ダダ甘♡ワードオーダー

第1章.プロローグ

第02話.旅立ちもダダ甘です(その2)

　パタパタとシェリルを追いかけながら、普段着を着せて行くフィリル母さん。
シェリルは普段、どんな服を着ているんでしょうか……？

　シェリルの下着のシャツは「カミサ」と言い、クリーム色の厚手木綿で作られています。
肩を輪に、袖付けから脇線にかけて直線裁ちで、袖は袖山を輪にした筒袖です。

　半ズボンは「カルソン」と言い、カミサと同じクリーム色の布を用いています。
前股上は股下より少し上まで縫い合わせ、その上はペラッペラです。
カルソンを短く履き、長い脛を出した姿は軽快です。

　首巻は「スート」と言い、黒白のピン・チェックの木綿で、四隅に牡丹色の毛糸の房が付きます。
スートは首に巻いて房を前に垂らすか、末端に毛糸の房の付いた赤い布をターバンの様に頭に巻きます。

　カミサの上に羽織っているのは、手織厚手木綿の布で作った「コトン」と呼ばれる上衣です。
茶、赤、黄とカラフルな色で染めた2枚の布を接ぎ合せたポンチョ型です。
前後裾の少し上には、毛糸でさした横縞があります。

「この服でイイんでしょ？
うん、着替えたけどさ……
やっぱり行きたくないよぉ～！」


　すると居間の向こう側、ロッキングチェアーの方からお爺さんの声が聞こえます。

「のぉフィリルや、孫息子を少し甘やかせ過ぎなんじゃないかの？」

「まぁ、娘には娘の教育方針があるんですから、イイじゃないですか。
おじいさん、紅茶をお入れしましょうね。」

　この2人は、祖父のカメル＝グレイシアと祖母のシャリーです。

　カメルじいさんのご両親は、共にフェンリル＝ハーフです。
言わば、フェンリルウルフの血をより濃く受け継ぐ、唯一の “ 純血種 ” なんだそうです。


「いよいよ、甥のシェリル君も “ 儀式 ” を受ける年齢になったんですね。
懐かしいですよ……」

「お姉さん、子育てのコツがあれば教えて貰えませんか？」

　この2人は、妹のリフィ＝グレイシアと旦那さんのマースです。
リフィは、ひとり娘が産まれだ直後から頻繁にフィリルの所へ子供の相談をしに来ます。

「ねぇお兄ちゃん、ワタシも仲間に入れてよ～！」

　この子は、リフィのひとり娘チェリーです。
意味は桜の花、名付け親はフィリルです。
『大事な人』がよく話してくれた “ ニホンの現風景 ” の中に、それがあったみたいなんです。
お兄ちゃん大好きっ娘で、シェリルの後をいつも追いかけています。

　……これが、現在のグレイシア家の家族構成です。


　リフィおばさんは、シェリルとチェリーに大事な人の事をこう教えています。

「私に桜の花を教えてくれた大事な人は、今はココにはいないの。
遠いとお～い、『日本』って所にいるのよぉ～。」

　シェリルはその言葉を聞いて、何かを直感した様です。

「『ニホン』かぁ……何か惹き付けられる響きなんだよね。」

　するとチェリーもまん丸な、2つの色の違う宝石みたいな大きい目をキラキラ輝かせて言います。

「ワタシも『ニホン』に行きた～い！
サクラを見てみた～い！」

「チェリー、行けるかどうかはアナタも近い将来 “ 儀式 ” の時を迎えれば分かる事よ。
だから、今のうちに少しでも『日本と “ ご縁 ” があります様に』ってお祈りした方がイイんじゃない？」

　リフィおばさんにそう言われ、チェリーは慌ててパンパンっと窓の外に手を合わせたのでした。



　グレイシア家の男子は、15才を迎える時に「成人の儀式」なるものを経験しなければならないそうなんです。
その内容とは……
グレイシア家のフェンリル一族の男子が15才を迎える時、新たなワープホールが開きます。
大事なのは、新たなワープホールはその成人したばかりの男子にしかコネクトする事が出来ない点です。
しかも、強制的にワープ先の異世界へと飛ばされるんです。

　これから、シェリルに課されようとしているのは……

①いたる所に散在するワープホールから自分専用のモノを見つけ出し、
②飛ばされた先の異世界で現当主からの課題をクリアする、

　という、実に荒っぽさ満載の儀式だったんです。


















　この儀式を通し、フェンリル一族特有の “ 違う次元を自由に行き来出来る ” 種族ジョブ『インフィニティ』を発現させた者を成人男子と認めているんです。