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落ち人の願い?
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おかしい……。何がおかしいって、昨日からロイスやレオンハルトの様子がおかしい。
ロイスは昨夜王城から戻ってきたかと思うと、ずっと執務室に籠もりきりだ。レオンハルトなんてあんなに嫌がってたくせに、俺の朝支度の手伝いを済ませるとさっさと抱っこしてユアンの部屋に放り込んでどこかへ消えてしまったし。
「なあ、ユアン。ロイスもレオンハルトもなんか変だよな?」
本当に言葉が通じるとは思ってないけど、ユアンに話しかけるとちょっと落ちつく。ユアンはワフッて小さく返事をしてくれるしな。たぶん俺の声に反応してるだけだろうけど。
「婚約式の準備そんなに大変なのかな?それにしては……」
なんか殺伐としてんだよな。レオンハルトに聞いてもはぐらかされたけど、屋敷全体がピリピリしてるのがわかる。
「俺ってそんなに信用されてないのかなぁ」
まあ、俺が出来ることなんて本当に少ないし、いつも三人に頼りっぱなしだしな。
だけどこんな時、すごく孤独を感じるんだ。
だって日本では弱小企業ではあったけどそれなりに重要な仕事も任されていたし、自分の稼いだお金で一人暮らしして、ちゃんと自分の面倒は自分で見れていた。ちゃんと、一人の大人だったんだ。
それなのにこの世界に来たらわからないことだらけで、住む場所だって食べるものだって面倒見てもらってる状況だ。それで、俺を信用しろって方が無理な話なのかもしれないけど。
とりとめもなく溢れ出す愚痴をユアンにこぼしてしまう。ユアンの首元に顔をうずめて呼吸をしてると、日向の匂いに混じってなんだか甘い香りがした。
ユアンがふんふんと耳に鼻を押しつけて慰めてくれる。
なんだか……考えてたら気分が沈んできたぞ。
悲しくなって唇を噛んで俯いていると、そんな俺の様子を見ていたユアンがおもむろに立ち上がった。
「ユアン?」
器用に前足でドアのノブを押して開けている。賢い子だなぁって感心してる場合じゃない!ユアンが部屋の外に出ていってしまう。
「ユアン?どこ行くんだ?勝手に歩き回ってもいいのか?」
慣れた様子で歩きはじめるユアンを慌てて追いかけながら、すれ違う団員達が驚いた顔で振り向くのに挨拶しながら通り過ぎる。でも団員達が驚いているのは俺が騎士団寮の廊下を歩いているからで、決して大きな狼が悠々と歩き去っていくからではない。
ユアンのこの行動は騎士団寮では日常なのか?
「本当にどこ行くんだよ。レオンハルトに部屋にいろって言われたろ」
怒られるぞって声をかけながら、小走りで隣を歩く。何気に足の長さでユアンに負けているんだが。
ユアンについて行くと、ロイスの執務室の前で止まった。鼻をドアに押しつけて、開けろという仕草をする。
「ロイスに会いたいのか?」
何の用事もないのに、来てもいいのかな。ロイスはいつも忙しそうだから、セバスチャンにロイス用夜食を持たされる時以外は極力執務室には近づかないようにしていた。仕事の邪魔しちゃ悪いしな。
悩んだけど、ユアンに鼻で手を押しやられて、しぶしぶノックする。
中からセバスチャンの声が聞こえてきた。
「はい」
「あ、あの。俺です」
「リト様?」
すぐにドアが開いて、セバスチャンが目を見開いて俺とユアンを見ている。
「どうされましたか?」
「あの……」
「リト、どうした?」
すぐにロイスも来て執務室の中に招き入れてくれる。
だけど俺はドアを一歩入ったところで動けなくなってしまった。
「……なんで」
そこにはレオンハルトだけじゃなくオーランドもいたんだ。
