美醜逆転した異世界で、絆されてハーレム作ることになりました

SHIRO

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オーランド side

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「……は?」

 ロイスからの手紙を信じられない気持ちで読み進める。そこには公爵家の西の森付近に落ち人が現れたこと、公爵家で保護したいから協力してほしいといった内容が彼らしい几帳面な字でしたためられていた。
 普段から『なにか困ったことがあったら相談してね』と言っていたが一向に甘えてきてくれない友人が、珍しく手紙をよこしたかと思えばこれは重大事件すぎる。
 また落ち人が現れた?
 自然と十年前の落ち人のことを思い出す。同時に、兄上に邪魔された苦い記憶までも蘇ってきてギリと奥歯を噛み締めた。
 珍しく父上に呼び出されて隣国との交渉を任されたとき、確かに微かな違和感を覚えていたのに。ろくに裏を調べもせず隣国へ向かったのは、その頃はもう色々なことがどうでもよく感じていたからかもしれない。
 しかもご丁寧に向こうで足留めをくらい、やっとこの国に戻ってこれた時には一年半が過ぎていた。
 帰ってきてから知ったのは、落ち人が現れ、そして元の世界へと戻ってしまったこと。父上と兄上が落ち人を粗雑に扱ったこと。
 彼は私が幼少期を過ごした離宮に押し込められ、ろくに世話もされず放置されていたそうだ。最低限の衣食住は使用人が世話をしていたようだが、あんな牢のような場所に何の罪もない人間を閉じ込めるなど、してはならないことなのに。

「……ああ、ありがとう。もう下がっていいよ」
「は…はひっ!」

 私の空気が変わったことに気づいた部下が、慌てて逃げるように退室する。そんなに怖がらなくても、と苦笑いがもれた。
 自分の力で生きぬくしかないと一人で戦い続けて、今ではこの国の軍事を一手に担うまでになったが、どうも部下には得体の知れない者という認識で恐れられている気がする。侮られるよりはマシだが、ちょっと悲しい。
 まあ、その判断はあながち間違ってもいないのだけどね。私は目的の為なら手段を選ばない。影もその内のひとつだ。

「ユアンいるんだろう?」
「はぁい」

 声をかけると間の抜けた返事が返ってくる。姿は見えないが、ロイスの手紙を持ってきたのは彼だろうと予想していた。
 ユアンを見つけてきたのはロイスだ。ロイスはこういった手合いを自分の懐に入れるのが実にうまい。

 初めてロイスと会ったのは王立学園でだが、私と同じように醜い容姿で公爵家でもその能力を利用され搾取されていると知っていた。
 こちらに引き入れるには相手を知る必要があったため学園で近づいてみたら、これがまあ純粋無垢すぎて笑いが止まらなかったほどだ。私と同じように虐げられ育ってきたはずなのに、よくもこれほど真っ直ぐ育ったものだ、と。
 そんな彼を知れば知るほど好きになり、好かれたいと思うようになったということは、私も彼に懐柔されたうちの一人なのか。自嘲の笑みを浮かべ、声の主に告げる。

「ロイスに了承したと伝えてくれ。それから君にはいくつかの貴族家に手紙を届けてほしい」
「わかったぁ」
「あ、手紙はこっそりね」
「…はぁい」

 こっそり、誰にも知られないように。もし今回私側につかない場合は、掴んだ弱みをちらつかせろという意味だ。
 温和な仮面の下に隠した顔を知っている直属の部下達には恐れられてしまっているが…汚職まみれの騎士団を少しばかり改革し、影を使って貴族共の弱みやその証拠を集めたのには理由がある。
 私は自分が大切だと思う者達を守る力が欲しいのだ。その為なら、汚い手を使ってもかまわないと思っている。
 せっかく友人が頼ってくれたんだから、頑張っちゃおう。その為ならちょっと貴族共を脅すくらいなんてことないよね。

 裏で私の意見に賛成する派閥を作り上げ、父上に謁見を申し込む。

「父上、お時間をいただきありがとうございます」
「うむ…して何の用だ?」

 こちらを見ようともしない…この人はずっと変わらないな。何の才覚も無い凡庸な国王だが、その方が操りやすくていい。それは兄上にも言えることで、あの単細胞なら考えていることがすぐわかるから動きやすいのだ。

「今回現れた落ち人の件です」

 さっさと本題を言って帰ろうと口にすると、父上の顔が少し引き攣った。
 十年前の落ち人を元の世界に帰してしまったことで、父上は一部の貴族に猛批判をくらった。それもそうだろう、落ち人信仰の強い家は、どこも自分達こそ落ち人を保護したかったと思っていたはずだ。
 今回の落ち人も王家で保護してしまうとまた軋轢を生む。それは父上も望まないだろうと踏んでここに来た。

「落ち人はしばらく筆頭公爵であるオーウェン公爵家が保護するのが得策かと。今回すでに噂が流れてしまっていて、さっそく保護しようと動きだしている貴族もいます」

 まあ…噂を流したのも貴族共を動かしたのも私だが。

「王家が落ち人を独占してしまうと、また前回のことを蒸し返されかねません。こちらでうまく対処しますので、今回の落ち人の件は私に一任していただけませんか?」
「そ、そうか…」

