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レオンハルト side
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剣の重なり合う音と共に体ごと弾かれる。体勢を低くして、息を吐き出すと同時に一気に切り込む。ガツンと鈍い音がして剣が弾かれた。
「レオンハルト、集中できていない。隙だらけだぞ」
団長はいつも容赦がないなと思う。この人の感情が乱れる所なんて、リトの前でしか見たことがない。
『オーランド、その笑顔の方がいいな!』
不意に先程の殿下とリトの姿を思い出し、自分でも抑えきれない感情が体内に渦巻いていくのを感じた。
王族は簡単に跪いたりしない。殿下はリトに対する強い執着をうまく隠していたけど、私にはわかる。殿下がリトに微笑みかけるその瞳の奥に、自分と同じような仄暗い炎が燻っているのが見えた。この先どうしてくれようか、と今にも飛びかからんばかりの獣の顔だ。
また一人、リトに夢中な男が増えた。
あんな風に、と苦々しく思う。あんな風に普通の友人に接するように笑いかけられたら、優しい言葉を投げかけられたら、誰でも好きになってしまう。醜い外見も身分も関係ない、まるで自分が普通の男になったかのように錯覚する。それがどれほど甘く心の奥底を痺れさせるか、リトにはわからないんだ。
もしもリトが自分ではない誰かを選んでしまったら……。
『リトの世話役になれば今までのように社交界を避けることはできないよ。レオンハルトが表舞台に出れば、伯爵がどう動くかは私にもわからない。覚悟だけはしておきなさい』
帰り際、殿下は私にだけ聞こえる声で囁いた。
「レオンハルトが荒ぶってるぞ」
「最近はなかったのに」
「な、リト様が来てからは落ち着いてたのにな」
「ここに来たばかりの頃のレオンハルトを思い出すな」
汗を拭う。まだ剣の届く距離だったのに団長が剣をおろしてしまった。
「レオンハルト、大丈夫か?」
団長が心配そうにこちらに駆け寄ってくる。この人はいつもそうだ。私がどれだけ距離を取っても、いつも簡単にその距離を飛び越えてくる。
「……大丈夫です」
そう答えて、ぐっと手を握りしめた。
思考が巡る。
リトが誰かを…自分ではない誰かを選んでしまったら?ずっと一緒だと言ってくれたその口で、私を拒絶する言葉を紡いだら?そうしたら私は……。
「レオンハルト!」
団長の大声ではっと意識がそちらに向く。
「今日はもう戻っていい。リトに心配をかけるな。意味はわかるな?」
「……はい」
団長、そんなに心配しなくても大丈夫ですよ。私はまだ大丈夫です。アレもちゃんとコントロールできてます。
だってこんな力、リトに知られてしまったら嫌われてしまうから。
リトの部屋へ向かう足が止まる。廊下の窓から見下ろせる庭園の四阿で、リトの美しい黒髪が風に揺れているのが見えたからだ。
「…外で寝るのはやめてくださいとあれ程言ったのに」
慌てて足早にそちらに向かうと、あいつの気配がする。
団長がユアンをリトの護衛につけているのは知っていだが、それでもリトの一番近くには私がいたい。
「ん……」
リトが身じろいで、少しの苛立ちが瞬時に分散する。
「リト…起きてください。リト」
顔を近づけると、ふいにリトが目を開いた。透き通るような、私の大好きな夜の闇色。
「あれ、レオンハルト?…さっきさ、ここに誰かいなかったか?」
ユアンの気配が動揺したように動く。姿を見せたのか?影は姿を表さず護衛するのが鉄則のはずなのに…ユアンにしては珍しい失態だ。そちらに意識を向けながら、でも私は何事もなかったかのように微笑んだ。
「いいえ、ここには誰もいませんでしたよ」
「そっか……」
ユアンの事など、リトは知らなくていい。私だけを見ていてほしい。願いが通じたのか、リトがじっとこちらを見つめる。
「……レオンハルト、顔色悪いな。何かあったのか?」
「いえ…何もありませんよ」
