元最強魔王の手違い転生

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第45話 ルール

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 チャコの言葉にギルド内がざわめきが起こった。
「PPの奪い合い?何それ?」
「おい、どう言う事だ⁈」
「ちゃんと説明しろよ!意味わかんねーよ!」
 そんな困惑する勇者達を見渡しながら、チャコが笑顔で続ける。
「はーい。ちゃんと説明するよー!一回しか言わないから、良く聞いてねー!まずみんな、PPは当然知ってるよね?はい!そこの人!PPってなーんだ?」
 チャコはそう言うと、前列に佇んでいる、がたいの良い大斧を担いだスキンヘッドの男を指さした。
 スキンヘッド男が仏頂面で口を開く。
「あ?お前、くだらねぇ質問すんじゃねぇよ。クエスト受注の基準になる各クラスに割り当てられてるポイントの事だろ?」
 スキンヘッド男の解答にチャコがニコリと微笑む。
「大正解!流石だね!さて、みなさんには今から〝これ〟をお配りしまーす」
 そう言って、チャコはローブの懐から金色に輝くチョーカーペンダントを取り出すと、高らかと掲げた。
「綺麗でしょー?このチョーカーペンダントにはちょっとした仕掛けがしてあるんだ。口で説明するより、見てもらった方が早いから、みんなよく見ててねー」
 そう言うと、チャコは先程やり取りをしたスキンヘッド男の元へ歩み寄り、彼の太い首に首にチョーカーを着けた。
 チャコがチョーカーを着け終わったその瞬間、彼の頭上に煌々と金色に輝くボウリングの玉ほどの大きさの球体が出現した。
「な、なんだぁ?アレ?」
「魔法?」
「どうなってんだ?」
 不可解な現象に、ギルド内のさわめきが大きくなる。そんな騒つく勇者達を見渡しながら、チャコはニコリと微笑んだ。
「心配しなくて大丈夫ですよー。このチョーカーペンダントは特別製で、着けた人のクラスを教えてくれるものなのですー。今、金色の光が出ていますので、このお兄さんのクラスはゴールドクラスと言う事になります!合ってますか?」
「お、おう」
 スキンヘッド男が困惑した表情を浮かべる。そんな彼の顔を満足げに見つめながら、チャコが続ける。
「みなさんには、制限時間内にパーティー同士で、このチョーカーペンダントの奪い合いをして貰います。相手からチョーカーペンダントを奪う事で、奪った相手のPPを自分の物にする事が出来ます。そして、最終的に一番多くPPを稼いだパーティーが勝者となります!」
 チャコの言葉に血気盛んな勇者達は次々と雄叫びをあげ、ギルド内がより一層ざわつき始めた。
「おお!面白そうだ!」
「良いねぇ、奪い合いってのが実に良い」
「こりゃあ、オレ達のパーティーが頂きだな!」
ガヤガヤと騒がしい空気の中、俺は静かに手を上げ、チャコへと尋ねた。
「なあ、〝一番多くPPを稼いだパーティーが勝者〟って事は一次予選を抜けれるのは、一組だけって事か?」
 勇者達の視線が一斉に俺へと向けられる。
 チャコと目が合った瞬間、彼女は嬉しそうにニコリと笑った。
「ああ!良い質問ですね!ええっと、このギルド内から二次予選に行けるのは一組だけです。ただ、メルンでは他の場所でも一次予選が行われていますから、メルン全体で見れば、二次予選に進めるパーティーは複数組みとなります」
「なるほどね。因みに、さっき言ってた〝制限時間内〟って具体的にどの位の時間なんだ?」
「もぉー、マオさんはせっかちですね。ちゃんとこれからルールの詳細をお伝えしますってば」
「俺の名前を……やっぱりお前、あの時神殿に居た……」

ーーバンッッ!!