 父上はちらりと宰相を見ると、宰相が頷いたのを確認してこちらに視線を戻す。自分で判断することができない優柔不断な父上の、それもよく見る光景だ。

「わかった。そのようにしてくれ」

 臣下の礼を取り、さっさと退散する。
 まだ幼いころ、あの人の寵愛を欲していた自分を哀れにすら感じながら。

 ロイスに落ち人は公爵家が保護することになった旨の手紙を書く。それから父上への牽制と、貴族への手回しも済んだこと。
 友人に手紙を書くのは好きだ。ロイスに手紙を送る時には、いつも心の弟であるレオンハルトにも手紙を書くのだが返事が返ってきたことはない。
 ついつい関係のないことまで書いてしまって分厚くなった二通の手紙を部下に託して、部屋へと戻った。
 そこには部屋にこっそり持ち込んだ十年前の落ち人の絵姿がある。どんな人だったのか、王宮の者が誰もたずねなかったせいで名前すらも知らない彼の姿を見て思いを馳せた。

 あれほど憧れてやまなかった落ち人との邂逅が叶うかもしれない。
 容姿なんて関係ない。どんな人でもいい。もし私の醜い顔を見て拒絶されたら、その時は裏からこっそり助けよう。十年前にできなかったことをしよう。
 絶対に兄上に邪魔なんてさせないよ。今回の落ち人は私が守ってあげるんだ。

 そう思っていたのに、公爵家でリトを見た瞬間、全身を強い衝撃が襲った。
 艶やかな黒髪を揺らし、夜闇色の瞳には隠しきれない好奇心が覗いている。その表情は豊かできらきらと輝いていた。
 美しい容貌だが、彼の本当の美しさはそこじゃない。
 ロイスやレオンハルトへの態度や言葉遣いでわかる。心根が真っ直ぐで、人を嘲ったことなどないのだろうことが。
 彼は本当の意味で慈しむことができる人だ。無防備で、なんと危うい美しさだろう。
 その日リトと話したことはほとんど覚えていない。ずっとふわふわした気分で、気づいたら自分の執務室に戻っていた。私は変な人だと思われてはいなかっただろうか。

 それからの日々は本当に目まぐるしく、会えば会うほどリトが愛おしくてたまらなくなった。
 リトの一挙一動が可愛くて、温かな心に触れるともっともっとと求めてしまう。
 ロイスやレオンハルトも同じ気持ちなのだとわかる。ロイスからの手紙は日に日に分厚くなり、そこにはリトのことがびっしり書いてあった。
 リトと共に過ごせるロイス達が羨ましい。だけど王宮を離れればこちらの情報が入りにくくなってしまう。影をつければそれも問題ないかもしれないが、万が一にもリトに危険が及ぶ可能性のある情報が入った時、やはり私がここにいた方が守りやすいだろう。
 
 壁にはもう彼の絵姿はない。その絵姿を届けた日のことを思い出す。
 リトは絵姿を見た瞬間すごく嬉しそうに笑っていたが、その表情には溢れんばかりの愛情がうかがえた。
 彼はリトといい友人だったのだな。彼の名前がゴロウ・ヤマダだと知ることができて嬉しかった。
 ヤマダの絵姿は友人であるリトが持っていた方がいい。そう判断して手離したが、何もない壁を見つめると少し寂しくもあるな。今度画家にリトの絵姿を描かせよう。王宮に保管されるようなかしこまったものではなく、私やロイス達と話す時の、あの柔らかな表情のリトの絵姿が欲しい。小さく持ち運べる物も欲しいな…それからそれからと妄想ばかりしていると、リトに会いたくてたまらなくなる。
 こんな気持ちになったのは初めてだと、ロイスも手紙に書いていたな。その言葉を読んだとき、嬉しくて涙が溢れたことは内緒だ。
 良い方向に皆が向かってる。それもこれも全部リトのおかげだ。私はそれを守りたい。

『もう俺達、友達だな!』

 ふいにリトの言葉が蘇る。
 あんなに憧れてやまなかった言葉なのに、リトにそう言われたとき一瞬頭が真っ白になった。ずっと憧れていた友愛…本来なら心から喜びが溢れてくるはずなのに。
 いつの間にか、いや出会った瞬間から、私はリトにもっと別の感情を求めていた。何と贅沢で、何と浅ましいのだろうな。手に入らないものを求めても、孤独になるだけなのに。



 ーー髪や瞳と同じ夜闇の色で作らせた衣装が、リトの魅力を引き出し、より一層輝かせている。今夜のリトは舞踏会に来るどの男よりも美しいだろう。
 自分が選んだ服に身を包み、私の瞳の色のジュエリーで飾り立てたリトを、恋しいと思ってしまう。たまらなく、君が恋しかった。
 ずっと憧れていたお揃いの衣装だ。浮かれるなと言う方が無理だろう。それを伝えると、リトは腹を抱えて笑った。まったく、と呆れながらも、自分が大馬鹿者になったような気がして顔を逸らす。
 なんだ、なぜ私はこんな子どものような反応をしているんだ。こんなこと、子どもの頃ですらしたことがない。そんな私を見て、またリトが笑い声を立てた。その笑顔をやはりずっと見ていたくて、チラチラと横目で盗み見てしまうから困るんだ。
 もっとリトと一緒にいたい。ゆっくり進む馬車がこのままずっと王宮になど着かなければいいのにと思ったが、またリトに笑われそうだから黙っていた。
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