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ジェラルド視点
しおりを挟む目の前の光景に誰も口を開くことができなかった。
リリアーナが公爵家に嫁いできて一年。
私とリリアーナが接する機会はあまりなかった。
私が仕事で忙しいことも原因の一つではあったが、リリアーナが私のことを避けていた。
避けている理由を聞こうとはじめこそ彼女に何度か問いかけてはいたが、困ったように微笑む彼女をみてそれが答えではないかと思った。
彼女は私のことが苦手なのではないかと。そう勝手に決めつけたことを後悔する日が来るとは知らず、彼女が避けるなら私もそれでいいかと諦めた。
そして後悔する日はそう遠くなかった。
職場である王城から屋敷に帰ってくると、屋敷の中が騒がしかった。
いつも出迎えにくる執事のルーカスがいない。
何かあったのかと、足早に騒がしい一室へ向かう。
使用人たちを押し退け入った客間には、血塗れで倒れているリリアーナと応急処置をしているルーカスの姿。
そして少し離れた場所には何やら大声で喚いている令嬢がいた。
少しすると手配していたであろう医師がかけつけ処置をはじめた。
私は何も出来ずただ突っ立ているだけしかできなかった。
何故こんなことになったんだ。
ただそれだけが頭の中にあった。
今夜が峠だそうです。
目の前のベットで横になっているリリアーナを見つめながら、ルーカスに言われたことを頭の中で繰り返す。
彼女との思い出はほぼ無いに等しかった。ただ彼女がこんな目にあった理由が少なからず自分にあると思うと何とも言えない罪悪感が激しく蠢いていた。
リリアーナの身体はナイフで何度も刺されていた。
正直即死しなかったことが奇跡だ。
そして彼女をナイフで刺したのは、喚き散らしていた令嬢だった。
その令嬢は私も知っていた。何年も前から私に付き纏っていた令嬢の1人だった。
リリアーナの部屋からは令嬢からの脅迫の手紙が山ほどあった。中傷から始まった内容は月日が経つ毎に酷いものに変わっていた。
そして今日、実力行使にきたのだ。
リリアーナがいなければ自分をみてくれる。それは腹ただしいほどにつまらない身勝手な動機だった。
リリアーナが私を避けていたのは令嬢が原因だったのだ。
もしリリアーナが誰かしらに相談していたらこんなことになっていなかったかもしれない。しかしそれも脅迫文の一つに、誰かに漏らせばリリアーナのまだ幼い弟を傷つけると記載されていて言えなかったのだとわかった。
そして深い闇が屋敷を包むころ、リリアーナは息をひきとった。とその時は誰もが思った。
突然リリアーナの身体が、目を開けていられないくらいに眩い光に包まれた。
光が鎮まりはじめると部屋一面にキラキラと輝く光の粒が舞っていた。
リリアーナの身体は淡く光。
それらの光が全て落ち着いた時、リリアーナの青白かった頬が赤みを取り戻し、胸は上下していた。
奇跡だ。
こんな神業、奇跡と言わず何というのか。
リリアーナが助かったことにホッとするとともに、これは自分へのチャンスだと思えた。
今度こそ、彼女とちゃんと話しをしよう。今度こそ彼女を大切にしよう。
今度こそ自分は間違えない。
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