 ギルドの扉が勢いよく開かれ、そのけたたましい音が、俺の言葉をかき消した。
 扉の方へ視線を向けると、腕組みをして仁王立ちしているブジャーと、その横に厳つい青色の甲冑を見に纏い、黒いロン毛を靡かせている細身で目つきの悪い男が佇んでいた。
 ロン毛男は、他の勇者達には目もくれず、闊歩しながらチャコの元へと近づくと、徐に腰に携えている長剣を抜き、その鋒を彼女の額へと突きつけた。
「我が名はバンツ。事の顛末はブジャーから聞いた。お主のせいで我のグランドフェス出場資格が取り消されたそうだな」
 バンツの登場に、ギルド内が再び響めき始める。
「おいあれ、プラチナクラスの勇者『蒼狼のバンツ』とその相棒、武闘士のブジャーじゃないか⁈」
「マジかよ⁈あいつアレだろ?この前、エアフ大河周辺の魔物を討伐したって聞いたぜ!」
「うわぁー、すげぇ勇者に出会えたもんだ」
 そんなざわつきを意に返さず、チャコはニコリと笑い、口を開いた。
「あれぇ、そうでしたっけ?それは私のせいじゃなくて、お宅の無礼な武闘士のせいじゃないんですかぁ?」
「おい、お前!調子に乗るなよ!あの時、泣きそうな顔をして怯えてたくせに!そんな奴が〝審査員様〟だって⁈ふざけやがって!また泣かせてやろうか⁈」
 ブジャーがづかづかとチャコへと歩み寄り、大声で怒鳴った。そんな彼の蛮声にチャコは笑顔を返す。
「それで?あなた達はどうして欲しいのですか?」
「我とバンツの不参加を取り消せ。我々も予選に参加させろ」
「ああー、そう言う事ですか。うーん、困りましたねぇ。あなた達はウエン様直々に参加権を抹消されていますからねぇ……。うん!無理です!諦めてください!」
「何を戯けた事を。我等はプラチナクラスの勇者ぞ。あまり戯言を並べるでない。さもなくば、斬って捨てるぞ」
 バンツの剣に殺気が込められる。
「うーん、どうやら脅しでは無さそうですねぇ。仕方ない……」
 チャコはそう呟くと先程までの笑顔をピタリと止め、真っ直ぐにバンツの目を見つめた。
「〝グランドフェス審査員要綱第ニ項第一節〟『進行の妨げになる物は速やかに排除すべし』」
「戯言を……ならば死ねぃ!」
 バンツは突き立てていた剣を振り上げ、力一杯チャコの額へ向けて振り下ろした。

ーーパキンッ!!

「なっ⁈」
 乾いた金属音が耳を抜けると同時に、バンツは驚愕の表情を浮かべながら、自らが振り下ろした鋒を見つめた。
 彼のその見開かれた眼に映ったのは、チャコが剣の鋒を左手の人差し指と中指で挟み込み、自分が全力で放った一撃を軽々と受け止めているという、信じ難い光景であった。
「バ、バカな⁈指先だけで、我の剣を⁈」
「軽い剣ですねぇ。さて、時間も押しているので、さっさと済ませますよぉ」
チャコが右手の拳を握り、そしてーー

ーーッッッッドォゴォッ!!!

