待たない

月岡夜宵
BL
突然の婚約破棄を言い渡されたエル。そこから彼の扱いは変化し――? ※かつて別名で公開していた作品になります。旧題「婚約破棄から始まるラブストーリー」

ゆい
BL
涙が落ちる。 涙は彼に届くことはない。 彼を想うことは、これでやめよう。 何をどうしても、彼の気持ちは僕に向くことはない。 僕は、その場から音を立てずに立ち去った。 僕はアシェル=オルスト。 侯爵家の嫡男として生まれ、10歳の時にエドガー=ハルミトンと婚約した。 彼には、他に愛する人がいた。 世界観は、【夜空と暁と】と同じです。 アルサス達がでます。 【夜空と暁と】を知らなくても、これだけで読めます。 随時更新です。

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?

婚約破棄された婚活オメガの憂鬱な日々

月歌(ツキウタ)
BL
運命の番と巡り合う確率はとても低い。なのに、俺の婚約者のアルファが運命の番と巡り合ってしまった。運命の番が出逢った場合、二人が結ばれる措置として婚約破棄や離婚することが認められている。これは国の法律で、婚約破棄または離婚された人物には一生一人で生きていけるだけの年金が支給される。ただし、運命の番となった二人に関わることは一生禁じられ、破れば投獄されることも。 俺は年金をもらい実家暮らししている。だが、一人で暮らすのは辛いので婚活を始めることにした。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

婚約破棄してくれてありがとう、王子様

霧乃ふー  短編
BL
「ジュエル・ノルデンソン!貴様とは婚約破棄させてもらう!!」 そう、僕の婚約者の第一王子のアンジェ様はパーティー最中に宣言した。 勝ち誇った顔の男爵令嬢を隣につれて。 僕は喜んでいることを隠しつつ婚約破棄を受け入れ平民になり、ギルドで受付係をしながら毎日を楽しく過ごしてた。 ある日、アンジェ様が僕の元に来て……

好きな人の尻に繋がるオナホ魔道具を手に入れたので使ってみよう!

ミクリ21 (新)
BL
好きな人の尻に繋がる魔道具の話。

俺の彼氏は俺の親友の事が好きらしい

15
BL
「だから、もういいよ」 俺とお前の約束。

処理中です...