王城と公爵邸は馬車だと数分の距離だし、オーランドはときどきこうして公爵邸に来ていた。でもその時は一番に俺に会いに来てくれていたのに。
「なんでオーランドがいるの?」
そりゃここは俺の家じゃないし、オーランドがいつ来ようとオーランドの勝手だ。わかってるのに、不満がどんどんあふれてくる。
「みんなで何してるんだ?何で俺に隠すんだ?」
「リト?」
ロイスが困惑した顔で俺の背中に腕をまわそうとするので、それを避けた。ロイスが傷ついた顔をするけど、今は触られたくない。だって俺だって傷ついてる。
「何となく、俺に知られたくないことがあるんだろうなってのはわかるんだ。俺に知られたくないことは、俺の為でもあるんだろうなって……今まで疑問に思うことがあっても気づかないふりしてきた。でもこれからは違うだろ。俺たち家族になるのに、こんな風に秘密にするのは変だろ」
変だよって何度も呟いて、ぽろぽろと涙が出てきた。
「ちょっとは俺を信用してほしい……ふっ、ううっ」
「「「リト⁉︎」」」
三人がぎょっとしたように俺に駆け寄ろうとするけど、それを制して言葉を投げる。
「お、俺は非力だし、この世界の常識もまだまだ知らないことばかりだ。それでも出来ることがあるなら手伝いたいし、なにかあるなら話してほしい。そう思うのはわがままなのかな」
涙が止まらない。何だか体も熱いし、自分の感情がコントロールできない。
「ああ、リトちゃん泣かせたぁ。みんながリトちゃん仲間はずれにするからこうなるんだよぉ」
その時、背後から知らない男の声が響いた。どこか間延びしたその声を知ってる気もするけど、どこで聞いたんだっけ?
ゆっくり後ろを振り返って…………は?
目の前には、真っ赤な短髪に透き通るような緑眼のイケメンが立っていた。それも裸で。
「な……に……?え?」
「あれ、リトちゃーん?」
固まって思考停止状態になった俺の顔の前で、両手を振る裸のイケメン。はい?
高校の美術室に白い彫刻像があったけど、そんな感じ。顔のパーツは完璧な位置にあって、ムキムキの体はしなやかで美しい。一級の美術品を眺めているような気分になるワイルドイケメンなんだけど、様子がおかしい。だって通常人間の耳がある場所には耳がなくて、赤い髪と同じ色の犬耳が頭の上についてるんだ。それに赤毛の立派な尻尾がわっさわっさと横に揺れているのも見える。
嫌な予感がする……この燃えるような赤毛に森の色をした瞳。
「リトちゃんびっくりしちゃった?俺ユアンだよ?ほら、なでなでして?」
頭を差し出してくるけど、いやいやいやいや!初対面の大男の頭なでなでできるわけないだろ。
「もうっ!なでなでしてよぉ」
野太い声で言われても体が動かない。そんな俺にもおかまいなしに、ムキムキイケメンが感嘆の声を上げる。
「ああっ!リトちゃんっ!」
一瞬で間をつめられて抱きしめられた。え、今瞬間移動した?動きがまったく目で追えなかった。びっくりして動けない俺のつむじに鼻を埋めたかと思うと……すうぅぅぅぅ。
「ぎゃっ!」
今、思いきり頭の匂いを嗅がれたぞ!
「ああ、やっぱりいい匂いするぅ」
「リトっ!」
はっと我に返ったらしいロイスが慌てて引き剥がしてくれたけど、やばい、オーランドに続いてここにも危ないお兄さんがいる。
ロイスを壁にして睨みつけても、にこにことこちらを見ているだけだ。
「ユアン、約束が違います」
レオンハルトが鋭い声で言うけど、当の本人は恍惚とした表情をしていてレオンハルトの非難する声も届いていないみたいだ。
「約束なんてしてないよぉ?レオンハルトが勝手に人型で会うなって言ったんだもん」
「それはユアンが人型でリトと会って抱きしめたいと言うからっ」
「抱きしめたいし、舐めたいし、もっと色々したいよぉ」
ぎゃああ!オーランドより危ない人だったかもしれない!