 バンツの身体がくの字に折れ曲がりながら吹き飛ばされ、凄まじい勢いで壁に叩きつけられる。
「ぐほぉあ」
 バンツは短くそう呻くと、力無くその場にへたり込んだ。
 プラチナクラスの勇者を一撃で制圧したチャコ。そんな彼女を俺はまじまじと見つめた。
(拳を握ってから、その先の動作が殆ど見えなかった。しかも、打撃音が打撃そのものよりも遅れて聞こえてきやがった……音より速え拳ってことか……コイツ何者だ?)
 チャコがゆっくりとブジャーへ冷たい視線を向ける。
「それで?何の用でしたっけ?」
「な、何でもありません!失礼しました!」
 ブジャーはそう叫ぶと、泡を吹いて気絶しているバンツに目もくれず、一目散にギルドから走り去った。
「ふぅーっ」
 チャコはゆっくりと息を吐くと、俺達の方へと向き直り、再びニコリと微笑んだ。
「ええっと、失礼しました。それでは再び、盛り上がっていきましょー!」
 拳を突き上げる彼女のテンションとは裏腹に、プラチナクラスの勇者を軽々ぶっ飛ばしたチャコに喫驚した勇者達は、その場に立ち尽くし、ギルド内は水を打った様に静まり返った。
「あれぇ?何でみなさん、そんなテンション低いのですか?」
 不思議そうに周りを見渡す彼女に、俺はため息をつきながら口を開いた。
「そりゃあお前、いきなりあんなの見せられたら、みんな引くだろ?」
「マオさんもそうなんですか?」
「いや、俺は別に。てか、俺だったら避けてるし」
 俺の言葉を聞いたチャコが嬉しそうにニヤリと笑う。
「そうですよね!流石、ウエン様が認めた男ですね!」
「ウエンって……やっぱりお前、俺が申請に行った時に居た女神官だな。あの時と全然キャラが違うじゃねぇか」
「いやー、あの時は猫かぶってたんで」
「自分で言うなよ。てか、お前、マジで何者だよ?」
「まあまあ、それは予選を勝ち上がってからのお楽しみって事で。まあ、マオさんが予選を無事に抜けられたらの話しですけど」
「オッケー。意地でも勝ち上がってやるよ。ほら、時間が無いんだろう?さっさと予選の説明を続けろよ」
「ああ、そうでした。それでは……」
 チャコは一度咳払いをして、辺りを見渡しながら続けた。
「それでは、改めまして予選の説明を続けます。これからみなさんには私達の転移魔法で〝とある森の中〟に移動してもらいます。そこで、先程説明したチョーカーペンダントの奪い合いを行います。」
「ある森の中?」
「はい。ここで予選を行っては、メルン在住の勇者に地の利がありますからね。フェアな勝負をする為に場所を変えさせて貰いまーす」
「なるほどね」
「それと、もう一つ大事な事があります」
 そう言ってチャコが頭上を指差すと、そこに大きな地図がホログラムの様に映し出された。
「これは後ほど、みなさんにお配りする〝森の地図〟です。これに魔力を流すと、自分の現在地が分かる様になってるので、使ってくださいね。それと、ココ分かりますか?バツ印の付いてるところ」
 チャコの頭上に浮かぶ地図の北側のエリアに赤いバツ印が一つ描かれている。
「このバツ印は何だ?」
「このバツ印の書かれている所が〝ゴール〟になります」
「ゴール?」
「はい!今回の予選では、最後にこのゴールを潜る事で初めてPPの獲得が認められる様になっています。なので、どれだけPPを集めても、時間内にゴールを潜れなければ、PPを獲得した事になりませんので、ご注意くださいねー」
「つまり幾らPPを奪っても、ゴールを潜らないうちは、本当の意味でPPを獲得した事にはならないって事か」
「その通りです!因みに、一度ゴールしてしまったら、『ゴールした際に所持していたPPがそのパーティーの確定PPになる』ので、ゴール後に再びPPを集めてポイントを伸ばす事は出来ませんし、逆にPPを奪われてゴール時に所持していたPPが減ると言うこともありません」
「ゴールする事は実質このPP争奪戦からの〝アガリ〟になる訳か」
「はい。ただ、自分達がゴールした後で、自分達よりも多くPPを獲得したパーティーがゴールした時点で、予選敗退が決定しますので、いつまでPPを集め、どのタイミングでゴールするかが、この予選のキーになるところですかね。」
「制限時間は?」
「ああ、それはですねぇ……秘密です」
「は?おいおい、制限時間が分からねぇと、作戦の立てようがないだろう」
「制限時間が非公開な事も、駆け引きの要素の一つですから」
「ふーん、まあいいけどね。他にルールは?」
「そうですねー。あと禁止事項が多少ありす。これを破ると即失格です」
「おいおいおい、そう言う大切な事は早く言ってくれ」
「すみませーん。では、禁止事項その一、参加者を殺してはいけません。その二、自分のチョーカーペンダントを自分、若しくは自分以外のパーティーメンバーの手によって外す事は出来ません。その三、他パーティーとの連携、同盟及びそれらに準ずる行為は禁止です。今言った項目を破ると即失格となりますので注意してください」
「それだけか?」
「はい?」
「今お前が言った以外の事なら問題ないんだな?」
「はい。問題ないですよ」
「オッケー、最後にもう一度この予選のルールについて確認するぞ。『今から森に移動して、首にかけたチョーカーペンダントを奪い合い、奪った相手のPPを得ることが出来る。そして、ゴールを潜る事で正式にそのパーティーの獲得PPが決定する。幾らPPを稼いでも、制限時間内にゴールを潜らなければ、そのパーティーの獲得PPは0となる。制限時間は非公開。一度ゴールすれば、その後予選が終わるまで獲得PPが変動する事は無い。人を殺したり、自分や味方がチョーカーペンダントを外す事は出来ない。また他のパーティーと協力する事も禁止』って感じで大丈夫だな?」
「はい。ざっくり言うとそんな感じです。他に質問のある方は?」
 チャコがギルド内を見渡す。
「……居ないみたいですね。では、チョーカーペンダントと森の地図をみなさんにお配りいたします」
 チャコがそう言い終わると、カウンターの奥から白いローブを纏った神官達が数名現れ、参加者達にチョーカーペンダントと地図を配り始めた。
「楽しみにしてますよ。マオさん」
 チャコはそう言うと、笑顔で俺にチョーカーペンダントと地図を手渡した。