「いいから、ここ座れ」
腕を引かれリトの隣にぽすんと座る。子供を甘やかすように、頭を自分の肩の上に引き寄せるリトに素直に従った。こんな時、本当にどうしていいかわからなくなる。こんな温かさを、私は知らない。
リトは天然の人たらしだと思う。普段と変わらない無邪気さで、心の奥底にしまっておいたはずの箱を簡単に開けてしまう。
寒い冬の夜、母ともよくこうして身を寄せ合った。
どうして今、あの頃の事を思い出してしまうんだろう。
口から溢れる息が震える。手足が酷く冷たくて、きっとひどい顔をしているはずだと思う。リトに見られたら、また心配させてしまう。顔を隠すようにリトの小さな肩に顔を埋めた。
「レオンハルト?」
ぐっと歯を食いしばって、何でもないように装う。
「眠いのか?こら、また俺の肩を枕にしやがって」
お前でかいから重いんだぞ、と口を尖らすリト。肩をさすりながら迷惑そうに私を見やる。だけどその視線は温かい。リトの側はいつも温かくて優しくて、それは私の心をどうしようもなく掻き乱す。
ふと黙り込んだリトが何を思ったのか徐に私の頭を掴んで膝に乗せた。
「うたた寝する時は、肩じゃなくて膝にしてくれ。これ膝枕って言ってな、俺の世界では男の夢なんだ。レオンハルトには特別だぞ」
さらさらと髪を掻き混ぜられる。溢れそうになる感情を堪えることができない。
『ほら、あの王子様と落ち人様のように、いつかレオのことを愛してくれる人が現れるかもしれないだろう』
目を閉じると、また母の声がする。忘れようとしても追いかけて来るように、箱の蓋が閉じず記憶がこぼれ落ちてくる。
今日の私は変だ。殿下とリトの姿を見てから、心が乱れている。
「レオンハルトは本当に綺麗な髪だよなぁ」
この呪われた一族の証である髪を綺麗などど言ってくれるのも、きっとリトだけだ。本当の事を知っても、リトは変わらずこの髪を撫ぜてくれるだろうか。
「私のこの髪は、ユナ民族である証なのです」
「ユナ民族?」
「はい、私は…」
起き上がってリトと向き合う。頬を冷たい風が冷やしてしまい、リトの温もりが消えた事を口惜しく思った。
「見てもらった方が早いと思うので…」
そうして、そっと目を閉じる。
意識を集中すると、体内に常に渦巻いている力を感じる。それを全身に巡らせると、カッと熱鉄を押しつけられたような痛みが巡った。
ユアンがいつでも動ける体勢に入ったのが気配で伝わる。
大丈夫だよ。リトを傷つけたりしない。あの時のように暴走させたりしない。
全身の血液が沸騰するように熱くなり、黒い霧が己の身から溢れ出すのを感じた。
目の前のリトが息を呑むのがわかった。
この黒い霧は私の血液だ。ユナ民族は自分の血液を相手の体内で沸騰させる事によって敵を屠る。辺境の小さな集落で暮らすユナ民族は、そうして戦の絶えない時代も細々と生きながらえてきた。時には国に兵器として重用されていた時代もある。
母はそのユナ民族の末裔で、ユナの血を何かに利用できないかと欲した父が、自分のハーレムに半ば無理矢理入れたのだ。
「しかし私を生むと母の力は消失し、用済みとばかりに別邸の地下に閉じ込められました。ハーレムにいる他の妻達のご機嫌取りでもあったのでしょう。私が生かされたのは、単純にユナの血を受け継いでいるからに過ぎません」
そっと霧を体内に戻していく。この霧は、吸っただけでは殺傷力を持たない。霧を出した本人が攻撃する意思を持ってはじめて、人に毒となる作用を及ぼすのだ。ユナの人間は感情が高まると黒い霧が体から溢れる。何も知らない人間にとって、その姿はひどく禍々しく映ることだろう。
呪われた民族、穢れた血。それらはユナ民族の事を揶揄する言葉だ。
じっと私の話を聞いていたリトが、レオンハルト、と呼ぶ。
「レオンハルト、こっちを見てくれ」
「まだ…まだ、話していない事があります。私は子供の頃、この力で人を殺めたことがあります。きっかけは母を守る為でしたが、私はあの瞬間、確かに楽しんでいたのです。私は化け物です。ユナの血が侮蔑を込めて穢れた血と呼ばれるのは、それだけの理由があるのです」
