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辞めるつもりはありませんー4
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「とにかく、こんな会社にオレは何の未練もないんだよ」
もう空になった徳利の最後の一滴をお猪口に落とし、和田グループ長はまたお酒を注文した。
「桃ちゃんのことは可愛い妹みたいなものなんだ。
だから白河、君を弟みたいに思って言うけどさ」
和田グループ長は、真剣な眼差しで真雪くんと私を交互に見つめた。
「……白河が自分から辞めるって言いだすために、桃ちゃんを転勤させる話が出てる」
和田グループ長は、声を落として真雪くんにささやいた。
えっ、人には言うなって言っといて、和田グループ長が言っちゃうの?
「は? 何ですか、それ」
真雪くんは私の方へ振り返り、きれいな瞳で私の顔を見る。
隠し事をしていた後ろめたさで、ちょっと目をそらしてしまった。
「もしかして、桃花もこの話、知ってたの?」
「……うん」
正直に頷き、小さい身体を更に小さくするように、両手を膝の上で握りしめた。
「いつから知ってた? 何で俺に言わなかった?」
言おうと思ってた矢先だったんだけど……。
まさか和田グループ長が、言っちゃうとは思わなかった。
「転勤って、どこに?」
「福岡」
「いつから?」
「……新年度から」
私の答えを聞いて、ふーっと真雪くんが深いため息をついて肩を落とす。
やっぱり、真雪くんには真っ先に相談すべきだった。
春から同棲しようって動いてる時に、これからの2人のことを話し合うべきだったよね。
責められてる気分になり、喉の奥につっかえたものがあるみたいに痛くなる。
「まだ内示の段階だから、オレが彼氏にも言っちゃダメだって止めてたんだよ。
桃ちゃんは悪くないから」
真雪くんの深いため息に、気持ちをグッサリと刺され、無意識に口元に力を入れている私に、和田グループ長がフォローして付け加えた。
「……桃花が悪くないことは、わかってますよ」
真雪くんは苛ついたように、私から和田グループ長に視線を移す。
「俺が頼りなくて言えなかったんだと思います。
……ごめん、桃花。 1人で悩んで辛かっただろ?」
下を向いている私に再び向き直った真雪くんは、優しく顔をのぞきこみ、私は驚いて顔を上げた。
「全然、真雪くんが謝ることじゃないよ。
私の方がごめんなさい。真雪くんを頼りなく思って言えなかったわけじゃないの」
なんで真雪くんが謝るの?
私のことばかり思いやって、自分の気持ちを言わない真雪くんに、本当に申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
転勤になるって事よりも、私が真雪くんを信じて相談しなかったことで、傷つけてしまったんじゃないだろうか?
「白河って、本当に桃ちゃんのことを好きなんだな……」
和田グループ長は、眉を少し上げてつぶやいている。
「仮に、俺が辞めるっていえば、桃花の転勤はどうなるんですか?」
真雪くんはビールを一口飲んで、和田グループ長へ尋ねた。
もう空になった徳利の最後の一滴をお猪口に落とし、和田グループ長はまたお酒を注文した。
「桃ちゃんのことは可愛い妹みたいなものなんだ。
だから白河、君を弟みたいに思って言うけどさ」
和田グループ長は、真剣な眼差しで真雪くんと私を交互に見つめた。
「……白河が自分から辞めるって言いだすために、桃ちゃんを転勤させる話が出てる」
和田グループ長は、声を落として真雪くんにささやいた。
えっ、人には言うなって言っといて、和田グループ長が言っちゃうの?
「は? 何ですか、それ」
真雪くんは私の方へ振り返り、きれいな瞳で私の顔を見る。
隠し事をしていた後ろめたさで、ちょっと目をそらしてしまった。
「もしかして、桃花もこの話、知ってたの?」
「……うん」
正直に頷き、小さい身体を更に小さくするように、両手を膝の上で握りしめた。
「いつから知ってた? 何で俺に言わなかった?」
言おうと思ってた矢先だったんだけど……。
まさか和田グループ長が、言っちゃうとは思わなかった。
「転勤って、どこに?」
「福岡」
「いつから?」
「……新年度から」
私の答えを聞いて、ふーっと真雪くんが深いため息をついて肩を落とす。
やっぱり、真雪くんには真っ先に相談すべきだった。
春から同棲しようって動いてる時に、これからの2人のことを話し合うべきだったよね。
責められてる気分になり、喉の奥につっかえたものがあるみたいに痛くなる。
「まだ内示の段階だから、オレが彼氏にも言っちゃダメだって止めてたんだよ。
桃ちゃんは悪くないから」
真雪くんの深いため息に、気持ちをグッサリと刺され、無意識に口元に力を入れている私に、和田グループ長がフォローして付け加えた。
「……桃花が悪くないことは、わかってますよ」
真雪くんは苛ついたように、私から和田グループ長に視線を移す。
「俺が頼りなくて言えなかったんだと思います。
……ごめん、桃花。 1人で悩んで辛かっただろ?」
下を向いている私に再び向き直った真雪くんは、優しく顔をのぞきこみ、私は驚いて顔を上げた。
「全然、真雪くんが謝ることじゃないよ。
私の方がごめんなさい。真雪くんを頼りなく思って言えなかったわけじゃないの」
なんで真雪くんが謝るの?
私のことばかり思いやって、自分の気持ちを言わない真雪くんに、本当に申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
転勤になるって事よりも、私が真雪くんを信じて相談しなかったことで、傷つけてしまったんじゃないだろうか?
「白河って、本当に桃ちゃんのことを好きなんだな……」
和田グループ長は、眉を少し上げてつぶやいている。
「仮に、俺が辞めるっていえば、桃花の転勤はどうなるんですか?」
真雪くんはビールを一口飲んで、和田グループ長へ尋ねた。
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