美醜逆転した異世界で、絆されてハーレム作ることになりました

SHIRO

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番とはなんぞや

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「そんなに警戒しなくても大丈夫だよぉ」

 目の前には服を着せられたユアンがのんびりとこちらを眺めている。俺はというとオーランドの膝に乗せられて、腰をがっちりホールドされた状態だ。
 ユアンは青竜騎士団の服を着崩して、気だるげにソファにもたれかかった。その姿はさっきまで騎士団寮の部屋でくつろいでいた狼そのもので、あのかっこよくて可愛い狼がこのイケメンなんだと否が応でも実感してしまう。

「別に連れ去ったりしないよ?俺が壊れた獣人だってわかってるでしょ?」

 ユアンは可笑しそうに他の三人を見渡して、肩をすくませた。壊れた獣人ってなんだろう。

「もうリトに変なことしないならいいけど」

 オーランドは相変わらず何を考えてるのかわからない笑顔をユアンに向けている。ユアンが股間を触らせたことが相当衝撃だったようで、お腹にまわった両手にぎゅっと力が入った。

「変なことなんてしてないよね?」

 俺に同意を求めるユアンには悪いが、思いきり変なことしただろ!う……まだ感触が残ってる。せっかく過保護なレオンハルトの許しを得て大袈裟な包帯も取ってもらえたばかりだったのに。
 俺はぶすくれたまま口を開いた。

「したと思うけど……」
「獣人が番に反応しちゃうのは仕方ないことだよ?それに俺はリトちゃんにしか反応しないし。リトちゃんも昨日は発情した匂いぷんぷんさせてたじゃん」

 ぎゃっ!何を言い出すんだ、まったく……え、発情した匂いなんてさせてた?もしかしてお風呂でレオンハルトとあんなことした後だったからだろうか。なんとなく今はロイスやオーランドに知られたくない。
 突然の言葉にあたふたした俺は、とにかく話題を変えることにした。

「そ、その番ってなんだ?獣人ってのはユアンみたいな人のことを言うんだろ?」
「そうだよぉ。俺は獣型にも人型にもなれるけど、人型になれない個体もいるよ」

 話してる間も尻尾を揺らすものだから可愛いと思ってしまって困る。俺は犬好きなんだ。もふもふには弱いんだよ。
 駄目だぞ、彼は危ないお兄さんなんだぞ、と自分に言い聞かせて平静を保った。

「ユアンみたいな獣人は多いのか?」
「ううん、人型になれるのは俺を入れてもこの世界には五人くらいしかいないはずだよ。そのうちの一人も二日前に死んだぁ」
「え?」
「あ、番ってなにって話だった?番は獣人にとっての魂が求める唯一無二の存在だよ」

 ぽんぽんと飛ぶユアンの話に戸惑っていると、ロイスが困ったように笑って補足の説明をしてくれる。

「獣人にとって番とは、本能で求める相手とされている。番を認識してしまった獣人は、もう元には戻れないそうだ。細胞が変わってしまい、どちらかが死に絶えるまで側にいないと精神が狂ってしまう……だったか?」
「うん、側にいられないとそのうち理性をなくして発狂しながら死んじゃうんだぁ」

 なん……だと?じゃあ、ユアンが俺と離れたら言葉通り死んじゃうってことか?

「そんなっ!」
「私もユアンからその話を聞いて驚いた。実はユアンをリトの護衛にしたのはそれも理由のひとつだ」
「え?護衛?」
「俺、ずっとリトちゃんのこと守ってたんだよぉ?よしよしして」

 ずいっと頭を差し出されて、今度こそ根負けしてそっと頭を撫でる。耳がぴくぴく動いて可愛い。これはずるい。

「ずっと護衛してくれてたなんて、全然気づかなかった」
「うん、だって俺優秀だもん」

 本当に知らなかったな。そっか、ずっと俺のこと守ってくれてたのか。もしかしてあの傷は、その事と関係があるのか?
 ユアンが気持ち良さそうに目を細めて不敵に笑った。

「ちなみに普通の獣人だったらリトちゃんを見つけた瞬間に巣に連れ去って閉じこめちゃうんだよぉ」

 その瞬間レオンハルトからすごい冷気が流れてきたけど、ユアンはそんなのおかまいなしにカラカラ笑ってる。

「もう、レオンハルト怖いよぉ。殺気だだ漏れっ!だから俺は大丈夫だって言ってるでしょ。でも良かったよね、普通なら番を他の男と共有するなんてありえない話だもん」
「きょ、共有って……ん?でも何でユアンは大丈夫なんだ?」
「俺はね、子どもの頃に色々いじられちゃって、本能が殆ど機能してないんだ。だからリトちゃんから番の匂いを感じ取れたのも奇跡なんだよ?」