リトの顔を見る事ができない。もしリトの瞳の奥に、少しでも私を恐れる感情が見えてしまったら…。
「うん、ちゃんと聞くから。だからこっちを見て」
レオンハルト、と優しい声がする。恐る恐る上げた顔の先、リトが曇りなく笑っていた。
「レオンハルト、頑張ったな。頑張ってかーちゃん守って偉いな。レオンハルトは優しいよ。優しくてかっこいいレオンハルトのままだ」
ああ、あなたは母と同じことを言うのですね。
「いいえ、違います…私は…っ」
私は間違いなく化け物なのです。あなたに捨てられたらと考えるだけで、心の奥底に潜む化け物が心をさいなむ。いつかあなたを傷つけてしまうかもしれない。
「レオンハルト泣かないで。俺、レオンハルトの笑ってる顔が好きだ」
リトの手がそっと頬を撫でる。その時はじめて、自分が泣いていた事に気がついた。
「レオンハルトは化け物じゃない」
ああ、この人がそう言ってくれるなら、私はそうありたいと思う。化け物ではなく、優しい自分でありたいと。
溢れ出す感情が涙になって、はらはらとこぼれ落ちる。吐く息が熱い。
「私も……私もリトが好きです」
震える手でリトを抱きしめた。リトの好きと私の好きが同じじゃないことはわかっている。それでも、抱きしめ返してくれるこの体温を、もう手離せそうにない。抑えきれない希望が、嗚咽へと変わる。
こんな醜い化け物に愛されて、リトが可哀想だ。
『そして王子様と落ち人様は末長く幸せに暮らしましたっ』
物語を紡ぐ母の声がする。
私とリトはずっと一緒だ。一緒だと言ってくれた。
それでも…と思考はいつも同じ場所へと戻って行く。
それでも、リトが誰かを…自分ではない誰かを選んでしまったら?ずっと一緒だと言ってくれたその口で、私を拒絶する言葉を紡いだら?そうしたら私は……私はどうするのだろうか。
私はリトを殺してしまうかもしれない。いや、と考え直す。いや、私はきっとリトを傷つけることはできない。
だからせめて、もしも私を捨てるなら、私を殺してから去ってくださいと強く願った。
「レオンハルト、集中できていない。隙だらけだぞ」
団長はいつも容赦がないなと思う。この人の感情が乱れる所なんて、リトの前でしか見たことがない。
『オーランド、その笑顔の方がいいな!』
不意に先程の殿下とリトの姿を思い出し、自分でも抑えきれない感情が体内に渦巻いていくのを感じた。
王族は簡単に跪いたりしない。殿下はリトに対する強い執着をうまく隠していたけど、私にはわかる。殿下がリトに微笑みかけるその瞳の奥に、自分と同じような仄暗い炎が燻っているのが見えた。この先どうしてくれようか、と今にも飛びかからんばかりの獣の顔だ。
また一人、リトに夢中な男が増えた。
あんな風に、と苦々しく思う。あんな風に普通の友人に接するように笑いかけられたら、優しい言葉を投げかけられたら、誰でも好きになってしまう。醜い外見も身分も関係ない、まるで自分が普通の男になったかのように錯覚する。それがどれほど甘く心の奥底を痺れさせるか、リトにはわからないんだ。
もしもリトが自分ではない誰かを選んでしまったら……。
『リトの世話役になれば今までのように社交界を避けることはできないよ。レオンハルトが表舞台に出れば、伯爵がどう動くかは私にもわからない。覚悟だけはしておきなさい』
帰り際、殿下は私にだけ聞こえる声で囁いた。
「レオンハルトが荒ぶってるぞ」
「最近はなかったのに」
「な、リト様が来てからは落ち着いてたのにな」
「ここに来たばかりの頃のレオンハルトを思い出すな」
汗を拭う。まだ剣の届く距離だったのに団長が剣をおろしてしまった。
「レオンハルト、大丈夫か?」
団長が心配そうにこちらに駆け寄ってくる。この人はいつもそうだ。私がどれだけ距離を取っても、いつも簡単にその距離を飛び越えてくる。
「……大丈夫です」
そう答えて、ぐっと手を握りしめた。
思考が巡る。