アーモンドアイの切れ長な瞳と目が合う。エメラルドみたいに美しい緑だ。この瞳の色……知ってる。目の前にいる危ないお兄さんは、確かにユアンだってわかる。
はぁ、と深いため息をついたのはオーランドだ。
「もう、ユアンには敵わないね」
リト、と見据えられて背筋が伸びる。いつもの甘々オーランドじゃない。
「まずは謝らせて。リトを不安にさせてごめんね」
俺は黙って頷く。ちょっと思考が追いついていないけど、オーランドの声で冷静になれた。
「リトには言いたくなかったのも事実だけど、それはリトを信用していないからじゃないんだよ」
「うん、わかった」
「リト、私も謝りたい。すまない」
ロイスが恐る恐る俺の手を握る。今度はそれを拒絶しなかった。
「俺もごめん。さっき、冷たくしてしまった」
つきんと心が痛む。ロイスを傷つけたかったわけじゃないのに。
「かまわない。それに私もリトを守っているつもりで傷つけていたんだな。本当にすまなかった」
ううん、と首を振って抱きしめ合う。その間もユアンの尻尾がさわさわと俺の足に絡みついてくる。う、尻尾だけなら可愛いのに……今はちょっと待ってほしい。心を整理する時間がほしい。
リト、とレオンハルトもこちらに歩いてくる。
「今朝もリトは不安そうにしていたのに、私も冷静さを欠いていて……リトが一番大切なのに、本当に申し訳ございません」
レオンハルトも泣きそうな顔で俺の頬の涙を手で拭ってくれた。ついでにぐいぐいとユアンを押し退けてる。
「お、俺もごめんね。こんなに泣いて、みっともない」
三人が首を振って否定してくれるけど、ユアンだけは訳知り顔で頷いた。
「それは仕方ないよぉ。だってリトちゃんは俺の番だもん」
ユアンが気になることを言う。ん?番とはなんぞや?
「リトちゃんは俺の番だから、俺と一緒にいると本能が乱れ狂っちゃうんだよぉ。心配ないよ、ほら、俺も同じだから」
ほら、と手を取ってユアンの立派なアレを直に触らされる。見ないようにしてたのに、そこは何故かすでに臨戦態勢だった。
「ぎ、ぎゃあぁぁぁぁ」
その日、俺の叫び声と三人の怒号が屋敷中に響き渡ったとかいないとか。
神様、今こそ落ち人の願いを叶えていただけないでしょうか。
どうか、どうか俺のゼロになったハートのライフを返してください。
ロイスは昨夜王城から戻ってきたかと思うと、ずっと執務室に籠もりきりだ。レオンハルトなんてあんなに嫌がってたくせに、俺の朝支度の手伝いを済ませるとさっさと抱っこしてユアンの部屋に放り込んでどこかへ消えてしまったし。
「なあ、ユアン。ロイスもレオンハルトもなんか変だよな?」
本当に言葉が通じるとは思ってないけど、ユアンに話しかけるとちょっと落ちつく。ユアンはワフッて小さく返事をしてくれるしな。たぶん俺の声に反応してるだけだろうけど。
「婚約式の準備そんなに大変なのかな?それにしては……」
なんか殺伐としてんだよな。レオンハルトに聞いてもはぐらかされたけど、屋敷全体がピリピリしてるのがわかる。
「俺ってそんなに信用されてないのかなぁ」
まあ、俺が出来ることなんて本当に少ないし、いつも三人に頼りっぱなしだしな。
だけどこんな時、すごく孤独を感じるんだ。
だって日本では弱小企業ではあったけどそれなりに重要な仕事も任されていたし、自分の稼いだお金で一人暮らしして、ちゃんと自分の面倒は自分で見れていた。ちゃんと、一人の大人だったんだ。
それなのにこの世界に来たらわからないことだらけで、住む場所だって食べるものだって面倒見てもらってる状況だ。それで、俺を信用しろって方が無理な話なのかもしれないけど。
とりとめもなく溢れ出す愚痴をユアンにこぼしてしまう。ユアンの首元に顔をうずめて呼吸をしてると、日向の匂いに混じってなんだか甘い香りがした。
ユアンがふんふんと耳に鼻を押しつけて慰めてくれる。
なんだか……考えてたら気分が沈んできたぞ。
悲しくなって唇を噛んで俯いていると、そんな俺の様子を見ていたユアンがおもむろに立ち上がった。
「ユアン?」
器用に前足でドアのノブを押して開けている。賢い子だなぁって感心してる場合じゃない!ユアンが部屋の外に出ていってしまう。
「ユアン?どこ行くんだ?勝手に歩き回ってもいいのか?」
慣れた様子で歩きはじめるユアンを慌てて追いかけながら、すれ違う団員達が驚いた顔で振り向くのに挨拶しながら通り過ぎる。でも団員達が驚いているのは俺が騎士団寮の廊下を歩いているからで、決して大きな狼が悠々と歩き去っていくからではない。
ユアンのこの行動は騎士団寮では日常なのか?