 本人は晴々しいとばかりに語るが、不穏なワードが多すぎてどこからつっこめばいいかわからない。

「それってどういう……」
「あ、そんなことよりオーランド。リトちゃんにちゃんと説明してあげないと、また泣いちゃうよぉ」

 なっ!泣いて……いや、泣いたな。ぐずってる子どもみたいに泣いてしまった。

「ああ、その事なんだが」

 オーランドは一度頷いて、ユアンに問いかけた。

「今の状況をリトに説明する前に、先にユアンに聞いておきたいことがあるんだけどいい?先程リトが不安定になるのは番だからだと言っていたけど、ユアンだけじゃなく番の相手にも影響するものなのか?」

 うーん?と首を傾げるユアンが、狼の時の姿と重なって、認めたくないけど可愛いぞ。見た目ワイルドなのに可愛いとか反則だ。あのふさふさの耳と尻尾が悪いんだ。

「獣人同士なら番だと認識しあった瞬間にセックスしちゃうからなぁ。お互いのフェロモンが影響しあって、そりゃあもう大変なことになっちゃうらしい。人間も番のフェロモンは作用するから発情しちゃうらしいんだけど……でも俺はそこが壊れてるから理性を失ってリトちゃんを襲うこともないし、リトちゃんもまだ俺に発情してないみたい。ちょっとフェロモンによる作用がわかりにくいんだよねぇ」

 だから、とユアンは俺を凝視した。

「たぶんリトちゃんの場合は、俺からの番フェロモンが精神に作用しちゃってるのかもって思ったんだ」

 それで俺が精神的に不安定になってるってことか?番フェロモンとやらはそんなに影響するのか。確かに今日は自分でも感情がコントロールできない感じはあったけど……普段なら冷静に判断できることや抑え込める感情が剥き出しで表に出ちゃうような。

「番による影響は不確定要素が多いということか」

 オーランドが思案顔で俺の頬を撫でる。すごく心配そうだ。

「俺が死んでも、リトちゃんは人間だから狂ったりしないよ?」

 だから大丈夫だよとでも言いたげなユアンを見ていると、なぜかすごく不安になる。ユアンは、自分の命になんて興味がないように見える。軽んじているのが言葉の端々でわかるんだ。

「俺はユアンが死んだら泣くから」

 真っ直ぐユアンを見つめて伝える。あの森で倒れている姿を見たときから感じていた、心の奥底から湧き上がってくる感情。知らない狼にすら感じるんだ。もう出会ってしまったら、知らなかった頃には戻れない。
 俺はユアンが死んだら絶対ボロボロに泣く。それだけは知っててほしい。

 目を見開いたユアンが、心底困った顔で瞳を揺らしながら笑う。

「そっかぁ。リトちゃんが泣くのはイヤだなぁ」

 ぷいっと顔を逸らすけど、尻尾がぶんぶん揺れててわかりやすい。ああ、困った。知らなかった頃に戻れないのは俺の方だよな。

 俺を膝に抱っこしたままのオーランドが、そんなユアンを面白そうに眺めていた。

「こんなユアンもはじめて見るね。ね、ロイス」
「そうだな」

 どこか微笑ましげに俺たちを見ていたロイスが、優しい顔で頷いた。

「リト……」

 レオンハルトはすごい不満そうに抱きついてくる。それを見てユアンが豪快に笑った。

「レオンハルト赤ちゃんみたぁい」

 ユアンの言葉にレオンハルトが絶対零度の視線を投げるけど、俺に抱きついたままなんだ。言われても仕方ないと思うぞ。レオンハルトの頭をよしよしと撫でてやる。
 そんなことをしていると、ふいにオーランドとロイスの空気が真剣なものに変わった。セバスチャンがそっと皆に温かいハーブティーを淹れてくれる。

「リト、これから話すことはまだ騎士団内でしか周知していないことだ」
「うん」
「二日前に、レオンハルトの父親が暗殺者を送り込んできた。狙いはリトだと思う」

 …………はい?
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