「みなさん、チョーカーペンダントと地図は行き渡りましたね?それでは、転移魔法を発動します」
 配布物が行き渡った事を確認し終わったチャコが合図を送ると、神官達が手を合わせながら呪文を唱え始めた。
 それと同時にギルドの床から赤い光が放たれ、勇者全員の足元に転送用の魔法陣が展開された。
 緋色の光を浴びながら、チャコが優しくニコリと微笑んだ。
「では、みなさん御武運を」
 チャコがそう言い終えた瞬間、辺りの景色か白く塗りつぶされた。


「ここは?」
 気がつくと、俺は深い深い森の中に居た。まだ昼間であろうにも関わらず、鬱蒼と茂る樹々が陽の光を遮り、辺りはまるで夕刻を思わせる薄暗さに包まれていた。
「ねぇ、マオ」
 背後から声が掛かる。振り向くと、ラリアとソーファが神妙な顔つきで俺を見つめていた。
「何だよ二人とも。そんなしょぼくれた顔して。腹でも痛いのか?」
「違うわよ。ただこの予選、私達のパーティーが一番不利だなと思って」
「不利?何で?」
「だって、他の参加者達はゴールドクラス以上が殆どよ」
「私達のパーティーはゴールドクラスのラリアが100ポイント。私とマオはシルバークラスで50ポイントずつの、合計PPは200ポイントです」
「もし、プラチナクラスの勇者三人パーティーがいた場合、300ポイントが三人で900ポイント。スタートの時点で600ポイントも差があるのよ」
「そうです。制限時間も分かりませんし、リスクはありますが、とにかく私達は高いクラスのパーティーを狙っていくしか……」
「は?何言ってんの、お前ら?ポイントなんて関係ないだろ?」
 唐突な俺の発言にラリアとソーファが怪訝な表情を浮かべる。
「いや、〝何言ってんの?〟はマオの方でしょ?私達、今ぶっちぎりで最下位なのよ?」
「そうです!だから、一刻も早くポイントを集めないと」
 焦りながらまくし立てる二人へ俺は交互に視線を送る。
「あれ?もしかして、二人とも気付いてないのか?」
「??」
 眉をひそめる二人を見ながら、俺は一呼吸置いて続けた。

「この一時予選の〝攻略法〟」
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