「本当にどこ行くんだよ。レオンハルトに部屋にいろって言われたろ」
怒られるぞって声をかけながら、小走りで隣を歩く。何気に足の長さでユアンに負けているんだが。
ユアンについて行くと、ロイスの執務室の前で止まった。鼻をドアに押しつけて、開けろという仕草をする。
「ロイスに会いたいのか?」
何の用事もないのに、来てもいいのかな。ロイスはいつも忙しそうだから、セバスチャンにロイス用夜食を持たされる時以外は極力執務室には近づかないようにしていた。仕事の邪魔しちゃ悪いしな。
悩んだけど、ユアンに鼻で手を押しやられて、しぶしぶノックする。
中からセバスチャンの声が聞こえてきた。
「はい」
「あ、あの。俺です」
「リト様?」
すぐにドアが開いて、セバスチャンが目を見開いて俺とユアンを見ている。
「どうされましたか?」
「あの……」
「リト、どうした?」
すぐにロイスも来て執務室の中に招き入れてくれる。
だけど俺はドアを一歩入ったところで動けなくなってしまった。
「……なんで」
そこにはレオンハルトだけじゃなくオーランドもいたんだ。
王城と公爵邸は馬車だと数分の距離だし、オーランドはときどきこうして公爵邸に来ていた。でもその時は一番に俺に会いに来てくれていたのに。
「なんでオーランドがいるの?」
そりゃここは俺の家じゃないし、オーランドがいつ来ようとオーランドの勝手だ。わかってるのに、不満がどんどんあふれてくる。
「みんなで何してるんだ?何で俺に隠すんだ?」
「リト?」
ロイスが困惑した顔で俺の背中に腕をまわそうとするので、それを避けた。ロイスが傷ついた顔をするけど、今は触られたくない。だって俺だって傷ついてる。
「何となく、俺に知られたくないことがあるんだろうなってのはわかるんだ。俺に知られたくないことは、俺の為でもあるんだろうなって……今まで疑問に思うことがあっても気づかないふりしてきた。でもこれからは違うだろ。俺たち家族になるのに、こんな風に秘密にするのは変だろ」
変だよって何度も呟いて、ぽろぽろと涙が出てきた。
「ちょっとは俺を信用してほしい……ふっ、ううっ」
「「「リト⁉︎」」」
三人がぎょっとしたように俺に駆け寄ろうとするけど、それを制して言葉を投げる。
「お、俺は非力だし、この世界の常識もまだまだ知らないことばかりだ。それでも出来ることがあるなら手伝いたいし、なにかあるなら話してほしい。そう思うのはわがままなのかな」
涙が止まらない。何だか体も熱いし、自分の感情がコントロールできない。
「ああ、リトちゃん泣かせたぁ。みんながリトちゃん仲間はずれにするからこうなるんだよぉ」
その時、背後から知らない男の声が響いた。どこか間延びしたその声を知ってる気もするけど、どこで聞いたんだっけ?
ゆっくり後ろを振り返って…………は?
目の前には、真っ赤な短髪に透き通るような緑眼のイケメンが立っていた。それも裸で。
「な……に……?え?」
「あれ、リトちゃーん?」
固まって思考停止状態になった俺の顔の前で、両手を振る裸のイケメン。はい?