リトが誰かを…自分ではない誰かを選んでしまったら?ずっと一緒だと言ってくれたその口で、私を拒絶する言葉を紡いだら?そうしたら私は……。
「レオンハルト!」
団長の大声ではっと意識がそちらに向く。
「今日はもう戻っていい。リトに心配をかけるな。意味はわかるな?」
「……はい」
団長、そんなに心配しなくても大丈夫ですよ。私はまだ大丈夫です。アレもちゃんとコントロールできてます。
だってこんな力、リトに知られてしまったら嫌われてしまうから。
リトの部屋へ向かう足が止まる。廊下の窓から見下ろせる庭園の四阿で、リトの美しい黒髪が風に揺れているのが見えたからだ。
「…外で寝るのはやめてくださいとあれ程言ったのに」
慌てて足早にそちらに向かうと、あいつの気配がする。
団長がユアンをリトの護衛につけているのは知っていだが、それでもリトの一番近くには私がいたい。
「ん……」
リトが身じろいで、少しの苛立ちが瞬時に分散する。
「リト…起きてください。リト」
顔を近づけると、ふいにリトが目を開いた。透き通るような、私の大好きな夜の闇色。
「あれ、レオンハルト?…さっきさ、ここに誰かいなかったか?」
ユアンの気配が動揺したように動く。姿を見せたのか?影は姿を表さず護衛するのが鉄則のはずなのに…ユアンにしては珍しい失態だ。そちらに意識を向けながら、でも私は何事もなかったかのように微笑んだ。
「いいえ、ここには誰もいませんでしたよ」
「そっか……」
ユアンの事など、リトは知らなくていい。私だけを見ていてほしい。願いが通じたのか、リトがじっとこちらを見つめる。
「……レオンハルト、顔色悪いな。何かあったのか?」
「いえ…何もありませんよ」
「いいから、ここ座れ」
腕を引かれリトの隣にぽすんと座る。子供を甘やかすように、頭を自分の肩の上に引き寄せるリトに素直に従った。こんな時、本当にどうしていいかわからなくなる。こんな温かさを、私は知らない。
リトは天然の人たらしだと思う。普段と変わらない無邪気さで、心の奥底にしまっておいたはずの箱を簡単に開けてしまう。
寒い冬の夜、母ともよくこうして身を寄せ合った。
どうして今、あの頃の事を思い出してしまうんだろう。
口から溢れる息が震える。手足が酷く冷たくて、きっとひどい顔をしているはずだと思う。リトに見られたら、また心配させてしまう。顔を隠すようにリトの小さな肩に顔を埋めた。
「レオンハルト?」
ぐっと歯を食いしばって、何でもないように装う。
「眠いのか?こら、また俺の肩を枕にしやがって」
お前でかいから重いんだぞ、と口を尖らすリト。肩をさすりながら迷惑そうに私を見やる。だけどその視線は温かい。リトの側はいつも温かくて優しくて、それは私の心をどうしようもなく掻き乱す。
ふと黙り込んだリトが何を思ったのか徐に私の頭を掴んで膝に乗せた。
「うたた寝する時は、肩じゃなくて膝にしてくれ。これ膝枕って言ってな、俺の世界では男の夢なんだ。レオンハルトには特別だぞ」
さらさらと髪を掻き混ぜられる。溢れそうになる感情を堪えることができない。
『ほら、あの王子様と落ち人様のように、いつかレオのことを愛してくれる人が現れるかもしれないだろう』
目を閉じると、また母の声がする。忘れようとしても追いかけて来るように、箱の蓋が閉じず記憶がこぼれ落ちてくる。
今日の私は変だ。殿下とリトの姿を見てから、心が乱れている。
「レオンハルトは本当に綺麗な髪だよなぁ」
この呪われた一族の証である髪を綺麗などど言ってくれるのも、きっとリトだけだ。本当の事を知っても、リトは変わらずこの髪を撫ぜてくれるだろうか。
「私のこの髪は、ユナ民族である証なのです」
「ユナ民族?」
「はい、私は…」
起き上がってリトと向き合う。頬を冷たい風が冷やしてしまい、リトの温もりが消えた事を口惜しく思った。
「見てもらった方が早いと思うので…」
そうして、そっと目を閉じる。