高校の美術室に白い彫刻像があったけど、そんな感じ。顔のパーツは完璧な位置にあって、ムキムキの体はしなやかで美しい。一級の美術品を眺めているような気分になるワイルドイケメンなんだけど、様子がおかしい。だって通常人間の耳がある場所には耳がなくて、赤い髪と同じ色の犬耳が頭の上についてるんだ。それに赤毛の立派な尻尾がわっさわっさと横に揺れているのも見える。
嫌な予感がする……この燃えるような赤毛に森の色をした瞳。
「リトちゃんびっくりしちゃった?俺ユアンだよ?ほら、なでなでして?」
頭を差し出してくるけど、いやいやいやいや!初対面の大男の頭なでなでできるわけないだろ。
「もうっ!なでなでしてよぉ」
野太い声で言われても体が動かない。そんな俺にもおかまいなしに、ムキムキイケメンが感嘆の声を上げる。
「ああっ!リトちゃんっ!」
一瞬で間をつめられて抱きしめられた。え、今瞬間移動した?動きがまったく目で追えなかった。びっくりして動けない俺のつむじに鼻を埋めたかと思うと……すうぅぅぅぅ。
「ぎゃっ!」
今、思いきり頭の匂いを嗅がれたぞ!
「ああ、やっぱりいい匂いするぅ」
「リトっ!」
はっと我に返ったらしいロイスが慌てて引き剥がしてくれたけど、やばい、オーランドに続いてここにも危ないお兄さんがいる。
ロイスを壁にして睨みつけても、にこにことこちらを見ているだけだ。
「ユアン、約束が違います」
レオンハルトが鋭い声で言うけど、当の本人は恍惚とした表情をしていてレオンハルトの非難する声も届いていないみたいだ。
「約束なんてしてないよぉ?レオンハルトが勝手に人型で会うなって言ったんだもん」
「それはユアンが人型でリトと会って抱きしめたいと言うからっ」
「抱きしめたいし、舐めたいし、もっと色々したいよぉ」
ぎゃああ!オーランドより危ない人だったかもしれない!
アーモンドアイの切れ長な瞳と目が合う。エメラルドみたいに美しい緑だ。この瞳の色……知ってる。目の前にいる危ないお兄さんは、確かにユアンだってわかる。
はぁ、と深いため息をついたのはオーランドだ。
「もう、ユアンには敵わないね」
リト、と見据えられて背筋が伸びる。いつもの甘々オーランドじゃない。
「まずは謝らせて。リトを不安にさせてごめんね」
俺は黙って頷く。ちょっと思考が追いついていないけど、オーランドの声で冷静になれた。
「リトには言いたくなかったのも事実だけど、それはリトを信用していないからじゃないんだよ」
「うん、わかった」
「リト、私も謝りたい。すまない」
ロイスが恐る恐る俺の手を握る。今度はそれを拒絶しなかった。
「俺もごめん。さっき、冷たくしてしまった」
つきんと心が痛む。ロイスを傷つけたかったわけじゃないのに。
「かまわない。それに私もリトを守っているつもりで傷つけていたんだな。本当にすまなかった」
ううん、と首を振って抱きしめ合う。その間もユアンの尻尾がさわさわと俺の足に絡みついてくる。う、尻尾だけなら可愛いのに……今はちょっと待ってほしい。心を整理する時間がほしい。
リト、とレオンハルトもこちらに歩いてくる。
「今朝もリトは不安そうにしていたのに、私も冷静さを欠いていて……リトが一番大切なのに、本当に申し訳ございません」
レオンハルトも泣きそうな顔で俺の頬の涙を手で拭ってくれた。ついでにぐいぐいとユアンを押し退けてる。
「お、俺もごめんね。こんなに泣いて、みっともない」
三人が首を振って否定してくれるけど、ユアンだけは訳知り顔で頷いた。
「それは仕方ないよぉ。だってリトちゃんは俺の番だもん」
ユアンが気になることを言う。ん?番とはなんぞや?
「リトちゃんは俺の番だから、俺と一緒にいると本能が乱れ狂っちゃうんだよぉ。心配ないよ、ほら、俺も同じだから」
ほら、と手を取ってユアンの立派なアレを直に触らされる。見ないようにしてたのに、そこは何故かすでに臨戦態勢だった。
「ぎ、ぎゃあぁぁぁぁ」
その日、俺の叫び声と三人の怒号が屋敷中に響き渡ったとかいないとか。
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