意識を集中すると、体内に常に渦巻いている力を感じる。それを全身に巡らせると、カッと熱鉄を押しつけられたような痛みが巡った。
ユアンがいつでも動ける体勢に入ったのが気配で伝わる。
大丈夫だよ。リトを傷つけたりしない。あの時のように暴走させたりしない。
全身の血液が沸騰するように熱くなり、黒い霧が己の身から溢れ出すのを感じた。
目の前のリトが息を呑むのがわかった。
この黒い霧は私の血液だ。ユナ民族は自分の血液を相手の体内で沸騰させる事によって敵を屠る。辺境の小さな集落で暮らすユナ民族は、そうして戦の絶えない時代も細々と生きながらえてきた。時には国に兵器として重用されていた時代もある。
母はそのユナ民族の末裔で、ユナの血を何かに利用できないかと欲した父が、自分のハーレムに半ば無理矢理入れたのだ。
「しかし私を生むと母の力は消失し、用済みとばかりに別邸の地下に閉じ込められました。ハーレムにいる他の妻達のご機嫌取りでもあったのでしょう。私が生かされたのは、単純にユナの血を受け継いでいるからに過ぎません」
そっと霧を体内に戻していく。この霧は、吸っただけでは殺傷力を持たない。霧を出した本人が攻撃する意思を持ってはじめて、人に毒となる作用を及ぼすのだ。ユナの人間は感情が高まると黒い霧が体から溢れる。何も知らない人間にとって、その姿はひどく禍々しく映ることだろう。
呪われた民族、穢れた血。それらはユナ民族の事を揶揄する言葉だ。
じっと私の話を聞いていたリトが、レオンハルト、と呼ぶ。
「レオンハルト、こっちを見てくれ」
「まだ…まだ、話していない事があります。私は子供の頃、この力で人を殺めたことがあります。きっかけは母を守る為でしたが、私はあの瞬間、確かに楽しんでいたのです。私は化け物です。ユナの血が侮蔑を込めて穢れた血と呼ばれるのは、それだけの理由があるのです」
リトの顔を見る事ができない。もしリトの瞳の奥に、少しでも私を恐れる感情が見えてしまったら…。
「うん、ちゃんと聞くから。だからこっちを見て」
レオンハルト、と優しい声がする。恐る恐る上げた顔の先、リトが曇りなく笑っていた。
「レオンハルト、頑張ったな。頑張ってかーちゃん守って偉いな。レオンハルトは優しいよ。優しくてかっこいいレオンハルトのままだ」
ああ、あなたは母と同じことを言うのですね。
「いいえ、違います…私は…っ」
私は間違いなく化け物なのです。あなたに捨てられたらと考えるだけで、心の奥底に潜む化け物が心をさいなむ。いつかあなたを傷つけてしまうかもしれない。
「レオンハルト泣かないで。俺、レオンハルトの笑ってる顔が好きだ」
リトの手がそっと頬を撫でる。その時はじめて、自分が泣いていた事に気がついた。
「レオンハルトは化け物じゃない」
ああ、この人がそう言ってくれるなら、私はそうありたいと思う。化け物ではなく、優しい自分でありたいと。
溢れ出す感情が涙になって、はらはらとこぼれ落ちる。吐く息が熱い。
「私も……私もリトが好きです」
震える手でリトを抱きしめた。リトの好きと私の好きが同じじゃないことはわかっている。それでも、抱きしめ返してくれるこの体温を、もう手離せそうにない。抑えきれない希望が、嗚咽へと変わる。
こんな醜い化け物に愛されて、リトが可哀想だ。
『そして王子様と落ち人様は末長く幸せに暮らしましたっ』
物語を紡ぐ母の声がする。
私とリトはずっと一緒だ。一緒だと言ってくれた。
それでも…と思考はいつも同じ場所へと戻って行く。
それでも、リトが誰かを…自分ではない誰かを選んでしまったら?ずっと一緒だと言ってくれたその口で、私を拒絶する言葉を紡いだら?そうしたら私は……私はどうするのだろうか。
私はリトを殺してしまうかもしれない。いや、と考え直す。いや、私はきっとリトを傷つけることはできない。
だからせめて、もしも私を捨てるなら、私を殺してから去ってくださいと強く願った。
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